044 生徒同士となって
男子更衣室に案内してもらい、さっそく袖を通してみる。サイズは事前に連絡していたのでぴったりだった。
側に鏡があったのでマジマジと見てみた。
クロス・エルフィドという名前は前世の名前とは違う。
そして見た目の姿や形も前世通りの成長とはいかなかった。
人の成長はその環境に左右されると聞くから当然じゃ。同じように育つはずがない。
だから今の儂は本当にクロス・エルフィドなんだと思う。
正直、前世の15歳の儂の姿なんてもう覚えてもおらんが。
「母上、父上、ルーナに見せてみたいのう。喜んでくれるじゃろうか」
そんなこと思うのが第二の生として全うに生きているということなんだろう。
家族や帰る場所があるということは本当に素晴らしい
「シャルーンすまぬ、待たせたな」
更衣場のすぐ外にいると思ったら、シャルーンは複数の生徒に囲まれていて、ワイワイ話をしていた。
皆、シャルーンに対して好印象を持っていて、いかに彼女が人気者であるかが分かる。
儂もこの王都で住み始めてたくさんの噂を聞いてきた。
今は紅蓮の剣聖姫と呼ばれているそうじゃな。やはり赤トカゲ討伐の最後の一撃を彼女に譲ったのは正解だったのじゃろう。
儂のやったことはきっと間違いではない。
だからシャルーンのことを考えるのであれば儂はあまりに近づき過ぎない方がいいのかもしれない
「あ……」
シャルーンと目が合う。
それは何かを訴えるような瞳。
ふぅ……。そんな瞳をされたらやるしかないじゃろう。
儂は強引に民衆をかき分けて、シャルーンの手を引っ張った。
「行くぞ」
「うんっ!」
「なっ! あの男なんだよ! シャルーン様っ!」
「あ~ん、シャルーン様ともっとお話したかったのにっ」
「男の野郎、許さねぇ」
シャルーンの手を強引に引っ張り、人通りない所まで連れて行く。
誰もいない外の通路で二人、息を整える。
「無理矢理連れ出したが、もし儂の予想が間違っていたなら悪かったのう」
「……」
「強引に連れだしたのは儂じゃからおぬしに悪評が立つことはないじゃろう」
シャルーンの顔をのぞき込む。
「うっへっへっへ」
とろけておった。
「あんな強引に引っ張られたきゅんとしちゃうよぉ。私、乙女になっちゃう」
「喜んでおるのか、悦んでおるのか分からんが……まぁええか」
「クロス、こっちで座ろっ!」
シャルーンは儂の手を引っ張って、近くのベンチへと向かう。
「制服よく似合ってるね。ハヤブサの作業服もかっこいいけど、学生服もいい感じだわ」
「そう言ってもらえるなら嬉しいのう。あまり縁のない着衣ゆえに落ち着かなくてな」
215年生きた儂が学生服とやらを着ている現実に驚愕する。
2週間の内に慣れるんじゃろうか。
「シャルーンは王都だけでなく学内でも人気なんじゃのう」
「そうね。私も入学してから正直びっくりしたわ。今、王国は様々な脅威に揺れているから、英雄を人々は求めているの」
「ふむ」
儂は一般人ゆえに王国に迫る脅威というのがよく分からんが、国を守る王族は大変なのじゃろうな。
「クリムゾンドラゴンを倒せたことが大きいみたい。あれを倒せたのはあなたのおかげなのにね」
そうやって自虐したように言うが儂はシャルーンの上から下までゆっくりと見据えた。
「今のおぬしなら一人でも倒せるんじゃないか。あの時からおぬし腕を上げたな」
「っ!」
「相当な訓練を積んでおる。正直見違えたぞ」
「……。分かるんだ。やっぱりあなた凄いわ」
才能のある若者は成長の伸びが半端ないもの。
シャルーンにいたっては少しの時間も惜しまず鍛錬に精を出したんじゃろう。特に目標があればあるほどモチベーションに繋がる。
「クリムゾンドラゴンの討伐をイメージして、あなたの動きを再現できるように鍛錬したわ。あくまでイメージだから実際に倒せたわけじゃないけど……前みたいな不覚は取らないと思う」
「大丈夫じゃよ。今のおぬしならきっと倒せる。儂は想像できるよ。勝利し、美しく民を導くおぬしの姿を」
シャルーンの若者の成長が嬉しくて儂は思わず笑ってしまった。
ふと視線を向けるとシャルーンの頬に赤みが出る。
「私、あなたに褒められるのすごく嬉しいみたい……。胸がきゅんと来る」
ぎゅっと繋いだ手が強く握られる。
「痛いんじゃが」
「ふふふ、このまま手を繋がせて……」
うっとりしている所悪いんじゃが握力が半端ない……。儂じゃなかったら骨が砕けておるぞ。
王国王女がこれでえーんじゃろうか。うむ、話題を変えよう。
「ところでスティラも明日には来るんじゃったか?」
「あ、うん。その予定」
今回の仕事の依頼、スティラにも連絡がいっているようで彼女は明日の朝からこちらに来るらしい。
「だから今日の間に距離を縮めないとね」
シャルーンはじりっと儂の方に近づいてくる。
儂の肩に体を寄せて預けてくる。
「……」
「……」
ふむ、随分甘えてくるのう。こうやって長く話せたのは久しぶりだったからか。
まぁ、孫が甘えてくると思えば悪くない感情じゃ。
しかし繋がれた手がとんでもない握力でまったくびくともしない。
「あらっ、姫様。こちらにおられたんですの」





