043 シャルーンからの誘い
「クロスきゅぅぅぅぅん!」
「今日は何ですか社長」
「いい加減休んでよぉぉぉぉぉっ! 何連勤してるのっ!」
「安心してくだされ。儂は元気なことだけが取り柄ですので一ヶ月でも二ヶ月でも働きますぞ。若い頃は苦労してこそ成長するのです」
「その発想が駄目なんだよ。働き方がおかしいよ!」
「24時間働けますかが基本ではないのですか!」
社長がすごい顔で儂に注意してくる。
「ただでさえ1日あたり3,4人分くらいの働きするのに毎日毎日毎日売り上げしちゃってぇぇぇ」
「会社の経営的には良いのではありませんか」
「私の経理業務が大変なのっ! いくら効率化しても限界あるよ!」
確かに儂が働けば働いた分、社長は同じ分業務処理をしなければならない。
社長も相当に優秀な人なんじゃが、限度があるもんじゃ。
「私は引きこもりだけど引きこもりを強制されるのは嫌なのーっ!」
「では外に出ればいいのではありませんか」
「外はもっと出たくないっ! やだやだやだっ、仕事しない引きこもりがいいの!」
何という我が儘。29歳とは思えない言動じゃ。
社長じゃなければ見捨てようかと思う所だが、捨てると社長は死ぬので捨てられない。
「これはある意味共依存という奴なんじゃろうか」
そっちの分野には携わってこなかったが精神を治療をする薬の作り方を覚える時が来たかもしれん。
「だからクロスくんはしばらくお休み! 私もお休みするの!」
「はぁ」
「お休みしてる間はアスちゃんとイチャイチャするもんねぇ」
「ミャーー」
「うむ、アスタロトよ。おぬしもすっかり社長の愛猫になったな」
尻尾が三本生えたクロネコ……いや、異界の魔神も満足そうに抱かれている。
闇を好む魔生物。儂よりも社長を好む時点で社長の潜在闇がいかほどかを察することができる。
社長がふいのフラッシュバックで若い頃の黒歴史を思いだし、闇を生み出す。
それを魔神が食べてエネルギーとして、社長がすっきり明るくなる。
この永久機関をもっと別の可能性に派生できないものだろうか。
200年生きた儂より闇が凄いって社長は筋金入りじゃな……。これも若者の可能性ってやつなのかもしれない。
カランと事務所の扉が開いた。
そこに現れたのは銀髪ロングが似合う非常に可憐な容姿の女の子。
今日は騎士鎧ではなく、小洒落た服に身を包んでいた。
「シャルーンか。何か用かのう」
「用が無きゃ来ちゃダメなの?」
「王女は用がなきゃ普通来ないと思うが。しかも護衛無しとは不用心な」
「護衛いる?」
「おぬしならいらんな」
第二王女にして王国騎士のシャルーン。
本来ここに来るような人物ではないのじゃが週1くらいで確実に現れる。今日はいないがもう一人別の子も週1で顔を出しに来る。
二人とも王国の希望ということでかなり忙しい毎日のはずなんじゃが。
「ねぇクロス。長期休暇とか取れない?」
「取れん」
「あの社長さん。3週間ほどクロスって休暇を取れないでしょうか」
「ひゃいっ!……。1ヶ月でも2ヶ月でも御使いくださいませっ!」
さっきの我が儘放題だった社長もシャルーンのようなキラキラ女子が来ると縮こまる。
そして2ヶ月もここを開けたら倒産してしまうぞ……。
「休暇は冗談として3週間のお仕事として依頼してもいいから手伝って欲しいんだ。どうかな?」
「良いぞ。働きすぎと言われておったし、長期の仕事なら処理も少なくなるしむしろ歓迎じゃ。話してみ」
◇◇◇
そして翌日。
儂は軽い荷物だけ持ってこの場所に来た。
そこは王都の中央区に位置する王立学園。王国最大の規模を誇る学校だった。
15歳の成人から入学することが出来、三年間様々なことを学ぶための学校だ。
王族も貴族も平民も他国の生徒も受け入れており、その生徒人数は驚くべきばかり。
もちろんそれなりの学費が必要だし、入学試験も難関なので軽々入ることはできない。
王立学園の校門のゲートの前に集合と言われたが、なかなかやってこない。
欠伸をして待っていると一人の生徒が階段から降りてこちらにやってきた。
「ごめんねクロス、待った?」
「待ちくたびれて……ほぉ」
声の主は当然、儂を呼び出したシャルーンであることはすぐ分かる。
ただ様相はいつもと大きく変わっていた。
王国騎士としてのイメージではなく、白く煌びやかな学生服に身を包んでおり、ゴシック調のスカートから白い生足が見えていた。
姫君という絶大な美貌を考えるならこれ以上に美しいものはなかなか無いだろう。
「制服姿、よく似合っているじゃないか」
「そうでしょ。この学園の制服は可愛くて人気なのよね」
「しかしスカートの丈、短くないか。屈めば見えるんじゃないか」
「ちょ、わざわざ屈んで見ようとしないでよ!」
別に見たいわけではないんじゃが、親心的な心配じゃろうか。
問題ないというのであればそれで良いじゃろう。
「これ持ってきたから。はいどうぞ!」
シャルーンが持ってきたもの、それはこの学園の男子制服であった。
「ふむ、これが王立学園の制服か」
「クロスは日曜学校にも通ってなかったんだっけ」
街に住んでいる者達は成人するまではフィフス教の日曜学校で勉強を受けることができる。
シャルーンやスティラのように大きな街に住んでいたものはしっかりとした教育を受けられていた。
しかし地方はそうはいかない。ある程度の村であれば巡回神父が訪れるので多少マシだが、サザンナの里のような秘境地は碌な教育など受けられない。
儂も字を読んだり、書けたりできるようになったのは前世でも成人してかなり後じゃった
未だこの世は識字率も低いし、教育にも飢えている。
王立学園の入学は最低限識字できないと話にならないのでその時点でハードルが高い。
前世の儂では話にならなかったじゃろうな。
「ああ、3週間だけとはあるが楽しみじゃな」
「うん、私もクロスと一緒に通学できるの楽しみだよ」
シャルーンの笑顔に朗らかな気持ちになってくる。
そう、今回はお仕事の依頼をこなすため、学内を自由に動き回る必要があった。
それで3週間の短期入学といいう選択肢が出てきたのだ。
もともと学校で学びたい気持ちはあったので提案された時は嬉しかったのも事実。
前世ではとても通うことのできる状況ではなかったので、新たな生で通えるチャンスが出来て良かった。
2章は学園編プラス王都編って感じになります。
学園に入学しないフラグをやったばかりでしたが、短期での学園生活は普通の学園モノとは違うストーリーになると思うので読んで頂けるとうれしいです。
毎日投稿は変わりませんので宜しくお願いします。





