039 結社壊滅編~猛毒~
結社サザンクロスのエージェント【毒薔薇】ミドオルズは慌てふためく艦船の中でのんびりと欠伸をしていた。
黒の構成員の話では【剛拳武人】アリューシュが為す術もなく倒されたという話だ。
しかしそれでもミドオルズは慌てない。彼女の恐ろしい所はそこではないからだ。
セクシーなドレスに身を包み、色っぽい仕草が似合う妖美な魔女。
毒薔薇という二つ名の通り、ミドオルズは毒のスペシャリストだった。
かつては薬師として勤労に励んでいた彼女だったが生まれつき欲があった。
薬よりも毒をこよなく愛していた彼女は患者に毒を投与していたのだ。
ばれないように少しずつ、毒で傷んだ体を薬で治し、さらに強い毒を注入する。
もちろんバレないはずがなく彼女は薬師業界から追放されることになる。
その後結社に拾われた彼女は毒について研究を深め、極めて強力な毒術を生み出していた。
それだけではなく薬師時代に覚えてた糸の扱いを極め、鋼の糸を自由自在に操り毒を注入していく戦闘スタイルを確立することになる。
戦闘能力でいえばアリューシュに及ばないがその毒の恐ろしさは大きなアドバンテージとなっていた。
「ミドオルズ様、もうすぐで敵が……うっ!」
ばたんと黒の構成員が倒れてしまう。
そう、彼女のいる部屋はすでに空気感染してしまう毒にまみれている。
少しでも吸えばあっと言う間に体が麻痺して動けなくなる。
だが意識ははっきりしており、痛覚は倍増という恐ろしい効果を持っている。
初見でこのトラップをくぐり抜ける人間はいないだろう。
ゆえに待つだけで勝利できるこの状況に何の不安もなかった。
「ここは……どこじゃ」
かかった!
ミドオルズはクロス・エルフィドがこの部屋に入った時点で勝利を確信している。
あとは十分に呼吸をさせ倒れたらまだ若い体のクロスを彼女の好みの拷問で口を割らせてやろうと思っていた。
しかし。
「おぬし……見た目的にも役職付きじゃな。だが、役員ではなさそうだ」
「え、ええ……。【毒薔薇】ミドオルズよ。ようこそ運び屋のボウヤ」
「儂はおぬし達の上司、役員に用があるのじゃが通してもらえないか」
なぜ倒れない。ミドオルズは予想しない展開に焦りを見せる。
毒の濃度を増し増しにして部屋の空気を汚染させる。
「む?」
(来たっ)
「ところで随分と露出の激しい格好じゃが、若いとはいえ……むやみに肌をさらすものではないぞ」
「……」
何も変わらない。
これだけの濃度の毒霧を充満させているのにクロスは何の影響もなかった。
ミドオルズは方針を変える。
「どうやら毒対策をしているようだね。だけど……毒の恐ろしさはこれからよ!」
ミドオルズは部屋全体に糸を張り巡らせた。
糸には様々な種類の猛毒を染みこませており、少しでも触れればあっと言う間に体は腐食していくことだろう。
「動けなくして、拷問してやろうと思ったが気が変わったよ。死んでしまいなっ!」
ミドオルズの放つ毒は傷が付かなくても肌に触れれば侵食していく。
防御を貫通しなかったとしてもその毒で体をおかしくできるのだ。
「すまんが何をしたいんじゃ。この糸も別に相手を斬り裂くようなものではなさそうだし」
クロスは糸をペタペタと触れていく。
ミドオルズは馬鹿めと思いにやりとする。あれだけ触れば大量の毒が浸透していくはずだ。
しかし、クロスに変化は見られない。
「な、なんでっ! 毒にやられるはずでしょう! どうして毒が効かないの!」
「毒? ああ、何か部屋の中に充満してるなーっと思っておったわ。すまんが儂は万能薬を作るためにあらゆる毒を浴びて耐性を得ておるから何も効かんぞ」
「毒に耐性? へっへぇ、じゃあ毒比べといこうじゃないか。アタシの知る限りの毒を全てぶちこんで効かないなんて言葉を嘘にしてあげる! アタシはこの世の毒の全てを知るんだから!」
「ほほぅ。全てを知ると申すか。それは実に興味深いのう。ならば儂のお気に入りの毒を紹介してやろう」
クロスは無限収納バッグに手を入れる。
一瞬アリューシュの首が出てきたことにミドオルズはびっくりしたが間違えたらしく、そのまま鞄の中にぶちこんだ。
そして瓶を三つほど取り出す。
「こっちは魔界の毒セット、そっちは異界の毒セット。こっちは天界の毒セット」
「は?」
「さすがにこのくらいは知っておるじゃろ。全てを知るなら」
ミドオルズはそれらを見て、ぞっとした。
自分のまったく知らないナニカがそこにはあったからだ。
あまりも恐ろしく目が勝手にフィルターをかけてしまいそうなほどの恐ろしいナニカだった。
「そ~れ、散布、散布! 毒祭りとしようじゃないか」
クロスはそれらの瓶を開いて、へらで少量混ぜ合わせて、空気中に散布する。
「いや~。儂、毒に興味があってのう。もし良ければいろいろと話しあわんか。全てを知るんじゃったら儂の知らぬ毒も教えてほしいぞ」
散布された瞬間ミドオルズの体に異変が起きた。
得体も知れないナニカが自分の体を襲っていると……感じた瞬間、体から血が吹きだした。
「い、いやああああああっっ!」
「どうした? 毒を全て知ってるならこんなのわけないと思うが」
「知るはずないでしょっ! なによそのその毒、知らない、知らない、知らなああああああい!」
「なんじゃ結局毒エアプという奴かぁ。まぁそんな若いのにあらゆる毒を知ってるはずないわな」
「ああああっ、やだぁ……ああ、死にたくないっ!」
脳すらも作り替えてしまいそうな恐ろしい毒の動きにミドオルズの体は大混乱に陥る。
全身は腫れあがり、血は吹き出し、体から何かが生まれそうなほどの衝撃が駆けめぐっていた。
「た、たすけ……」
「大丈夫じゃよ。そういう可能性も予想しておったから死なない程度の毒にしておいた。安心せい」
「いいいいいっぃぃぃぃ、あ、悪魔ぁぁぁぁ」
「でも娘っ子には可哀想じゃし、解毒薬を打ってやるわい」
クロスはミドオルズの口の中に解毒の粉薬を注ぎ込む。
「すぐに効くから安心せい。いやぁ儂もこの薬を作るために毒をくらって2ヶ月昏睡状態になったことがあるから大変じゃったわ」
この男は狂っている。ミドオルズは恐怖に震えた。
ミドオルズが発狂しそうになった毒部屋の中でもクロスは難なく動いていた。このわけがわからない毒に耐性があるのは間違いない。
ミドオルズの体から毒が抜け、症状が沈静化していくのが分かる。ミドオルズはゆっくりとクロスから距離を置く。
「へ……へ……、このクソガキぃぃ! アタシを馬鹿にしやがって」
「馬鹿にはしておらんぞ。まぁ思ったより知識が足りないのが残念でならぬが。もっと勉強しなされ」
「うるさいっ! 次、会ったら絶対絶望させてやる! アッハッハッハ!」
ミドオルズの地面に陣が浮かび上がり、その体が消えていく。エージェントにしか使えない転移魔法であり、ミドオルズはこの場から逃げ去ってしまった。
一人ポツンとクロスはこの場に残される。
「逃げられてしまったか。しかしこの空間転移は個人の識別情報を決まった場所に送っているだけのようだ。ファストトラベルよりは複雑じゃなさそうだな」
クロスは二本の刀を抜く。
そしてシュシュシュっと刀を振る。
「――――戻し」
それと同じに空間転移したはずのミドオルズが戻ってきた。
「アッハッハッハ……アハ?」
高笑いしていたミドオルズだが、行こうとしていた場所ではなく、今までいた艦船であることに気づく。
恐る恐る後ろを見るとクロスがいることに顔を大きく発狂させる。
「また会えたのう。次会ったから絶望させてくれるかな」
「いやああああああ、ナンデェ! ナンデェ! 戻ってるぇ、転移ぃっ! 転移っ!」
「戻し」
再び転移して逃げるがリバースで戻されてしまう。
時空剣術で転移先の情報を書き換えることにより強制的にUターンさせているのだ。
なのでミドオルズはクロスが剣術を使う限り、転送先に行くことができない。
クロスはポンとミドオルズの肩に触れた。
「転移で逃がすはずがなかろう」
フラグクラッシュその③ 転移逃走のフラグをぶった切る。
ソシャゲでも敵キャラだけ転送で逃げるのズルくないですかね。
なので阻止してみました。!





