035 結社壊滅編~始まり~
ハヤブサに入社して一ヶ月が過ぎた。
仕事は正直に言うと非常に楽しく、前世でほとんど人の関わりのない生活をしていた儂にとって日事に人と触れ合っていくのは得がたい経験だったと思う。
どうして儂は200年の人生をもっと人の友好に使わなかったのか、今更になって後悔していた。
チャンスは幾度となくあった。旅の先々で命の危機に瀕した小娘や小僧共を助けたことは多々あった。リドバがいい証拠だろう。
あの時、奴にエクスポーションを渡しアドバイスをしていたら違う未来もあったんじゃないかと思う。
過ぎたことを考えても仕方ない。
他社ではあるが別の配送屋からの評価も上々。
儂が15才だということもあり他の会社の運び屋からは相当に可愛がってもらっている。
その理由は才能がEランクであることも大きい。
運び屋は特別な能力を必要としないので才能ランクD以下の人が非常に多い。
才能の有り無しに支配されてしまっているような気もする。大事なのは努力してやってきたことだというのに……。
大手配送社の受付に行く。
ここで全ての運び屋が自分の能力、体調に応じた案件を選んでいくのだ。
その選んだものを仕事として受注する。
この仕組みをトラブルなく組み込んだ社長は本当に凄いなと思う。
「あら、クロスちゃんいらっしゃい」
「キュウハ殿、こちらとこちらの案件をお願いする」
「私の所に来てくれるのはクロスちゃんだけよ。他は若い子ばかり行くんだから」
受付係も何人かおり、男の性的にはどうしても若い女の子に会いたいという気持ちが強いらしい。
儂も年下好きではあるが、最低50歳は超えてないと恋愛対象にならないので今日もこのキュウハの所へ行く。
「儂はそなたに会いに来てるのじゃからな。当然じゃ」
「嬉しいこと言ってくれるねぇ。おばちゃんにそんなこと言ったら勘違いされるよ」
「むしろ勘違いされたいのじゃが……」
「もー! 若い頃だったら舞い上がっちゃうのにねぇ」
若い頃じゃ駄目なんじゃ、今じゃなきゃ!
しかしキュウハは旦那がおり、子供も3人いる。もうすぐ孫が生まれるらしい。当然深い関係になるわけにはいかない。
こうやって軽口で口説くのみよ。
どこか70歳頃の手つかずで美しい女性はおらぬものか……。
キュウハに受け付けをしてもらい運び屋の仕事を開始する。
運び屋の運ぶモノは本当に多岐に渡る。
手紙から日用品、そして今回のようにギャンブルの一つである魔獣車レースの車券を買って持ってこいってのもある。
長期の仕事で車券を買えない人も多いので致し方ないのだ。随分グレーな気もするが。
「届先が王都の外れにある廃墟か……」
当たり前じゃが運び屋は届け先が遠距離すぎるのを嫌がる。
数を稼ぐなら王都の中心街がいいし、辺鄙な所にいると効率が悪い。
儂はそういった辺鄙な所に行きたいので積極的に行くようにしている。
今回は王都の中でも治安の悪い下街を通り、王国騎士も積極的に見回りにこない場所だったりする。
「ひゃっはー!」
「うるさい」
「ごへっ!」
治安が悪いので当然、追い剥ぎなどにも遭うがこの儂がやられるはずもなく、すぐに目的地に到着した。
明かりの灯らない、真っ黒な廃墟。
廃墟の割には中に多くの人がいるような気がする。
匂いもずいぶんと油臭い。だが無用な詮索はあまりするべきではないな。
さっさと仕事を終わらせないと。
廃墟の入口に4人の若者がたむろっておったので声をかける。
ここにおったというよりはこの先に近づかないよう守っているという感じじゃ。
「配送屋ハヤブサじゃ。トール殿はこちらにおるかのう」
「あん?」
随分とガラの悪い小僧が反応してきた。
「注文の商品をお届けに参った。確認頂き、料金をお支払い頂きたい」
「おいおい、トール。何買ったんだよぉ」
「車券。帰ってからじゃ間に合わねーからよぉ」
トールという小僧は届け物をひったくり、中身を確認する。
小僧は一瞬にやりとして、中身をポケットに突っ込む。
「おい!」
そして突然大声で怒鳴りつけてきた。
「買ってくる車券の番号が違うじゃねーかっ!」
「ちゃんと確認したぞ。その番号で間違いなかろう」
「違うったら違うんだよっ!」
「出たよトールの業者虐め。そんなガキをいじめてやるなよぉ。ギャハハ」
配び屋をやっているとこういうのは日常茶飯事である。
先代も苦労されたそうだ。仕事をこなしても客が金を払うの渋ったり。悪い時は刃物をちらつかされることもあるようだ。
ただ分かってると思うが、儂の回収率は100%である。
そのへんを小僧共は分かっておらん。
「ちゃんと依頼はこなしたんで車券分と配送費用を払ってもらうぞ」
「間違ったもん送ってきてんだから払うわけねーだろ!」
「ちゃんと依頼はこなしたんで車券分と配送費用を払ってもらうぞ」
トールという小僧はぴくりと頬をひくつかせた。
そして拳を振り上げる。
「ガキが舐めたマネをしてんじゃねーっ!」
真っ直ぐ飛んできた拳を儂は……。
「ひょい」
指一本で止めることにした。
儂をガキと思って未払いで押し切れると思ったんじゃろう。
あまあまじゃよ。
「ぐぐぐぎぎぎっ」
「なんじゃ弱いのぅ。鍛えておらねばこんなものか」
儂は小僧にデコピンくらわす。
「あんぎゃっ!」
デコに跡が残るほどの痛みに耐えられなかったのか……小僧は大きく跳ね上がった。
儂は小僧に近づく。
「法により、運び屋への暴力は割増し料金にして回収してやっても良いのだぞ。それか支払い拒否で騎士団の本部へ行くか? 儂が連れていってやる」
「わ、分かった。払うからっ!」
客に舐められてはいけない。味をしめると他の運び屋が困るからのぅ。
「なんだ……あのガキ」
ちゃんと状況を把握してるならそれで良い。儂も悪魔ではないからな。
とっとと回収して帰るとしよう。
「ん?」
キキッーーと車輪が軋む音がして、突然この場に魔獣車が飛び込んできた。
しかし馬型の魔獣が興奮しているのか、スピードを緩められず、魔獣車が横転してしまった。
引っ張っていた荷台が壊れてしまい、中からモノが飛び出す。
儂らの目に飛び込んできたのは魔法力を弾として変換する導力銃であった。
一般的に出回ってない代物で誰が見ても曰く付きだということが分かる。
「いてて……」
魔獣車に乗っていた男達が降りてきた。
顔を隠し、黒色の鎧に身を包んでいる。
装備と見た目的に猟兵だろうか。
「だ、大丈夫っすか!」
トール達4人の若者が猟兵に慌てて近づく。
なるほど、猟兵はあの若者共の雇い主のようだ。
「おまえら……荷の中身を見たか」
「え」
「今、見られるわけにはいかないんでな。口を封じさせてもらう」
その瞬間、猟兵達が抱えていた導力銃を乱射し始め、4人の若者の体を打ち抜いてしまったじゃないか。
若者達はばたりと地面に倒れ込む。
「あぐ……」
「うぐ……」
導力銃の射撃で即死することは少ないが治療が遅くなれば死に至る。
2人の猟兵が儂の存在に気づき、近づいてくる。
「運び屋か? 運の悪いことだな」
「見てしまったからには生かしておかぬ」
「貴様ら……」
儂は横たわる小僧達を見て、強い視線を猟兵達に浴びせた。
これだけは言わねばならん! 絶対にだ。
「まだ小僧から料金を回収しておらんのだぞっ! どうしてくれる! 賠償してもらう!」





