030 運送屋の女社長②
「ただいま戻った! これが終了の受領書と売り上げじゃ」
「ありがとう。じゃあ受け取るね」
何件こなしてくれたのかなぁ。
クレームとか受けてなければいいけど……って。
「10件っ!?」
「今日一番大きな声が出たのぅ! うーむやはり初めてゆえに上手くいかんかったわ。明日はその倍働いてみせよう」
「ちょっと待って、1件ここから歩いて10時間くらいかかる所があるんだけど!」
「儂なら1時間で行けるぞ」
何なのこの子……。
初めてなのに全然疲れた感じもないし、お金もばっちり回収している。
クレームもないし……下手すれば父よりも凄いかもしれない。
「試用期間はどれくらいになるんじゃ。あまり長すぎるのであれば違う会社も」
「採用」
「え」
「クロスくんを正式に運送屋【ハヤブサ】に採用します」
この子は逃してはならない。
直感で分かってしまった。
「どこも才能Eランクってことで雇ってもらえなくて助かるぞい! では正式な雇用契約をさせてもらえるかのう」
書面で契約を交わし、クロスくんはハヤブサの従業員として働いてもらうことになった。
お給料は成果報酬も含め、クロスくんに説明。特に不満などはなさそうで安心した。
「ではアイリーン殿。ではない、社長! 宜しく頼む!」
若い子に社長って言われるの気持ちいいっ!
今までまともな扱い受けてこなかったから最高!
「受付の者からこのペースで仕事をこなせば凄い業績になるかもって言われたが」
「うん。このペースを一ヶ月続ければ大手に負けないかも。でもクロスくんも私も業務で死んじゃうから駄目」
「儂はまったく問題ないが、社長が体調不良になるのはまずいな」
この件数を毎日やってたら発狂してしまう。
私は基本的に仕事をしたくないのだ。
引きこもって生きていたい。
「でももったいないのう。業績を上げれば会社の名が広まって、社長の知名度が上がると思うんじゃが」
「え?」
「最近は運送業も活発になってきていて、取材が増えているようじゃ」
「つまり知名度が上がるってことは敏腕美人セクシー女社長……って言われる?」
「う、うむ。ん、美人セクシー?」
その内取材とか受けたりして、雑誌に載ったりする?
ちまたで噂の敏腕女社長にインタビュー!
その雑誌が重版されまくって、王都中にハヤブサと私の名前が売れて……王族や名高い実業家からプロポーズ!
「ぐへへへへっ、ぐへっ! そんな逆ハーレムだなんてぇ。だめぇだめぇ」
「なるほど。社長はコミュ症じゃが承認要求の方が上なんじゃな」
「クロスくん、お仕事しようか! 目指せ王都一の運送屋!」
「社長は野心家なのじゃな。でもコミュ症を治してからの方がええと思うぞ」
有頂天になってた私だがコミョ症ぼっちの私が取材なんか受けられるはずが無いと気づき、再び引きこもりたくなってしまう。
クロスくんが入る会社を間違えたばりに私を見ていてさらに現実逃避したくなった。
「ところで気になってたんじゃがこの会社は社長と儂だけで動かしていくことになるのか」
「う、うん、でへへ……二人きりだよ」
「性別逆だったら犯罪になりそうじゃな」
クロスが冷たい目をしているような気がする!
でも若い子にそんな目で見られるのは悪くない。
「もう一人くらい増やした方が良いのではないか。まぁ社長のコミュ症に耐えられるかどうかじゃが」
「それは言わないで……。ハヤブサが業務と運び屋の二人だけなのは私のお父さん……前社長の方針なの」
王都は今、魔法導力が発達していて、どんどん機械化が進んでいる。
いずれは機械で動く荷車なんかもできて、運送はもっと円滑に加速していくことになると思う。
私達がやっているような小型で人の手による配達もいずれは無くなっていって大手の従業員がまとめて機械を使ってやっていくに違いない。
「お父さんも私もこの会社がいつかは無くなると思ってるの。だけど人の手による配達を望む人はすぐには無くならないと思うよ。だから……最後の1社になるまで頑張るってお父さんと決めたの。私達の会社理念でもあるかな」
「効率化を進めすぎて運送が流れ作業になっていく時代、社長や先代は人の繋がりを重視したい……そういうことじゃな」
「まあ私はコミュ症だからなかなか喋れないけどね。でも……その理念もなるべくでいいからクロスくんにも分かってほしい。人に物を届けるのって気持ちを届けることに近いから」
でも無理に押しつけることはできない。
正直、今回の採用は父が急死してしまったための処置というのもある。
クロスくんが1,2ヶ月で辞めちゃうとさすがに困るけど、いつ辞めてもいいようにしておかなければならない。まだ15歳の彼にだってやりたいことはあるだろう。10年も20年もこの仕事を縛り付けるわけにはいかない。
「素晴らしい!」
「え」
クロスくんは大声を出した。
「先代の理念に感動した。いえ、感動しました! 儂の今世での生き方、人との繋がりを大事にすることに合っているではないですか! 社長、そなたと先代の願いに感銘を受けました」
「あ、えっと……ありがとう」
「儂はその理念を全うするために社長の経営に従うと決めましょうぞ!」
なんだか分からないけど、クロスくんの口調が変わるくらいツボに入ってしまったようだ。
ふふっ、これならお父さんが始めたこの仕事……もうちょっとだけ続けてもいいのかな。
うふふ、そして敏腕女社長になっていっぱい稼いで、引きこもったまま生きているようにならなければ……!
「ところで社長、この事務所は社長と先代の二人で住んでいたのですか」
「うん。お父さんが死んで一人になっちゃったからね」
「それであれば住み込みで働かせて頂けないでしょうか」
「へ」
「住む所も探しておりまして、もし良ければ……」
「ほんとっ! じゃあお願いしよかったな」
家事とかは出来るけどコミュ症ゆえに買い出しがとにかく苦手だった。
外に出る系のものをクロスくんにお願いしよう。
クロスくんは私をじっと見つめ、照れくさそうな顔をした。
「住み込みの件、社長のことを放っておけないなって思ったこともあるのですよ」
「ふへっ」
何そのフラグが立ちそうな言葉。勘違いしちゃ駄目よ私。そうやって今まで失敗してきたじゃない。
「社長が儂の初恋の女性に雰囲気とか見た目とか似てるんです」
きゃー! これはラブロマンスが始まっちゃう!?
駄目よ、私は29歳であなたは15歳じゃない。そんな年の差、世間が許さないわ。
……ちょっとだけ気になったので聞いて見た。
「その……初恋の人はどうなったの?」
クロスくんは首を横に振った。
きっと振られちゃったのね……。
「70歳で天寿を全うしました」
「どういうこと!?」
社長は死なないように儂が手助けしたりますとガッツボーズをされてしまい、口から魂が抜けてしまいそうだった。あれ私ってそんな老婆っぽかったりする?
この後、クロスくんが王国中を巻き込む事件に関わっていき、世界でただ一人彼を制御できる人間として私が見直される事態になることを……今はまだ知らない。





