011 水の都
「……ほほぅ」
成人の式が行なわれるのは王国でも大都市しかない。
ここ水都ガロールもまたその内の一つであった。
「70年前はこんなに栄えておらんかったのにな……」
初めて立ち寄った時は草だらけの集落だったのに長年の時を経て、大都市へと変貌していた。
理由はやはり海に繋がる大運河、ネセス川が側にあるからじゃろう。
ここが水都と呼ばれる由縁ともいえる。
この都の発達した所はそれだけではない。水が豊富にあるということは作物もよく作られているということだ。
ここは農業都市としても有名と言える。
里から一番近い大都市だったため、ここ産の作物がよく行商人に運ばれておったわ。
「見てよ、あれ……」
「うわぁ、田舎もんじゃん」
都の入口でキョロキョロしていると着飾った小僧共に陰口をたたかれていることに気づく。
田舎者であるのは間違いないし、この200年で着衣にそこまで興味はなかったので里で着ていたつぎはぎだらけのものをそのまま着ている。
里の成人代表として来ているのだし、もうちょっと身なりを考えるべきだったかもしれん。
来年来る幼馴染には気をつけるように伝えておこう。
随分とこの街は景気がよさそうだ。若者達も綺麗な服を着ているし、時代を感じる。
前世の老体なら人の多さに嫌気がさしてすぐにでも立ち去ってしまってしまっただろうな。
「急げ急げ、式が始まっちまう!」
「神託は遅いほど悪い結果になるってジンクスあるもんな!」
儂と同じように他の街から式に参加しようとやってきた小僧が見られた。
しかし神託とは何だろうか。父上達に成人の式についてあまり深く聞かなかったな。
「うぅ……」
そんな呻き声がして、遠くでゆったり歩いてる若造がへたりこむ。
おそらく急病なのか大きく息を切らしている、誰か助けるか思ったが皆、気にせず教会の方へ向かって行く。
まったく最近の若い者は……。
ふむ、今の儂も若い者じゃったな。通路を歩く若者をかき分けて、座り込んでしまった若造の側へと寄る。
40歳くらいか。儂からすればやはり若造じゃな。
声をかけるか。
「大丈夫ですか!」
その声は儂ではなかった。
近づく儂の前に立ち塞がった幼子が座り込んだ男性に呼びかけていた。
妹と同い年くらいの小柄な幼子はテキパキと脈を測ったり、呼吸の有無を調べている。
「そこにベンチがあります。処置するのでそこへ行きましょう」
幼子が若造を担ごうとするが、小柄な幼子に恰幅の良い若造をなかなか持ち上げられない。
「手伝おう」
儂が恰幅のいい若造を支え上げる。
「ありがとうございます!」
しかし小さいのにしっかりしておる。
甘えん坊の妹とは大違いだな。
そしてその幼子は背丈は小さいが、胸の部分がとても膨らんでることに気づく。
年下に見えたが……もしや儂と同い年くらいか。最近の子は発育がわけわからんな。
若造をベンチに座らせて、楽な体勢にさせる。
この青い顔、発汗……。そして腫れ上がった腕。これは間違いなさそうだ。
「ジング蜂の毒ですね」
幼子はすぐさま当てて見せた。
「あ、ああ……草原を歩いてる時に蜂にさされて、何もなかったから放置してたんだ」
「ジング蜂の毒は後から来るのですぐに薬師にかからなきゃ駄目です」
どうやら決まりのようじゃ。ジング蜂にさされることはよくある話だ。
「薬を投与した方が良いのう。このあたりに薬屋はあるのか」
「大丈夫です。わたし、ポーションを持っているので」
「ほぅ、ポーションとな」
小さな鞄から毒消し薬は持っていたが、この幼子のポーションに興味があった。
幼子は懐からポーション瓶を取りだして、若造の口の中に注ぐ。
「店売りのポーションとは違うな」
「あ……。気づいちゃいましたか。でも大丈夫なものなので信じてください」
「うむ、それは患者の表情を見たら分かるぞ」
ポーションは即効性のある液体の回復薬だ。
この世に広く広まっているもので知らぬ人間などおらぬ。
ま、儂は嫌いじゃけどな。
だが健康には代えられぬ。幼子が渡したポーションはおそらく通常のポーションに解毒の成分を混ぜているのじゃろう。
「これで安静にしていれば次第によくなると思います」
「ありがとう……少し楽になったよ」
「ジング蜂の解毒は時間がかかるのが難点ですね……。苦しみを和らげたいんですが」
「ならばこれを飲ませると良い」
儂は粉薬を収納バッグから取りだして幼子に渡した。
「えっと……これは……」
「儂の故郷でもジング蜂と同じ成分の毒蜂がおってな。この粉薬が特効薬となるんじゃ」
「……ちょっとだけ見せてもらってもいいですか」
強力な魔獣の多いエストリア山ではジング蜂など子供レベルと思うほどのA級レベルの猛毒蜂もいる。
だが200年経験を持つ儂のおかげで里のみんなは毒に耐性ができるようになり、安心じゃ。
幼子は小指で粉薬に触れ、ペロリと舐めた。
「……大丈夫そうですね。ごめんなさい疑ったわけではないんですが」
「おぬしの行為は正しい。気にしておらんよ」
儂が敵なら毒を仕込んでもおかしくないからな。
幼子の判断は間違っていない。幼子はポーションと粉薬を一緒に若造に与えた。
その瞬間。
「うおおおおおっ!」
「きゃっ!」
「手の痛みと吐き気、だるさが消えた! 俺は復調だぁ。がははははは!」
「うむ、元気になったようじゃな」
「ありがとよ嬢ちゃん。坊主! 是非とも礼をさせてくれ!」
「礼はポーションを飲ませたこの子にしてあげてくれ。ただ無理せず、用心するのじゃぞ」
◇◇◇
ポーションの代金を幼子に渡し、若造は元気よく帰って行った。
これで解決だ。
「あ、あの!」
幼子が声をかけてきた。
「わたしスティラ・ポンポーティルといいます! 良ければお話聞かせてもらえませんか!」
これが儂と後に薬神と呼ばれるようになるスティラとの出会いの話となる。
この時はまだ……儂らも若かったな。





