【Chit-Chat】こなれた冒険者、勇者パーティーを語る。
【Chit-Chat】こなれた冒険者、勇者パーティーを語る。
「やー、あれはやばいって」
「あー、確かにな。強過ぎ」
夕暮れ時の酒場は大繁盛。
猛獣退治や貴重な素材を求めて旅をする「冒険者」が酒を飲み、楽しそうに笑っている。
8つ並んだ木製のテーブルも、酒の瓶が並ぶカウンターも全て満席。
そんな騒がしいパブの一角で、今日も若い冒険者の男性2名が楽しそうに語り合っていた。
「えっ」
「えっ?」
「あ、いや、何? 強い方?」
「あ、そっちじゃなかった? えっと」
「あの金髪兄ちゃんの件だよ」
「あ、え? ニースって奴だよな。強くね?」
会話しているのは、いつかのビール君とレモンサワー君だ。
今日も2人は週に2度の楽しみとして、酒場を訪れている。
2人は勇者に奢って貰った日から、何かとやる気に溢れていた。この所稼ぎも良い。
2人で組んで依頼をこなし、信用も得られるようになってきた。息もピッタリ。
だが、今日の会話はあまり噛み合っていないようだ。
「強いっちゃあ、強い。いや、ほんと強い。剣はね」
「あー、あー……剣はね。あーそっちね、あの金髪くんのあれか」
「そう、ニースって奴だよ」
ビール君はジョッキを片手に手羽先へとかぶりつき、レモンサワー君はハンバーグを切り分けながらビール君の話を待つ。
酒場の木のカウンターや木の床は、客が少ない時間なら落ち着きもありまったりと飲める。
しかし今いる客は武骨な冒険者達。ビール君の声もやや大きくなる。
「一芸に秀でるって言ってもさ、ほんと一芸だけに絞らなくてもいいと思うんだわ」
「何かに秀でてる訳でもない俺らが言うのも、どうかと思うけどな」
「いやいや、俺達は器用貧乏なのよ。何でもそこそこ出来る、けど目立たない」
「前よりマシだけど、貧乏なのには間違いないな」
「そこは器用なのを間違いないって言おうぜ、自分を自分で買い被るとか悲しいわ」
ビール君がビールを飲み干し、いつもより大きなサイズのジョッキをお替りする。
レモンサワー君のジョッキも以前より1まわり大きくなっていた。頑張りの成果が表れている。
「ゴーレムをひと振りでぶった斬るとか、どんだけよ」
「そんな大男じゃねえのに、怪力だよな。勇者様と一緒に行動出来るだけの事はある」
「正義感もまあ、ある」
「勇者様が認めたくらいだからな」
2人にとって、勇者アイゼンは別格だ。
辞めるという話を聞いた時は愕然とし、2日間仕事を休んだくらいだ。
「でも、なあ」
「ああ、あの猫みたいな魔物だろ? 魔物飼ってるってちょっとなあ」
「えっ?」
「え、あ?」
「え?」
「えっと、違う?」
今日の2人はどこか噛み合っていない。いや、どの話題か迷うほどに、アイゼン達の活躍が多く知れ渡っていると前向きに捉えるべきか。
「本体だよ、本体!」
「あー、あーね、金髪くん本人ね」
「独特というか、ちょっと頭が悪いというか」
「確かに笑えるよな。知ってるか? ジェインって王子の件で大騒ぎした話」
レモンサワー君が思い出し笑いをしながら目元を拭う。どうやら勇者ご一行の活躍と共に、面白エピソードも広まっているようだ。
ビール君が手羽先を食べる手を止めて身を乗り出し、話の続きを促す。
「王子様を連れて歩いてる訳じゃん? そしたら役人が勘違いして」
「あー、その件! 脅されて連れ回されているに違いないって言って、王子を連れ戻そうとした奴!」
「そう。金髪くんが何を思ったのか、王子を問い詰めだしたんだよ。俺見てたもん」
レモンサワー君がニヤニヤしながらビール君の反応を待つ。ビール君は詳細まで知らないらしい。
「お前誰に脅されてんだって、城から逃げてきたなら守ってやるぞって」
「自分が脅した側とは全く思ってねえのがな」
「王子が別に脅されてないって言ったらさ。俺も脅されてねえ、って」
「自分が連れまわす側だとも全く思ってねえんだよな」
ビール君もニヤニヤしている。おおよそニースの人物像を把握しているということだ。
ただ、そこにニースを馬鹿にしているような意味は込められていない。
面白い奴、興味深い奴。多くの冒険者にとって、ニース達はおおむね好意的に受け止められていた。
「それで、結局今度は相手を誘拐犯扱いしたんだろ?」
「そそ。お前、騙して王子を売り飛ばす気だろって」
「もう思考回路ぶっ飛んでて好きだわ」
「役人が絶叫して凄かった。お前が誘拐したんだろう! って。そしたらさ」
レモンサワー君がビール君にチラリと目線を向ける。ビール君の口角も上がった。
目線の意味がしっかり伝わっている。
「「何言ってんすか」」
「だよな、だよな!」
2人共手を叩いて大喜びだ。勇者アイゼンの「先を急ぐ」に加え、ニースの「何言ってんすか」も有名なセリフになりつつあるのだろう。
「そんでさ、王子も王子でなんか変な奴なんだよ」
「え、ちょっと育ちが良くて鈍臭そうなだけじゃん」
「いや、その騒動の間、もうすげー嬉しそうにしてんの」
「は? え、何で」
ビール君のジョッキがテーブルに置かれた。パスタ皿に伸びた手もそのままで、レモンサワー君の話の続きを待つ。
「ボクの事を王子だと見抜いてくれた! だと」
「……いや、勇者ご一行に王子様が加わってるのはみんな知ってるよな」
「お忍びで外に出た時には誰も気付かなかったのに! ってそりゃもう喜んで、両手で握手だよ」
ビール君は苦笑いだ。役人もさぞ戸惑ったことだろうと想像しながら、パスタに入った肉そぼろを多めに皿へ乗せる。
「王子は気づいてもらいたかったのか? お忍びなのに?」
「お忍びの意味分かってねえのかも」
「え、まさか王子も馬鹿なのか」
「お前不敬罪で捕まるぞ」
ビール君は慌てて周囲を見回し、会話を聞かれていない事を確認する。
それまでジェインの姿も人柄も、殆ど知れ渡っていなかった。
言うなれば影が薄い存在だった。しかし良くも悪くも濃い一面が広まりつつある。
「気付かれないように変装するべきかな、だとさ」
「いや、勇者様と行動してりゃバレるわ」
ジェインは王子である事以外、特筆すべき事はないと思われていた。
だが実はダークホースで、一番面白い存在かもしれない。
ビール君がそう思い始めたところで、レモンサワー君がまたニヤリと笑みを浮かべる。
「極めつけはデカい兄ちゃん」
「え、なんか……デカいだけで普通じゃね?」
「いや、あいつはヤバいぜ。勇者様以外を虫けらか何かと思ってる」
アーサーの話はまったく聞いたことがないのか、ビール君は特に興味を示さない。パスタを口に運び、ビールで流し込む。
「勇者様が人攫いをするわけがないって」
「まあ、そりゃそうだわな」
「僕ですら攫ってもらえなかったのに、他人が攫われるなんて羨ましい、許せないだと」
「ぶっ」
ビール君がふき出し、慌ててテーブルを拭いた。
「あの兄ちゃん、勇者様の狂信者だった」
「……悪い、真相がどこにあるのか分からなくなってきた」
一切何も噛み合っていない話のやり取りに、ビール君はついていけなくなりつつあった。だがそれは当時の状況を知るレモンサワー君も一緒だった。
「役人がぽかんとしてる間、デカい兄ちゃんが謝れと言った」
「まあ、誘拐を疑ったんだから、そこは謝った方が」
「いやー、違う違う」
レモンサワー君のグラスが空いた。結局またレモンサワーを頼み、パスタを取り分ける。おかげで呼び名をカシスサワー君に変えずに済んだ。
「僕を差し置いて他人が勇者様に攫われるのは屈辱だ、謝れだと」
「自分のことかーい! 仲間を他人と言っちゃうとか、頭どうよ。んでその時勇者様は」
「めっちゃ笑ってた。もう俺達が見た事のないような大爆笑」
「ま、まあ勇者様のお笑い要員って事なんだろうか」
周囲がどう思ったのかは分からないが、引退を決めた勇者は案外楽しそうに旅をしている。
2人にとってはそれだけで十分だ。
2人は食事を終えると立ち上がり、会計を済ませた。
ビール君の財布には、いつかのアイゼンの直筆メモが入ったままだ。
「んじゃ、また明日な!」
「おーう! 8時に……ちょっと、ちょっと待った!」
レモンサワー君がレジ横の掲示板の前で固まった。
「ゆ、勇者代行募集、各国若干名、団体応募……可、経験問わず」
「はっ、え?」
「募集主……アイゼン・ヒューバー!?」
「はあぁぁ勇者様ぁ!?」
アイゼンと冒険者協会本部の作戦チラシだ。
もちろん、敬虔な勇者教徒が放っておくはずがない。
「勇者様が俺達を求めている!」
「早速応募だ! 明日、8時に冒険者協会な!」
「あぁ勇者様! 俺はここよ!」
「俺を攫って勇者様!」
勇者の呼びかけに応じるのが勇者信者。
勇者の役に立つためなら、2人は嫌いな特訓もやぶさかではない様子だ。
こうして辞めたい勇者は、また自身の地盤を固めた。




