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異世界を中国拳法でぶん殴る!  作者: 犬童 貞之助
第三章 波乱の道中
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3-11 太極拳は最強か?

【オオオォォォッ!】


 ぶっころ発言後、特大咆哮と共に魔力を解放する青玉竜(せいぎょくりゅう)ウィルム。


 氷原を鳴動させる激情の奔流(ほんりゅう)は、魔神たる俺の全開状態でも比較することさえできない莫大な魔力だ。音圧、風圧、魔力圧により、凍り付いていた湿原の植物や地面が、粉微塵に粉砕されていく。


(砕いて見せようって、竜鱗を、か?)

(無茶ですよっ!? あの猛る竜には、いくらロウでも勝つ目が無いです! その上拳だなんて、もう論外なのです!)


「まあまあ。全てを見通すらしい『竜眼』の前じゃあ、逃走なんてできっこないし。それに、残ってる俺の攻撃で効きそうなのは、魔法の火か雷光か溶岩か、後は異空間に閉じ込めるかくらいだし。ウィルムは空間魔法を知ってるみたいだから、異空間は破られる可能性がある。他の属性魔法はまあ、竜鱗に通るか怪しいところだし。そうなれば、純粋な打撃攻撃しかないかなってな」


 存分に強化を施した「断絶空間」を発動して、呼吸すら凍結しそうな冷気の嵐をやり過ごしつつ、曲刀たちに事情の説明。


【──(めっ)っせいっ!】


 丁度話し終えたところで──ウィルムが青白く輝く大翼を広げ、それを真正面へ羽ばたかせ、極風招来!


 凍てつく波動(物理)かよ。


 竜が繰り出す本気の烈風には耐えられないと判断し、断絶空間への魔力供給を更に増やし硬度を強化。凍結した地面を(めく)り上げ、剥がれた氷片を弾丸砲弾とした風の暴威を耐え凌ぐ。


【──ふっ。耐えたようだが、動けぬようだな?】

「ッ!」


 豪風を耐えて視界が晴れれば──目の前に二足立ちで拳を振りかぶった青き竜!


 しかし、それくらいは想定内だ!


「かかりおったな(たわ)けめが。そおりゃー!」


 断絶空間へ回していた魔力解放し、氷の原っぱから石拳召喚。


 竜の巨体を丸ごと掴めそうなほど巨大な四本腕でもって、拘束を──。


【──下らんなっ!】


 拳の握りを変え虎爪のように構えたウィルムは、対象を俺から石腕へと素早く変更。


 その場に飛び上がっての翼と爪による旋回攻撃により、俺の魔法を切り裂き、氷結させ、粉々にした。


「ちょッ!?」


 そのまま横回転から更に縦の回転を加えた青き竜は、加速した勢いを乗せて長い尾による叩きつけ!


 回転により速度を増していた尾撃は、強化されていた俺の障壁を容易く破り、粉砕。


 氷原を砕く音も相まって、けたたましい音が鳴り響く。


【はははっ! それで避けたつもりか? 視えているぞっ!】


 尻尾が叩きつけられる寸前に、転移でウィルムの裏へと移動していたが……「竜眼」は誤魔化せないらしい。


 逃がしはしないと猛吹雪が渦を巻き、氷片を巻き上げながら壁のように迫る!


「──ハッ!」


 ──だがしかし、こちらはそれも想定内。


 前に転移を見破られているのなら今回も当然反応し、更には手を打ってくるであろうことなど、容易に想像できるもの。なればこそ、こちらの対策もまた容易いのだ。


 故に急迫する氷の塵旋風に対し、こちらもまた渦巻く旋風でもって切り返す。


「……」


 練り上げた魔力で解き放つ直前、思い描くは真逆の属性。


 かつて枯色竜(かれいろりゅう)が創り出した炎獄(えんごく)で見た、溶岩を巻き上げ吹き荒れる、灼熱の旋風!


「どぉりゃぁぁあッ!」

【炎っ!? くぅっ、溶岩かっ!】


 俺の雄叫びに共鳴するように、灼熱の柱が天を衝く。


 氷よりもなお重い溶岩を含んだ紅蓮の嵐が吹き荒れ、氷の旋風を飲み込み、食らい尽くし、一気に蒸発した水蒸気の熱風を撒き散らす。


【ぐぅ、これは、避けねば鎧が──っ!? なん、壁!?】


 俺の創り出した魔法──「溶岩嵐」を脅威と感じたのか、回避行動をとろうとしたウィルムだったが……遅い。


 こちらは既にあいつの前方以外を空間魔法で(ふさ)いでいる。無論竜であれば数秒で破れるだろうが──その前に直撃だ。


【──っ、ぐ、ぅ、っ】


 もはや回避も間に合わぬと判断したのか、ウィルムは冷気の鎧で灼熱の旋風を耐え忍ぶ。赤の旋風が青の竜を飲み込み、蹂躙(じゅうりん)する。


「──ッ!?」


 されども、相手はやはり竜なるもの。


 巨体を一飲みにした溶岩嵐は、如何なる魔法をもってしてか、数秒ほどで爆発四散。熱風と赤熱する溶岩と冷風とを周囲に撒き散らし、消滅した。


【はっ……! ははっ! 魔神の魔法なれど、ドレイクの魔法に比べればこの程度──!?】

「──知ってた」

[──]


 お前みたいな化け物が、溶岩嵐如きで死ぬなんて、欠片も思っちゃいなかったさ。


 だから当然、こちらも次なる一手──水竜を用意してある。


【これは──妾の似姿かっ!? つまらん真似を!】


 寸秒で動揺を排したウィルムが、即座に拳を作って目の前の水竜へと飛び掛かる!


 相手の動きに合わせてこちらも水竜の魔力を解放、直ちに氷竜へと相転移。


 生まれ落ちたる我が氷竜に命じるは、大地を揺るがす震脚と共に繰り出す、右拳上段突き──陳式太極拳小架砲捶(しょうかほうすい)砲冲(ほうちゅう)


「ぶっ飛ばせッ!」


【──なっ!?】[──ッ!]


 竜拳と鉄拳がぶつかり合い──互いに体を残す。


 尋常ならざる炸裂音が木霊し、大地がたわんで捲れ上がり、爆風が吹き荒れ……両者は拳をぶつけ合った状態で静止した。


 俺の魔法の中で最硬を誇る氷竜だったが、ウィルムの竜拳はそれをも上回っていたらしい。ぶつかり合った氷竜の拳には亀裂が入り、前腕の中ほどまで崩れかかっていた。


 流石は竜の一撃といったところだが、こちらの氷竜はあくまでゴーレム。

 あいつがすぐに動けない状態にあろうとも、召喚主たる俺は自由に動けるのだ。


 つまりは好機。仕留めるは今!


 突然姿が変化した氷の竜に驚き、どころか自分の竜拳が止められ驚愕し、思考を停止させ硬直するウィルム。


 対し、こちらは空間魔法で速攻。


 コンマ五秒で奴の足元に転移し、先ほどの我が氷竜に勝るとも劣らない下段突きを、無防備にも(さら)されている(すね)側面へと叩き込む!


「どっせいッ!」

【い゛ぃっ!?】


 硬質かつ鋭利な竜鱗で手の甲を軋ませ皮もずる剥かせながら、しかし確かな手応えを感じ取る。


 意識外の泣き所を陳式太極拳小架式・指襠捶(しとうすい)でぶち抜かれたウィルムは、その巨体のバランスを崩し体を泳がせ──そこへスカイブルーな氷竜が追撃!


[──ッ!]


 脚を踏み込み体全体を一気に寄せるような動きから、逆手の後押しと一緒に豪快に打ち出す肘打ち──陳式太極拳小架砲捶・穿心肘(せんしんちゅう)が、華奢(きゃしゃ)な胸部へ突き刺さる!


【かっ──】


 肘打ちを決め役目を果たしたと水へ変じ、力なく冷気によって凍結していく氷竜。

 ぶちかまされた衝撃でかっ飛んでいくウィルム。

 そして、氷原を駆けて追いかける俺。


 まだだ、まだ終わらんよ!


「と、ど、めェッ!」


 吹き飛びながら放物線を描くウィルムに追いつき、更に加速して落下寸前の頭部に到着!


 そこから一気に減速、急減速の制動力とその反力を生かして踏み込み!


 蹴り脚と同方向の腕を振り上げ、それら全ての勢いを上乗せした前蹴り──陳式太極拳小架砲捶・拍脚(はくきゃく)を、怨敵(おんてき)の竜首に炸裂させる!


「れぇぇえいッ!」

【っ……】


 身体を反り上げるようにして打ち込んだ渾身の前蹴りは、竜の体表を(おお)う硬質な鱗を打ち抜いた。足親指の付け根──拇趾丘(ぼしきゅう)を使った蹴りが堅固(けんご)な守りをものともせず、深々と突き刺さったというわけだ。


 めぎりっ、と鈍い音が響いてしなやかな首が折れ曲がり、青き竜が氷原に沈む。


 ──これにて竜狩り完了。


 やっぱり太極拳は最強かー。


◇◆◇◆


 戦闘後。辺りの湿原は開始前とは別世界である。


 永久凍土じみた銀世界が視界一杯に広がっているかと思えば、所々溶岩の熱で水蒸気が吹き上がり、更なる遠方では吹き散らされた溶岩によって火災が発生している。


「どこの地獄だよ」


 折角創った新魔法だけど、「溶岩嵐」は封印推奨だな。溶岩を無秩序に撒き散らすなんて危険すぎる。


(マジで勝っちまいやがった……って、いやいや! 殺したら不味いだろ!?)


「首がポキーしたくらいじゃ死んでないだろ、竜だし。それにサクッと治療するつもりだよ。竜殺しなんて絶対他の竜から狙われるようになるだろうし、百害あって一利くらいしかない」

(まさか素手で竜を(ほふ)るなど……いくら魔法を使っているとはいえ)


 黒刀が複雑な感情を滲ませて打ち震えているが……死んでいないって言っているでしょうが。


 一応ウィルムの胸は上下している。白目剥いて血反吐はいているし、痙攣(けいれん)までしているけども。


 曲刀たちへの突っ込みを途中で放棄してウィルムの下へ向かい、首の治療を開始する。


 とはいえ、どこまで治療したものか。下手に治療しすぎるとまた暴れかねないんだよなー。治療後だとこっちに魔力欠乏症状出てそうだし、殺されかねん。


(おいロウ、悩むのはそこそこにしろ! 呼吸がどんどん苦しそうになっていってるぞ!)

「へいへい。言う方は気楽だな、全く」


 サルガスに急き立てられて仕方なしの全力運転。まずは治療のために魔力を解放し集中力を高め、ウィルムの首のあるべき姿を思い浮かべる。


 先ほどまで殺し合っていた相手の元気な姿を想像するというのも妙な話だが……イメージ自体は簡単だ。


 猛り狂い、喚き散らし、暴れまわった天災の化身。それはもう精彩(せいさい)に思い描けるというものである。


「むん! ……おお? 意外と簡単に──」


 魔力を集束させるまでもなく、ごっそりと自身の魔力を引き抜かれていく感覚を覚える。


 回復魔法は魔力操作技術よりも想像力の方が重要なのだろうか?──そんなことを考えていると、眼底に金属バットのフルスイングが直撃したかのような、衝撃を伴う激痛が走った。


「ぬがぁぁぁッ!?」


(凄い叫びだな……)(ロウっ!? お気を確かに!)


 思わずのけ反り、氷原に頭を打ち付ける。

 しかし氷原が砕けるばかりで、痛みはまるで治まらない。



 絶叫しながら身体から汗やら汁やらを垂らし、冷えた外気に白い湯気を立ち上らせること、しばし。


 濁流のような激痛が去り、さざ波のような小さく揺れる痛みのみが残った。


「ぉぉぉ……耐えたぜこの野郎。なんだか回復魔法使うたびに俺の寿命が削れてる気さえするぞ」


(一時的な魔力欠乏症は寿命に影響するほどのものじゃないはずだが……お前さんの苦しみようを見ていると、実際に身を削ってそうな雰囲気さえ感じるな)

(なるべく使わないようにした方が良いでしょうね。ロウ、お疲れさまでした)


 大いに発汗していた身体が外気によって急激に冷えていく感覚に身震いしつつ、治療対象の様子を確認する。


【……】


 最初の内は何度か溜まっていた血を吐いたものの、首が折れていた時の浅く苦しそうな呼吸とはうってかわって、スヤスヤーと穏やかな寝息を立てる青白い竜。しなやかな首もすっかり元通りである。


 そんな様子にホッと安堵する反面、こっちが痛みにのたうち回ったのにと苛立ちもする。


 ……あ、なんだか無性に蹴り起こしたくなってきた。


(おい待て、早まるな!)


 銀刀の言葉で我に返り、深呼吸を行って心の安寧を取り戻す。


「ふぅー。危ない危ない。まださっきの戦闘で気がたってたみたいだ……しかし、こいつどうするかね?」


(追ってこられたり暴れまわられたりしても厄介ですし、異空間で捕えておけばよいのでは?)

「放置しても厄介そうだし、そうするか……言ってることはもっともだけど、ギルタブが言うとなんかちょっと怖い」


 少し猟奇的(りょうきてき)な雰囲気が滲む黒刀の意見を採用し、異空間の門を開く。


 痛みが残り本調子ではない状態で大きめの門を創るのには骨が折れたが、時間を掛けることで何とか創り上げる。


 異空間で暇をしていたシアンやコルク(シアン同様に完全な人型と化していた。いつの間に……)に運んでもらえば、とりあえずはOKだ。


「──ふう。ひとまずはこれで良いとして……あいつが空間魔法で外に出てきたらどうするかなー。水や風魔法ばかり使ってたし、使えないと信じたいところだけど」


(空間魔法の知識は持っていたみたいだからな。異空間に閉じ込められてることで精神的に追い詰められたら、あの莫大な魔力で無理やり実現させないとも限らんぞ)

「げぇー。あり得る。なるべく早くボコって教育……もとい、対話の機会を作らなきゃな」

((竜をボコるって……))


 曲刀たちにはドン引きされたが、実際ボコって半殺しにしちゃったのだから、やってできないことも無いだろう。


 こっちの命がかかっているし、話が通じないようであれば加減なしでボコる所存である。ガハハハ。


 そんなことを考えていると、魔力感知に見知った反応が。二人ほどこちらへ向かっているようだが……どう説明したもんだかね。


 まさか竜を半殺しにして異空間で捕らえましたなどと言えるはずもなく、彼女たちと合流するまでの間、俺は大いに思い悩むのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] かつてボコられた龍を撃破ですか。 中国拳法を使用しそこの魔法を加えた戦闘描写は読んでいてめっちゃ楽しめました。 [一言] この作品に出逢えてこれを読むのが毎日の楽しみになっています。 ま…
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