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異世界を中国拳法でぶん殴る!  作者: 犬童 貞之助
第二章 工業都市ボルドー
65/318

2-41 異形の魔物セルケト、決戦

「オオォッ!」

「ふん!」


 雨粒を吹き飛ばす咆哮(ほうこう)に、森を震わせる衝突音。


 成人男性がすっぽり入るほど巨大なヴィクターの壁盾と、いつの間にか握られていたセルケトの大剣が激突する。


 蒸気吹き上がり火花散る中、体を残す両者。無造作に振るわれたセルケトの一撃と、「纏火(まといび)」状態のヴィクターの突進とが同等ということか。


「──武器か。それも四種。益々もって厄介だね」


 レルミナの呟きの通り、セルケトの二対四本の腕にはそれぞれ異なる武器が握られていた。


 ヴィクターの壁盾とかち合った二メートルはあろうかという両刃の大剣に、逆手に握られているその大剣よりも長い円錐(えんすい)状の大槍。


 更に対となって生える腕部にはヴィクターのものと同程度の大きさを持つ逆三角の壁盾と、長い刃を持つ大鎌。


 ……いつの間に出したんだよ。


(魔力の流れからするに、あれは武器というよりあいつの一部だな。気を付けろよ? 間違いなく並じゃないぞ)

(以前の硬質な脚よりも更に硬いでしょう。まともに打ち合えば、私では危ういかもしれません)


 曲刀たちの言葉に頷き銀刀の握りを確かめ、魔力を練りながら周囲を走り隙を(うかが)う。


「チッ。やるな? 蠍女(さそりおんな)

「はんっ。その言葉、そのまま返すぞ人間族よ!」


 唸る豪槍、(はし)る大剣、踊る大鎌。ヴィクターの軽口に応じながら連撃を放つセルケトは、攻撃の速度も密度も凄まじい。俺が訓練で出した蜘蛛型(くもがた)ゴーレムなど比にならない猛攻だ。


 本来ならば彼と共に前衛となり負担を軽減すべきだが、生憎こちらは急造パーティー。密な連携が要求される前衛をこなすには、お互いの理解も練度も足りていない。


 故に、俺の役回りは──。


「むっ!?」


 ──小細工を(ろう)し、相手を翻弄すること。


 まずは魔法で掻き回す!


「そぉい──やッ!」


 セルケトの周囲に石弾を浮かべ、全方位からの奇襲。


 魔法で逸れた意識の隙間を突き、側面から銀刀一閃!


 横一文字の斬線が、セルケトの多脚に刻まれ──ない。


(くッ……硬いな)


 サルガスの(うめ)きの通り、硬質な外殻の硬度は想像以上。脚には跡すら見当たらない。


「ハッ! 余所見か!?」

「ぬぐっ!?」


 他方、俺の不意打ちにより生じた隙に合わせ、ヴィクターは赤熱する壁盾をぶちかます。


 (いかり)の如く大地に突き刺さる多脚ごと押し込む一撃は、火の粉を散らし蒸気を立ち上らせながらも、確かにセルケトをよろめかせ──。


「──!」


 訪れた好機に、風を操ることでどのような体勢でも加速減速自由自在となる魔術──「颶風(ぐふう)」で神速に至ったレルミナも合わせる。


 背後より急襲、死角より一閃。

 人体部分の頸椎(けいつい)を狙った不可避の一撃!


「──ふっ」


「!?」「マジか」


 ──だが、相手は異形なるもの。たとえ体勢が崩れていようとも、攻撃を防ぐ手立てを持っていた。


 多節棍(たせつこん)のような尾を首と刃の割り込ませて、奇襲を器用に凌いだセルケト。


 そのまま魔物は多脚を生かして急速旋回。予想だにしない防ぎ方でもって、動揺していたレルミナを弾き飛ばす。


「異形の身体、こうも厄介とはね」


 こちらに吹き飛ばされてきたレルミナは空中で体勢を整え華麗に着地。(ほほ)の出血を拭って一言呟き苦い表情を浮かべると、再び高速移動で姿を(くら)ませた。


「おいロウ、よくアイツ斬れたな? 硬いなんてもんじゃないぜ」

「前やった時より強くなってますから、今のアレを斬ったわけじゃないですって」


 炎を炸裂させて間合いを離脱してきたヴィクターに答えつつ、尾の調子を確かめているセルケトを観察する。


 ──毒々しいまでに濃密な紫の魔力は、俺が以前対峙した時よりも更に濃い。その濃い魔力で強化されたあの外殻は、正に鉄壁だと言ってもいいだろう。


 ならば上半身を攻めるといいたいが……先の通り多様な武器が行く手を(はば)む。達人と見紛(みまが)うほどの武技、三人がかりでも抜くのは至難だ。


 残る魔術魔法の手はというと、有効かどうか分からない状況。


 最初の熱線は当たったかどうか分からないが、ヴィクターが炎で斬りつけても焼けた痕が無い。火に対して耐性を持っているのは疑いようもない。こちらの手札で効きそうなものというと、レルミナの風の斬撃か俺の「柱落とし」くらいか?


 ──などと分析していたが、セルケトの一言により全てひっくり返されることとなる。


「ふん……貴様らも人間族にしてはやるようだ──ならば、我も全力を出そうではないか」


「冗談きついぜ」「マジかー」


 爆発ッ!


 そうとしか思えないほどの魔力が、宣言と同時にセルケトの身から(ほとばし)る。


 ぬかるんだ地面を吹き飛ばし周囲の木々を薙ぎ倒すような圧力は、俺の全力放出級。


 つまりは不味いッ!


「はははっ! 行くぞ!」


「「ッ!」」


 高らかな宣告と共にセルケト強襲。野郎二人で迎え撃つ!


 突き込まれる剛槍──巻き上げるように上方へ弾き逸らす。


 大槍を巻き上げて空いた俺の脇へと下から迫る、(すく)い上げるような大鎌──胸を反らして緊急回避。


 盾を構えたヴィクターごと吹き飛ばす、大剣の大薙ぎ一閃──反らした身体をそのまま後方へ流し、ブリッジ状態でどちらも躱してやり過ごす。


「──おまッ、フォローしろよ!」


「さーせん。無理っす」


 吹っ飛ばされていった野郎の悪態が遠くに聞こえたが、口が利けるなら大丈夫そうだと眼前に集中。


 ブリッジからのバク転後、なおも続く相手の連撃を止めるべく魔力を練り上げる!


「次は、貴様だっ!」「──ッ!」


 直線的だがヴィクターを盾ごと吹き飛ばす破壊力の大剣。剣の腹を打ち上げて軌道を逸らす。


 胸腹太腿(ふともも)(あたま)(くび)、人体の急所要所を狙う大槍。ステップを刻み身体を反らして体捌きでやり過ごす。


 刃が直角についているため動きが予測しづらく弾きづらい変幻自在の大鎌。練り上げた魔力で石柱・石壁を生成し、刃ではなく柄の動きを妨げて凌いでいく。


「ちっ!」

「おぉッ!」


 吹き飛ぶ雨粒、舞い散る泥水。

 それらが焦げるほどの連撃をひたすらに捌き、命を繋いで機を窺う。


(あの分ならヴィクターも大丈夫だろうが……意外と余裕あるな、お前さん)


 銀刀の呟き通り案外と捌けているなと、セルケトを料理しながら同意する。


 奴の動きは以前にも増して速いし、武器を持っている分攻撃も強力だ。


 されども、体格が前よりも劣る分間合いはさほど変わらない。あの厄介な舌が無い分、見切りやすいとさえ言えそうだ。今は回避に専念できるし、ヴィクターと前衛交代でいいかもしれない。


「──忌々(いまいま)しいが、流石よな!」


 全力攻撃でも攻め切れないからか、セルケトは唐突に攻撃パターンを変更。脈絡もなく高速旋回!


「くぬッ」


 回転で勢いづいた尾を(かが)んで躱し、次いで襲い来る大鎌の刃をその場に飛び上がって回避!


「かかったな!」


「!」


 足が地面から離れればお仕舞いだと満面の笑みを(たた)え、セルケトは回転の勢いを乗せて大槍を一突き。


 急迫する円錐の穂先(ほさき)は、俺の胴体へ吸い込まれ──るとでも思ったか? (たわ)けめ!


「──ごっ!?」


 事前に仕込んだ魔法を発動。


 大地より突き出す石柱に(あご)を打ち抜かれ、セルケトの大槍の軌道は大いに逸れて──。


「斬るっ!」


 ──そこへ待っていましたとレルミナの斬撃。


 姿というよりは線としか認識できない残像が走り、黒色の尾が鮮血を散らして宙を舞う。


「がっ……」


「このまま畳み掛ける!」

「がってん!」


 レルミナと共にたたらを踏んだ相手へと襲い掛かる。


 が、またしても堅固な武器たちが立ちはだかった。


「……っ!」


 彼女の必殺の刃は盾に阻まれて、こちらは槍と鎌、脚部の鉄壁を崩せない。


「やってくれたなっ……! はあぁぁっ!」


 攻めあぐねている内に尾の出血は止まり、セルケトは憤怒(ふんぬ)一色といった形相で攻勢へと転じ──。


「「っッ!」」


 ──直後にこちらはその場を離脱!


 逃げざまに、攻勢時に練り上げていた魔力で巨岩の腕を二対召喚。


 武器を振るう腕部を、逃れようとする脚部を、身をよじる胴体を巨大な掌で押さえ込む!


 俺たちの攻撃を凌ぎ切った、そう考えた時に生まれたであろう僅かな隙。

 相手が相手だけに拘束時間は長くはない、外すんじゃねえぞ?


「──ヴィクター!」


「ハッ! 任せとけ!」


 言うが早いか、輝く極太の熱線が巨腕へと放たれ、白一色が視界を埋め尽くす──どころか、離脱しきれていなかった俺ごと焼き尽くす。


「──あああぁぁぁっつぅッ!?」


 焼けるッ! 灼けるッ!?


 残炎をなびかせ離脱。転げまわり泥塗れになりながら水球生成。速攻ダイブで即消火。


 ……死ぬかと思った。


(ロウ!? ご無事ですか?)

(大丈夫か? まあ、熱線の範囲外であんまり燃えてなかったし雨で濡れてたし、平気か)


 平気じゃねーよと思いつつ水球を解除し、巨腕で拘束していたセルケトへと視線を向ける。


 熱線の射線上はくり抜かれたかのように地面が(えぐ)れ、雨にもかかわらず周囲の木々が燃え上がり、白煙吹き上がる火災現場となっていた。異臭立ち込めるその中心には、熱で融解し変形した黒ずんだ巨岩が鎮座している。


「……黒焦げですかね?」

「流石にこれで生き残ってるとは考えづらいけど」


 素早く離脱したレルミナと共に黒ずんだ物体の検分を行っていると、涼しい顔で赤髪男がやってきた。


「さっきのって、俺ごと焼き払うつもりでした?」


「巻き込んだのは悪かった。だが、お前ならあの程度じゃ死なない確証があったから撃ち込んだんだぜ? お前の精霊魔法の拘束も外されかかってたし、撃たねえって考えは無かったな」

「はあ……まあ、こっちもヴィクターさんが吹っ飛ばされるときに無視しましたからね」

「ハハッ、さっきみたいに呼び捨てで構わないぜ?」


「まだセルケトの残骸を確認していないし、それくらいで。雷も鳴ってきたし、確認が終わったら早めに離脱しよう」


 レルミナの言葉につられ空を見上げれば黒い雲が辺りを(おお)っていた。雷にあたったら流石に死にそうだし、サクッと離脱だな。


(ロウなら普通に耐え抜いてしまいそうなのです)

(だよな。落雷ごときで死ぬ絵が思い浮かばない)


 曲刀たちの言葉に憤慨(ふんがい)しながら斬り落とされたセルケトの尾を回収。


 それをヴィクターに押し付けるべく、焦げた残骸を調べている二人に近づこうとした、その時。


「ッ!?」「「──?」」


 まだ解除していなかった身体強化によって強化された聴力が、異音を捉えた。地下からの。


 地面を見れば──既に魔力が集束済みッ!?


「──下だッ!」


((!?))

「ん?」「何が──」


 なりふり構わず簡易版の空間断絶魔法──「断絶障壁」を、全員をカバーする様に足元へと展開。


 そのすぐ後に、大地が爆ぜた。


◇◆◇◆


「「「──っッ!?」」」


 大地を割っていずるは、いつか見た石槍地獄。


 しかし、その破壊力は段違い。

 勢いと太さを増した石の尖塔は数秒で障壁を突き破り、この身を穿(うが)たんと差し迫る!


「──ハッ!」


 上等ッ! 全力全開でぶっ壊すッ!


 障壁が稼いだ数秒のうちに魔力を練り上げ、水を創出。そこから更に相転移。


 瞬間的に分厚い氷塊を生成し、壁兼足場を(こしら)える。


 突き上がる石柱によって足場の氷塊ごと空へと打ち上げられながら、次いで更なる魔力を注ぎ込む。


 氷塊へ(うなが)すは変形、成長、硬質化。

 創り上げるは氷なる竜!


[──]


 相転移によって生まれ落ちたスカイブルーの体は、ほんのりと温かく、そして極めて硬い。


 そんな配下に下す命令は(すこぶ)る単純。


「──ぶっ壊せッ!」


[──ッ!]


 鉄拳ッ! 翼撃ッ! 旋回尾撃ッ!


 俺を背に乗せたまま、氷竜は真正面からセルケトの魔法を打ち破る。


 殺到した石槍は氷竜の前に折られ砕かれ粉微塵(こなみじん)。かすり傷をつけることすら(あた)わない。


(……出鱈目(でたらめ)な強さだなソイツ)

(確かに、凄まじいですね。……最初からそのゴーレムを創り出しておけば良かったのでは?)


 氷竜の戦いぶりに戦慄した曲刀たちは好き勝手言っているが、この氷竜は特別製だから無制限って訳でもない。


 確かに水から氷へ相転移させてるから、氷を直接魔法で創るよりも造形を思い描きやすく、液体から個体へと瞬間的に変化するため所要時間も短い利点がある。


 だが、反面──。


「──ああ、やっぱり溶けたか」


 石槍を破壊し終えて地へと着地した氷竜だが、何の前触れもなく氷から液体へと戻ってしまう。常温の氷という(いびつ)な状態だからか、持続時間もまた短いのだ。


 それに、溶けた水は魔力が失われているため、すぐに再凝固(さいぎょうこ)ということも出来ない。


 緊急時か、あるいは短時間で攻め切る時か。普段使いというよりは切り札的な運用が望ましい魔法なのだ。


(なるほど……って、奴の魔法で地形が完全に変わってるな)


 サルガスの言う通り、見渡す限り石柱が乱立し砕けた石がそこかしこに転がり、もはや森というより岩山の石切り場の如き様相だ。


 周囲の観察もそこそこに意識を切り替える。


 魔力感知は大規模な魔法発動直後は魔力が入り乱れていてあてにならない。どうせ乱れているのならと、隠蔽(いんぺい)なしの身体強化全開で五感を頼りに索敵開始。


「──!」


 耳をそばだてれば、岩の落下や破砕音とは異なる、硬質なもの同士がぶつかり合うような甲高い音。


 ──先ほどの大魔法は分断が目的か!?


 その考えに到ると同時に跳躍。音の現場へと柱を蹴って急行する!


「これで仕舞──げぶっ!?」


「そぉいッ!」


 十数秒で視界に異形の魔物を捉え、足場の石柱を砕いて超加速! 発見したサソリ女を全力で蹴っ飛ばすッ!


「……いいタイミングじゃねえか」


「ヴィクター、ボロボロですね──レルミナさん!?」


 鎧はほとんど全壊、全身裂傷だらけで片目までも傷で(ふさ)がっている状態のヴィクターに答えようとした矢先──朽葉色(くちばいろ)の長髪を赤で染めた、血と泥に塗れて地に伏すレルミナの姿が目に飛び込んできた。


「……」


 急ぎ駆け寄ってみれば、右腕の二の腕辺りから先が無い。


 ヴィクターと違い全身の傷は少ないが、浅い呼吸を繰り返す彼女の顔は蒼白そのもの。失われた腕からの出血は多く、素人目でも危険な状態にあるのは明らかだった。


「──ヴィクター、レルミナさんを抱えて走れますか?」


 まずは止血と彼女の傷口を魔法で凍結させ、綺麗な切断面を覗かせ転がっていた右腕も同様に凍結処理。その合間に問いかける。


 遠方では先ほど吹き飛ばしたセルケトが動く気配がしているため、猶予(ゆうよ)はあまりない。


「俺に逃げろってか? お前が抱えて走った方が確実だろ。役回りが逆だぜ」


「少し違いますね。今から大規模な精霊魔法でぶっ放すので、さっさとレルミナさんと一緒に避難してほしいんです」

「ハッ! 物は言いようだな。……死んだら『纏火(まといび)』でぶん殴るからな」


 レルミナを背負い火葬宣言をするヴィクターに彼女の腕を押し付けて見送り、セルケトへと向き直る。


 体勢は既に整っているように見えるが、送り出す時に襲ってこなかったな。


「──見逃してくれたのか? 意外に甘いんだな」

「ふん、我を迎撃できるよう備えておいてよく言う。同じ手は二度も食わん」


 バレテーラ・ペペロンチーノ! 単純な相手だと思っていたけど、学習能力は高いようだ。認識を改めねば。


「じゃあ、どうする? このままお見合いでもするか?」


「知れた事。貴様の余裕など我が魔法で崩してくれる!」


 宣言と同時に再び飛び出る石の槍。


 だが、もはやそれも脅威とならない。


「──っ!?」


 (おり)の様な石槍地獄から忽然と消えた俺を探すセルケトを、上空から悠々と眺める。


 もはや人目もなく誤魔化す必要などなく、空間魔法も使い放題。周囲を埋め尽くすほどの物量であっても、三次元の点から点へと移動できる俺にとっては回避余裕なのだ。


「それじゃあ逆襲といくかね!」


 同じく空間魔法の「断絶障壁」を空中に展開し、足場は完璧。

 高所からの一方的攻撃ってやつを見せてやんよ。


「何処に──なあっ!?」


 大口を開けて呆けるセルケトの頭上より、巨大な石柱群を投下開始。


 至る所に突き出した石柱群を、圧倒的質量差でもって圧し潰すッ!


 石柱を砕き、ぬかるんだ地面に突き刺さっていく我が八角柱。とはいえ相手は多脚の魔物。縦横無尽に動くため、単純な落下運動など直撃しない。


 なれども、隙を作れればそれで良し。ぶった斬ってくれるわッ!


「っ!」

「よう! 再戦といこうかッ!」


 八角柱と共に地へと降り立ち、得物を引き抜きそのまま突貫。動じる相手に銀なる刃を叩きつける!


「──ぐっ!? 貴様、やはり加減していたか……!」

「猫被りなもんでなァ!」


 銀刀と大剣がド派手な衝突音でぶつかり合った結果は、互角。


 つまりは両腕の全力で相手の腕一本と釣り合うのがやっとである。


 全開となっても力押しは効かない。ずらしていなして対抗すべし!


 続いて振るわれる大鎌を、懐へと踏み込みながら下段()り上げにて逸らし、三の太刀の大槍を返しの上段斬りで払い落す!


 大剣大鎌大槍の三連撃を捌かれたセルケトは、もう石柱によって追い詰まっている。


 つまりはこれにて接敵完了!


「──っ!? ならばこれで吹き飛ぶが良いっ!」


 退路無しの超至近距離で相手がとった行動は、壁盾によるシールドバッシュ。


 他の武器は長大で至近距離では取り回しづらいし、距離を取るための後方移動は我が石柱によって封じられている。当然の選択だ。


 それすなわち、予測の通り。


 打開策を打ち出したつもりだろうが、俺の手の平の上だぜ? セルケト!


(生き生きとしてるな)

(やはりロウは嗜虐的(しぎゃくてき)な一面があるのです)


 曲刀たちの戯言(ざれごと)を無視し、全力の踏み込み、全霊の震脚ッ!


 壁盾の一撃に対抗すべく、肩と腰でぶつかる体当たり──八極拳(はっきょくけん)六大開(ろくだいかい)(こう)”・貼山靠(てんざんこう)をぶちかますッ!


「──っ!?」


「──嗄啊(かあ)ァッ!」


 およそ人間がぶつかったとは思えないほどの(にぶ)い衝突音が森を揺らし、半壊した盾ごとセルケトがぶっ飛んでいく。


 奴の壁のような盾は先ほどのヴィクターの熱線で変形しており、衝突の力を軽減できなかったというわけだ。


 対するこちらも無傷ではない。異形の魔物の盾殴りと全力でかち合ったのだから、発勁(はっけい)で軽減していても全身が(しび)れるほどだ。


 それでも、生まれた好機を逃がす道理もない。ここで止めを刺す!


「そいやッ!」

「くっ、水ごとき……氷!?」


 石柱へ叩きつけられたセルケトへ「氷瀑(ひょうばく)」を行使し、氷で拘束。


 上空に石柱を生成して「柱落とし」も準備ヨシ。


 念のために保険の魔力を練り上げて「柱落とし」を発動。

 身体が痺れるなら、魔法で決めたらいいじゃないってな!


「──じゃあな」

「貴様、まさか──」


 セルケトが言葉を続ける前に、彼女の頭上より八角柱が脳天直撃。


 高所から自由落下で加速した巨岩の柱は、セルケトを拘束した氷塊諸共(もろとも)大地へ埋没。


(出鱈目にも程があるのです……)


 墓標(ぼひょう)の様に突き立つ八角柱に呆れ果てるギルタブ。


 我ながら恐ろしい魔法を開発したものだ。



 ──などと気を緩めた、その瞬間。


「──ッ!?」


 地より異音、即座に跳躍!


 またも地面から奇襲。今度は泥と血に(まみ)れた腕による掴み掛り。


 なりふり構わず回──。


「ヅッ!?」


 ──避、しそこねたか……!


 折れた骨が突き出した、そんな状態で俺の足を掴む腕。

 そして奴の四本腕のうちの一本は、大槍を俺の腹部に突き刺していた。


((ロウっッ!?))


「……形勢逆転だなっ! これで仕舞いだ!」


 串刺しにした俺を石柱に()い付け、白い肌を赤茶色で汚し高笑いするセルケト。


 正しく絶体絶命。


 そんな状況での俺の心境は──。


「──備えあれば(うれ)いなし、ってな」


 準備していてよかった保険の魔力。


 腹部からくる灼けるような痛みなど構うものかと笑みを刻み、セルケトの胸元へと手の平を向けて魔力解放。


 火が効かない。岩も耐える。氷も怪しい。となれば、雷しかなかろうて。


 回避不能な電撃攻撃。耐えられるものなら耐えてみろってなァ!


 (はし)る白雷、爆ぜ飛ぶ水分。爆音が周囲に木霊(こだま)して、俺とセルケトが白く染まる!


「「がっッ──」」


 ……俺も、直撃である。


 大槍で、繋がっていたんだった……。


((──っッ!?))


 曲刀たちも無事感電した様子。悪いね君たち。


「──がふっ。貴様、一体幾つ、精霊を……」

「づぅ……まだ、動けるのかよ」


 熱と痛みに耐えながら、雷撃で焦げた大槍を腹から引き抜いていると、セルケトも煙を上げながら立ち上がる。直撃した分俺より強烈なダメージを負ったはずだが……本当に丈夫な奴だ。


 俺の身体も先ほどの体当たりの痺れ、腹部の大穴、内側からの雷撃と満身創痍(まんしんそうい)。力も入らない。故に、魔法をもって止めを刺す。


 だがしかし、相手は異形の魔物。尋常ならざる再生能力を持つ。


 以前斬り落とした脚は生えているし、レルミナが斬った尾の出血もすぐに止まっていた。殺るならば今すぐに、一息で刈り取らねばならない。


 全力の雷撃も石柱の直撃も耐えられてしまった。となれば如何にするか?


 答え: 自然現象を利用する。


「──耐えられるものなら耐えてみろってな」

「……な、に?」


 大事なことなので二度言いました。いや、一回目は内心で言っただけか。


 立ち上がり大槍を拾おうとするセルケトを無視して天へ向けて全力の雷撃。


 吹き荒れる衝撃波を堪えて空間魔法の「転移」を発動。


 すぐさま、彼女を上空へ送り出し──。


 寸秒後、雷鳴が轟いた。

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