9-29 怒りの矛先
超久しぶりの本編更新のため超簡易な人物&状況紹介
ロウ:褐色少年な主人公。現在、相棒たちと力を合わせて最強モード中。
サルガス・ギルタブ:ロウの相棒となる二振りの曲刀。武器なのに割とおしゃべり。
皇女姉妹、ユーディット・サロメ:魔王城的な建物に囚われていた帝国の皇女。大英雄とロウとが戦う中でロウによって救出された。
ウィルム:竜。大英雄との戦いで負傷し、現在皇女姉妹から治療を受けている。
バアル、あるいはバエル:前話で重要っぽいことが判明したような気がする上位魔神。帝都をぶっ壊した張本人のため、ロウから絶対殺す認定を受けている。
〈──大英雄がよもや、単なる魔神に敗れようとは!〉
確かな手応えを拳に感じ、ついにユウスケを打倒した──そんな瞬間耳に届いた不快な声。
同時に、そこかしこで風が吹き荒れ稲光が駆け巡り──嵐の只中に変貌する!
(この雷は……っ!)(間違いない。大英雄の墓で感じた魔力だぞ!)
「黒幕その二のおでまし、か」
憑依している相棒たちの緊迫した声で思い出されるのは、神を騙った魔神の紫電。この帝都ベルサレスを混沌の渦中に叩き込んだ元凶──嵐神バエルの雷だ。
「つっても、向こうから出張ってくるなら大歓迎だけどな──哈ッ!」
雷特有の肌がヒリつくような圧力を気合の一声で吹っ飛ばし、宙を蹴って連続跳躍。拳と蹴りで嵐を切り裂き切り抜けて、後方待機中の皇女姉妹のもとまで一気に後退!
「あれは──きゃっ!?」
「失敬、そのまま少し屈んでてくださいッ!」
到着早々足を蹴り上げ、腰を回して大車輪。
360度丸ごと刈り込む回し蹴り──陳式太極拳小架式・旋風脚でもって、追いすがる雷の束を薙ぎ払うッ!
「䠞ッ、呀ッ!」
「「っ!?」」
ねじった腰を存分に使って加速した足刀は容易に空間をぶち破り、直後に炸裂。その余波が風も雷も押し流し……一面、何もかもを平らかとした。
ただのひと蹴り。それだけで、魔神の大魔法が霧散する。
つい最近まで同格であっただろう相手にこの圧倒ぶり。俺も来るところまで来たという感じだ。
(……確かにその通りなんだが。お前さん、それを自分で言うのはどうなんだ?)
(何を言っているのですかサルガス。ロウはもはや最上位の魔神さえ軽くあしらえてしまうほどの実力です。ロウの実感は何一つ間違っていないのです!)
「いやあ。そこまで賞賛されるのもなんかちょっとこう、ねえ」
「嵐が、晴れた……? って、ロウさま!?」
曲刀たちとの久しぶりの脳内問答に興じた矢先、弾むような少女の声がこちらを現実へと引き戻す。ボロボロな服装でゆっさゆっさと胸を揺らす皇女、サロメである。
「サロメ殿下、ご無事で何よりです……ユーディット殿下も」
「ロウ……助けくださったことは勿論感謝いたしますが。このような状況でもサロメの胸元に視線を注ぐあなたには、もはや呆れる気力も湧きませんよ」
「へ? うひゃあっ!?」
「失礼いたしました。申し開きもございません。ただただサロメ殿下の力学的運動が時を忘れるほど興味深く……」
(全く、馬鹿言ってないで集中してください。戦闘中ですよ!)
「「っ!?」」
今度の横やりは強烈極まる発光現象。
その正体は再び迫った風と雷。全方位から一点めがけ、神の嵐が神なる速度で襲い来る!
──が、しかし。
「ユウスケとやりあった後じゃあ、な」
磨き抜かれた光速の剣技と、そこから奔った聖剣光波。
文字通り光の速度だったあの絶技の数々と比べれば……この程度、窮地どころか難局ですらない。
「不生不滅」
故に動じることなくさらりと対応。
サンスクリット語の詠唱と共に腕を虚無の権能で満たし、魔法を構築。
軌道を捻じ曲げる「空間歪曲」をパラボラアンテナの如く展開し、風雨雷雨をこちらの手の平一点へと導いて──。
「ふんッ」
「「っ!?」」
──集めたそれを、握り潰して沈黙させる。
〈……結界を無視して空間魔法を操るほどの構築力に、我が“嵐”の権能を帯びた嵐をものともしない不可解な権能。なるほどな、曲がりなりにも大英雄を打倒しただけはあるな? 魔神ロウ〉
稲光が晴れてみれば、偉そうな評価を念話で受信。
発信地点は俺がぶっ飛ばしてやったユウスケの近く。そこに、強烈な魔の気配を振りまく異形が一柱。
竜ほどに巨大な蠅、というアンバランスすぎる異様なシルエット。
その頭部は蠅に猫に蛙の頭と、関連性が見えない奇怪極まる三つ首。
嵐神バエル。あるいは、豊穣神バアル。
この大陸で広く信仰されている正真正銘の神であり……同時に、この帝都を魔で満たし破壊と殺戮の限りを尽くした、諸悪の根源。
「──……」
そのバエルの異様で異常な姿を見た時、ひとりの人物が脳裏をよぎる。
愛する娘のため身を切るようにして働いていた、人の好い店主。
それなのに、魔物に殺され“虫”に寄生され、果てには護られるべき騎士たちから串刺しにされて無残な最期を迎えた……あまりにも救いのない、哀れな人物。
「魔神の魔法を、素手で握り潰した……? なんて滅茶苦茶な。……ロウ? 平気ですか? やはり痛むのですか?」
「いえ。あいつの面見て嫌なこと思い出してただけです。両殿下、引き続きウィルムの治療をお願いします」
「えっあっ、ロウ!?」「ロウさま!?」
あの悪夢のような出来事も、今目の前に広がる帝都の惨状も、全部空で佇むあいつが元凶。
ならば、これ以上の思考は不要だ。
「上から目線で寸評してるとこ悪いけどさ。お前もう、格下だろ」
〈!?〉
滾る怒りの矛先を定め、転移発動・接敵完了。
「頭かどうかは知らないが──お前はやり過ぎた」
宙を踏み込み空を踏み割り、握った拳で天を貫くアッパーカット。
蠅の魔神の巨大な腹が抉れ穿たれ千切れ飛ぶ。
〈お゛ッ、ァ……!?〉
「地獄で悔いろ、腐れ外道」
吹っ飛ぶ胴体を即座につかみ、続けざまに全力全開の投げ技展開。
腹筋・背筋・肩から指まで全てを使い、バエルを直下の地面に叩きつけるッ!
「おおおぉぉぉりゃあああッ!」
〈──ッ!?〉
八極拳式のアッパー・降龍に、下方へぶん投げる千斤墜。
それをもろにくらった蠅野郎は音の壁を云十枚ぶち破り、土塊を巻き上げ大地に激突。
雷鳴十回分の轟音&衝撃波と共に地面をたわませ吹き飛ばし、特大クレーターの中心で黒く汚いシミとなり果てた。
「とりあえず始末完了、と」
(終わったか。呆気なかったな?)
「どうだかね。あのベリアルと肩並べてるわけだし、こんなもんじゃないとも思えるけど。第一、前にやり合った時は……!」
唐突に復活したからな──そう繋げようとした矢先に気配を感知、しゃにむに側転ッ。
((!?))
瞬間、なにものかが元居た場所を超高速で通過して、激烈な衝撃波が吹き荒れる!
「くぉッ、危ねッ」
通過していったのは光り輝く高熱源体。吹き荒れた衝撃波はいつぞやのドレイクパンチを思い出すほど強烈無比。赤い魔力で無ければ竜のそれと勘違いしてしまうほどの一撃だ。
(なん、雷ッ!?)
「いや……破壊力的にもっと強烈なもんだろう。雷ほど光ってなかったし。……もしかして、風の塊を雷撃で加速して撃ち出したのか? 風と雷で本領の“嵐”、か。腐っても嵐神、伊達じゃねえな」
(雷で風を加速? いくら嵐の魔神とはいえ、そんなことが可能なのですか?)
「知らん。それっぽいこと言ってみただけだし」
(……)
(……ロウ。お前って本当、信じられないくらい投げやりになることあるよな)
などと相棒たちに呆れられている間にも“嵐”の砲弾(仮)が次々飛来する。
一発一発が隕石ばりの衝撃波を生み出すそれは正しく天災。地上に当たればくり抜いたような穴が開き、直後に起こる大爆発で湖のような大穴出現。遥か上空を掠めるだけでも地表が削れて大地が軋む。
烈風蒼雷が乱舞する嵐の魔法も大都市一つを滅ぼす規模だったが……こちらの威力は更に上。避けながら上空へ移動していなければ、辛うじて原形を残す帝都も凸凹ばかりの荒野となっていたことだろう。
「でもまあ、拳でも魔法でも対処できる程度か」
竜の拳なら俺の五体で止められる。
隕石級の魔法であっても、“虚無”で曖昧となった空間魔法なら遥か彼方へ転送できる。
「どうやって生き返ったのか分からないのが不気味だけど。そこは繰り返していけば判明するだろうし……やることは単純だな」
つまるところ、死ぬまで殺せば問題なし。
(私たちの憑依状態も安定しています。ロウ、存分に力をふるってください!)
「おう。頼もしいね」
勇ましい声に背中を押され、固めた決意で魔力を凝縮。
魔法に体術。どちらも対処が可能なら……組み合わせたらどうなるか?
「ふぅ……」
無刀のまま居合を構えて思い描くのは、いつか見た古き竜の超絶手刀。
遥か地平まで斬線を描き空間魔法すら“渇き”で呑み込んだその技を──“虚無”の力で模倣する!
「技、借りるぜ──ヴリトラッ!」
名前も知らない手刀の一閃。されど、俺の身をもって知る絶大威力の竜の一撃。
模した居合が天地に一本線を引き──黒いそれが嵐の魔法を、荒れた大地を、広がる空間を! 食らい呑み込み爆ぜ狂う!
〈ぐ、ぬ──!?〉
「よう、また会ったな?」
吹き荒れる虚無を足場代わりに爆風の只中を突っ切ると、見るも無残なバエルと遭遇。三つ頭のうちの猫頭が消え去り胴体部分が派手に抉れ、巨大蠅と言うよりセミの抜け殻のような状態となっていた。
〈……クッ、ハハハ。万年の時をかけて培った我が力が……幾万幾億の糧を食らって至った我が力が。よもや、貴様のような稚児に通じないとはな。不合理と言わず何と言おうか〉
「何言ってんだ? あんな当てずっぽうじゃあ当たるもんも当たらんだろ。培った云々の前に使い方が馬鹿丸出しだし、二の手三の手もなかったし。まあ、そんなことより──二回目だ」
愚痴を斬り捨て手刀を構え、そのまま両手で千本貫き手。
蠅と蛙の頭部を、抜け殻となった胴体を、穴だらけとなったぼろ布のような薄翅を、穿つ穿掌で打ち貫いて抉り殺す。
〈……ッ……〉
「終了。次はどうくるか」
穴だらけを通り越してチリとなったバエルだが……どうせまた復活するだろう。
それも上等。むしろ生き返ったほうが煮えたぎる感情をぶつけられるし……何度も潰せば、少しは帝都で生きていた人たちの無念も晴れるかもしれない。
迷わず惑わず完遂しよう。
どれだけあがこうが奇をてらってこようが──全力で叩き潰す。





