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異世界を中国拳法でぶん殴る!  作者: 犬童 貞之助
第六章 大陸震撼
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6-7 説明と逃避

 ヴリトラ大砂漠より帰還して二日目、その昼下がり。


 超絶美少女(ただし中身は腹黒な女神)との会食を終え、現在買い物真っ最中。お相手は人型となった曲刀たち、場所は都市の東側──新市街だ。


 石造りの大きな店舗が大通りに立ち並ぶ様は、都市の西側──バザールのある旧市街とは、(おもむき)が大きく異なる。


 旧市街のように入り組んでいないのは当然として、強引な客引きも無ければ、ローブに身を包み獲物を探すように目をぎらつかせる怪しげな人物もいない。ボルドーがそうであったように、至極真っ当な繁華街(はんかがい)である。


 そんな目抜き通りで買い求めるは、すっかり数が無くなってしまった衣服に、砂漠で失くしてしまったバックパックや旅道具。


 ヴリトラが顕れた当初異空間に放り込む暇も無かったため、旅に持って行ったものは全てサヨウナラとなったのだ。悲しい。


「──ロウ? どうかしましたか?」


「ん、他に買い足すものないかなーって考えてた」


 今日の流れを軽く振り返っていると、隣を歩く目の覚めるような美少女がこちらの顔を覗き込む。我が相棒、ギルタブである。


 今日も今日とて黒髪ミディアムレイヤーが(うるわ)しい彼女は、灰白色のブラウスに黒のロングスカートという、相変わらずのシンプルな出で立ちだ。


 彼女は既に衣服を何着か購入しているが、身長の割に細身であるため色々と調整があるらしく、購入した服もすぐには受け取れなかったようだ。


 着て回りたかったのか折角購入したのにとしばらく不満げだった彼女だが、今の服も雰囲気とよくあい似合っていると褒めると気を良くしてくれた。


 同じく曲刀なサルガスが肩をすくめていたような気がするが、楽しい買い物なのだから気分は上げていかねばね。俺が気恥ずかしさを感じるだけで済むのなら安いものだ。


「服も背嚢(はいのう)も魔道具関連も揃えたし、残ってるのは寝具くらいか?」


 そんなことを考えていると、(くだん)の人物サルガスが口を開く。


 銀髪に緑青色(ろくしょうしょく)の眼、そして長身なイケメンは、先ほど入った貴族御用達の店の衣服を華麗に着こなしていた。細かな刺繍(ししゅう)が上品な銀灰色(ぎんかいしょく)の衣服は、銀のイケメンにはこの上なく引き立てる。


 彼はギルタブと違い、購入した服のサイズがピタリと合ったらしい。モデルみたいな細マッチョだからだろうか? (ねた)ましいことだ。


「もうそれくらいしか残ってないか。買い物も意外と早く終わったな」

「ふふふ、楽しい時間は短く感じると言いますからね」

「確かに、曲刀として腰にぶら下がっているよりも楽しく感じるな。人の身で見聞きしたり手で触れ足で歩くのも、中々どうして悪くない。無論、曲刀として振るわれるのが本懐だがな」


「さいでっかー」


 のほほんと会話をしながらも買い物を続け、夕方には買い忘れもなく終了。曲刀へと姿を戻した彼らを身につけ宿へと戻り、その日は何事もなく平穏に終わった。


◇◆◇◆


 首都ヘレネスに帰ってきてから三日目の未明。


 いつもの様に短時間睡眠から目覚め、鍛錬を行うべく異空間の門を開く。


「──ぬ!」


 するとそこには、枯色(かれいろ)の長髪を(なび)かせた二十代半ばの優男がいた。


 誰だおめー。


「ふむ、ロウか。もう飯時か?」


 そしてその隣には、大槍を持っているセルケトの姿。


「おはようさん。今外は夜中だぞ。ところで、そっちにいる人ってドレイク?」


「左様。シアンら眷属(けんぞく)たちの紹介を終え、今は我と実力を見るための手合わせをしていたのだ」

「フン。ロウといったか、貴様、このような空間に我を捕らえてどうするつもりだ?」


 ウィルムやヴリトラと変わらぬガーネットの目を細くし、険のある言葉を発するドレイク。細身ながらもその圧力は健在で、滲みでる威圧感は王者のそれである。


 とはいえ、俺も魔神。それも異世界の存在と混じりあい変質した、力ある存在だ。


 ならば動じることなく己の言葉を伝えるべきだろう。


(……小心者なんだか図太いんだか)(戦闘中の無茶ぶりとは似ても似つきませんね)


 念話が聞こえたのか眉をひそめるドレイクに、そんなものなど無かったかのように語り掛ける。


「どうするもこうするも、お前が俺を試すだとか言って殴り掛かってきたのが原因だろうが。成り行きでこの場に放置しただけで、捕らえる気なんてないよ」

「ぬう、事の発端はそうであったが……。なれば、どうする?」

「うーん、普通にお帰り願うかな。ウィルムに何か用件でもあるなら、その限りでもないけど。って、あいつの姿が見えないけど寝てるの?」


 人型となったドレイクに応じる中で蒼髪の美女が居ないことに気付き、そのことを問う。


 すると、不愉快そうに眉根を上げた青年から言葉が返った。


「あやつは今、貴様の眷属(けんぞく)らと水浴び中だ。ウィルムが人の身にやつしているからと、不埒(ふらち)なことを考えるなよ?」

「いやいや、竜相手にそんなこと考えないって」

「なにィ? 貴様、あの美しいウィルムに魅力がないとでも言うつもりか!」


「そこまで言ってないだろ……。というか、シアンたちも一緒なのにセルケトがその中にいないのは、ちょっと珍しいな」

「我は身体の少々調子が悪くてな。ドレイクとウィルムが積もる話を崩している間、一人先に済ませたのだ」


 前に素っ裸を(おが)み拝まれたと伝えたらこの青年は一体どのような反応をするのだろうか、と思考を脇へ逸らしていると、セルケトの口から気になる言葉が出た。


「どこか悪いのか?」

「うむ。『竜眼』で見たウィルムが言うには、我の魔力が何やら(よど)んでいるらしい。その影響かは判断しかねるが、時折我の核……魔石が(にぶ)く痛むのだ」


 軽く聞いてみると、思いのほか深刻な答えである。


 ヴリトラに手酷くやられた彼女を回復させる際、再生するイメージを肉体だけにしていたのが悪かったのだろうか?


 一時的なものなのか、あるいは負った傷が完治していないのか。


「魔石か……流石に専門外も専門外、回復魔法で治療は難しいかねえ」


「ロウに治療を頼むやもしれんが、それはティアマトに会ってからとなろう。ウィルムの見立てでは、あの者であれば我の淀んだ魔力を細部まで解析できるようであるし、原因が分かれば対処も出来よう」

「ああ、そういえばティアマトさんはやたら『眼』がいいんだっけ。そういうことなら会う算段つけてみよう」

「おい、貴様ら。さも当然のように大地竜の名を出しているが、魔物や魔神が軽々に口にしてよい名ではない」


 彼女が既に対応策を打ち出していたことに安堵していると、諸々(もろもろ)の事情を知らないドレイクが会話に割り込んできた。


「そんなこと言われてもなあ。俺たち、もうティアマトさんに会ってるし。俺なんて二回だし」

「なに? 魔神である貴様が、あの大地竜と会っているだと? どういうことだ?」

「ふぎゃッ。ちょっとちょっと、熱いから魔力引っ込めて!」


 何度か会っていることを伝えると鋭い目つきを更に鋭利にさせ、産毛(うぶげ)が焦げ付くほどの熱風を吹き散らし詰め寄ってきた。


 こいつにしてもウィルムにしてもヴリトラにしても、何故竜の魔力とはこうも危険なのか。


「我の拳を生身で受ける魔神が、この程度の熱を問題とするはずがないだろうが。話を逸らさず説明せよ」

「……ごもっともで。元々はウィルムが俺にちょっかいを出してきたことが原因だったんだけどさ──」


 忘れもしないウィルムとの衝撃的な出会いから、その後の処遇に魔神バロールとの会談、そしてティアマトとシュガールとの遭遇まで。


 ちょくちょく質問を突っ込まれつつも駆け足で竜関連の話をしていった。


「──とまあ、そんな感じでティアマトさんと会ったわけだ。考えてみれば、お前の『炎獄(えんごく)』が原因みたいなもんだったな……」


「ぬう。あれはもう過ぎたことだ、捨て置け。しかしロウよ、ウィルムほどではないにしても、ティアマトも相当な魔神嫌いだ。よく二度も会い、生き永らえたものだな」

「確かに一回目は殺されるかと思ったけど、二回目は事情が事情だったからなあ。ウィルムだって死にかけてたし、同族とはいえ流石のティアマトさんも腹に据えかねた感じで、あの時俺をどうこうしようって考えはなかったみたいだよ」


 琥珀色(こはくいろ)の巨竜と赤き巨竜の、尋常ならざる取っ組み合い。頂上決戦というに相応しいその戦いを脳裏に浮かべていると、枯色の青年が目の色を変えて食いついてきた。


「ウィルムが死にかけただと!? どういうことだ!」


「熱ッ。って、ヴリトラからその辺りのことを聞いてないのか。あの爺なら『儂ぁ悪くない』とか言って説明しそうにないけど……」

「ヴリトラ……。ぬう、あの琥珀竜は、汝がシュガールやウィルムを(そそのか)し手勢に加えんと画策(かくさく)している、としか話さなかったが。汝とあやつの間に、一体何があった?」


「マジで説明されてなかったのかよ。あいつって本当に期待を裏切らねえ奴だな」


 案の定、ドレイクはクソジジイことヴリトラから碌に話を聞かされていなかったようだ。あの馬鹿って本当に火種しか撒かねえぜ。


「ざっくり話すと、俺とウィルムが旅をしてる時にヴリトラが突っかけてきて、その時にウィルムやそこで寝てるセルケトが死にかけたって感じ。で、ヴリトラと俺が戦ってたところにティアマトさんが仲裁にきたんだよ」


 俺の話が退屈だったのか、セルケトは土魔法で創った寝台で横になって(くつろ)いでいる。


 そんな彼女を(あご)で指しながら青年に事情を語れば、唸り声が返ってきた。


「ぬうぅ、あの偏屈者(へんくつもの)め。魔物や魔神はともかく、ウィルムまで殺そうとするとは。ロウよ、よくあの者を止めてくれた」


「ウィルムとは友達みたいなもんだし、あの時は本気で頭にきたからな。俺自身の衝動で動いたわけだし礼を言われるもんでも……と思ったけど、感謝の念があるのなら、もう俺に突っかかってくんなよ?」

「魔神とはいえ、多少は話せる部類であるようだからな、汝は。我ら竜属を害さない限りにおいて、敵対せぬと誓おう」


 不本意だが、と暗黙のうちに示されつつも不可侵条約が締結された。


 竜属を害する、という条件がどこまで適用されるのかが不安だが、そこをつつくにはまだまだ親密度が足りない。おいおい聞いていこう。


(絶対そのまま忘れるよな、お前さん)(忘れるでしょうね、ロウですから)


 つつくのを先延ばしにすると、曲刀たちから痛いところを突かれてしまった。


 心を読まれるというのも困ったもんだね、全く。


◇◆◇◆


 丁度ドレイクと話を終えたあたりで水浴びを済ませたウィルムやシアンたちが現れ、一緒に鍛錬を行うこととなった。人化した曲刀たちも含み、大所帯での訓練である。


 前世での道場稽古(げいこ)を思い出して郷愁(きょうしゅう)に駆られながら、型に模擬戦にと訓練を続けること三時間。


 俺やウィルムの動きを注視していたドレイクが、おもむろに口を開く。


「──奇怪な動きであるな。緩慢(かんまん)かと思えば加速し、軽捷(けいしょう)かと思えば減速する。無駄な動きが多いように見えて、その実は致命の動きへと連なっている……」


「初見でそこまで理解できるってのは、流石竜って感じだ。ウィルムの時も思ったけど、君らって武術に造詣(ぞうけい)があるよな」

「当然であろう。我ら竜属は長き時を生きる故、手慰(てなぐさ)みに様々なことへ手を出す。多くは力ある竜に不要なものであるが、(たわむ)れには十分なのだ」


 青年の言葉を受けて話を振ってみれば、人とは違う生き物らしい返事であった。


 以前ウィルムから聞いたような話だが、竜の生とは結構退屈なようだ。悠久の時を生きるというのは、平々凡々な俺には想像もつかない領域である。


 ……うん? というか俺も魔神じゃん。俺自身の寿命はどうなっているんだろうか。


「してまたウィルムよ、おぬしは今後もこやつと行動を共にするのか?」

「技術を学び終えるまでの間、しばらくはな。妾のことが気に掛かるなら、ぬしも共に学べばよかろう。魔神なれど、ロウの技量は一見に値するぞ?」

「ぬう……」


 寿命についてぼんやりと考えている内に話が飛び、いつの間にかドレイクが弟子入りしてきそうな流れになっていた。会話の最中に考え事をするのは危険である。


「いやいや、竜を二柱も面倒を見るのは流石に手に余るというか。ぶっちゃけウィルムだけでもしんどいし、眷属たちやセルケトもいるんだし」


「なに、妾の相手が面倒だと?」

「ウィルムは受け入れるというのに我は出来ぬというのか、貴様。やはり不埒な考えを有しているのではないか?」

「あがー! 魔力垂れ流しながら近寄るんじゃねえ!」


 北風(衣服が凍結する極風)と太陽(皮膚を焼く灼熱)から距離をとり、彼らの言葉を検討してみる。


 枯色竜ドレイク。それは言うまでもなく伝説級の存在である。


 人型へ変じていても、その力は変わらず強大のままだ。


 気に食わぬからと「炎獄」でもぶっ放されようものなら、異空間であれば溶岩地獄が顕現して俺の荷物を呑み尽くす。それが街中であれば、都市が溶岩の海に消えてしてしまうだろう。


 結論、抱えるにはあまりにも大きな爆弾であると言えよう。


「やっぱり、パスで」


「我を受け入れぬとは、やはりウィルムとの逢瀬(おうせ)が目的か。よかろう、この場で(ちり)としてくれる!」

「違うに決まってんだろうが。というか、いきなり不戦の約束を反故(ほご)にしてんじゃねーよ!」

「やいロウ。貴様、妾と会うのが嫌だというのか? ならば、日頃胸や尻に向けているあの視線は何だというのだ!」


「いや、別にお前に会うのが嫌とまでは──」

「──貴様! 果然(かぜん)先の言葉通りではないか! ウィルムに淫猥(いんわい)なる視線を向けるなど、許せん!」


 再び金の奔流が発生し、両側から熱風と冷風が吹き荒れた。


 (しも)に塗れ凍結し、熱風で焦げ変色していく我が衣服。折角買い物に出かけたというのに、あんまりじゃあないですか。


「おいロウ、何とか言ったらどうだ!」「黙りこくるならば、力ずくで──」


「──はい。俺は用件済んだし、またな。さいならー」


 ここは我が空間、なれば出るも入るも自由自在。


 故に客人に合わせる道理なし。


 そんなわけで門を構築し、罵詈雑言(ばりぞうごん)が聞こえる中宿の自室に戻り、門を閉じる。


 三十六計(さんじゅうろっけい)逃げるに()かず──そうどこぞの将軍が言っていたし、柔弱(じゅうじゃく)剛強(ごうきょう)に勝つと偉い思想家も言っていた。


 つまるところ、衝突が起こると分かれば発生前に去ればよいのだ。


「あ、人化状態のサルガスやギルタブ置いてきたか。……眷属たちが飯を作れるし備蓄してる食料も十分あるし、まあいいや。とりあえず一風呂浴びてから今日の予定を考えよう」


 独り言ちて現実逃避も完了。


 訓練でかいた汗を流してた俺は、綺麗さっぱり新たな一日を迎えるのだった。

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