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異世界を中国拳法でぶん殴る!  作者: 犬童 貞之助
第五章 ヴリトラ大砂漠
155/318

5-9 大陸北部中央、フェルガナ聖教国跡地

 曲刀たちの人化に驚いた日から一日飛んで、旅を始めてから八日目の朝。


 大陸北部の中心に近い、亡国フェルガナ領域内での調査を行うその初日である。


「──おおぉぉ……これは、凄まじい光景ですね。辺り一帯が、焼けたような砂丘しかない」


「この先は琥珀竜(こはくりゅう)の魔力が残留していて、ただ空気が乾燥しているだけではなく、あらゆるものが“渇く”領域となる。行動する際は必ずこまめに水分を補給し、乾燥させた果実で栄養を補給する様に」

「調査は午前と午後に分け、調査班も同様に二つに別れます。この領域で長時間活動するのは非常に危険なので、交互に調査を行う形ですね」


 (なま)めかしくさえある砂丘の稜線(りょうせん)に打ち震えていると、研究者コンビが説明を開始した。


 大砂漠の中心地付近は極限環境というだけあって、一時間に三回は水分補給しないと危険らしい。


 更には、発汗による血液中からのミネラルの流出が激しいため、水分のみならず栄養素も補給せねばならないのだとか。


 かつての調査隊は食料、特に塩分の見積もりが甘かったため、ミネラル不足からくる頭痛や倦怠感(けんたいかん)、足の痙攣(けいれん)に悩まされ調査が(はかど)らなかったのだという。


「──という訳で、あまり食欲がない時でもしっかりと食事を行ってください。栄養が不足すると逆に食欲不振となり、更に食事が進まなくなりますから。では、食事の話はこれくらいとして……次は人員の振り分けですね」


 説明が進んで組み分けの話となり、アインハルトのグループがアシエラ姉妹にセルケト、ヘレナのグループが俺とヤームルにウィルムとなった。


 奔放(ほんぽう)な魔物を目の届かないところへ行かせるのは不安だったが、戦力の(かたよ)りを避けるために別れざるを得なかった。


 こちらのグループにいるウィルムを向こうのグループに入れたらセルケトと行動することも出来たが、勝手気ままな竜を見張れないというのは論外である。ならばアシエラ姉妹と仲の良いセルケトを旅させた方がマシと言うものだ。可愛い子にはなんとやらであろう。


(ロウは相変わらずセルケトに甘いのです)

(そうは言っても親心のようなものだろうさ)


 俺の心情を読み取り適当な感想をよこしているのは曲刀たちである。


 その姿は当然人型などではなく、武器の曲刀。セルケトやウィルムとは異なり、長時間の人化が行えないこと、そもそも人化をしても武器である彼らの存在は周囲への説明が難しいことから、武器に戻ってもらっている。人化を成せるようになってもいつも通りであった。


「それでは行ってくる。拠点にいるとはいえこの環境だ、君たちも水分や栄養補給を怠るんじゃないよ」


「「「はい」」」「行ってくるがいい」


 一柱を除いての素直な返事でアインハルトたちを送り出し、待機時間へ突入。


 とはいえ、何をしたものか。土魔術で創られた拠点は魔道具によって快適な温度湿度に保たれているし、いっそ寝てしまおうか?


「こほん。えっと、ロウさん。少しお時間──」

「──おいロウ、少し話がある。こっちへついてこい」


「ぐげ。歩くから首根っこ掴むなって。すみませんヤームルさん、ご用でしたか?」

「……いえ、大した用事でもないので大丈夫です」


 時間潰しの為に方策を練っているとヤームルに声を掛けられたが、彼女が用件を言い切る前に高飛車(たかびしゃ)トカゲことウィルムが強制連行を発動した。


 互いが転生者であると知って以降、ヤームルとは話す機会が格段に増えている。


 集団で行動しているため地球時代の話はそうそう出来ないが、同志のように感じている俺同様に、彼女にとってもそのような存在に感じているのかもしれない。


 そんなことを考えつつ猫掴みのまま拠点の個室へと拉致されていると、俺のぼんやりとした思考を読み取った曲刀たちが感想を投げてきた。


(転生者ねえ。ロウが変に落ち着いてたり知識があったりするのも納得だが……あのヤームルもそうだとはな)

(あの子はロウより成熟している風ですから、私としては合点がいったのです。それに、時折ロウの思考が読み取れなかったことも、転生に関する事柄が理解できなかったと考えればしっくりきますし)


 転生者という事実は既に曲刀たちも知るところだ。というより、俺の思考が読まれ問い(ただ)されたと言った方が正しいが。


「……転生者、か。異なる存在を丸ごと取り込み、融合変質した存在だったか? 貴様の非常識さの要因はそれか」


「あッ」((あっッ))


 曲刀たちと転生者についてうだうだ語り合っている最中に、俺を解放したウィルムが突如会話に割り込んできた。


 そういえば、竜って念話聞き放題でしたね。

 またやっちまったなァお前ら!


(まあ、どの道ウィルムにはバレるというか、バレていただろうさ。今もわざわざ個室へ移動したくらいだし、聞きたいことがあったんだろうし。俺たちのポカという程でもない)

(サルガスの言う通りなのです。そもそもの原因はロウが私たちに漏らしてしまったことにあるのですし、責任は三人にあるとさえ言えるのです)


「おいおい怒涛(どとう)の言い訳だな。見苦しいぞお前たち」


 等々醜い口論を繰り広げていると、観戦していたウィルムがどうでも良いとばかりに鼻を鳴らして冷気を吹き散らす。


「下らん茶番はよせ。妾がこうして時間をとってやったのは、曲刀どもの魔力が変質しているからだ。貴様、一体何をした?」


「そういうことまで分かるのか。何をしたと言われても勝手に成長したというか、進化したというか……」

(勝手にて。こっちはお前の魔力で変質したってのに、他人事過ぎだろ)

(命じられたわけでもないですから、勝手と言えば勝手ですが……)


 彼女の問いに対し言い(よど)めば、鼻に(しわ)をよせ不愉快気な表情を作られてしまった。


「変質だと? 妾たち竜の魔力であっても長い時を経なければ馴染まぬというのに……。貴様が異界の存在と混じったことで、曲刀どもの変化を促進させたか?」

「俺に聞かれてもな。俺なんてこっちにきてからひと月ちょいだし、その辺りの事情はお前の方がよっぽど詳しいだろうよ」


 答えようがないと話を打ち切れば、彼女の鼻の(しわ)が眉間にまで延長された。


 不機嫌満面である。やだちょっと可愛い。


「そんな顔すんなって。とりあえず曲刀についてはそんな感じだけど、他に何か聞きたいことはあるか?」


「ふんっ。これ以上話すことなどあるものか。貴様はあの武術の知識を妾に伝えれば、それで良いのだ」


 (しも)を撒き散らし肩をいからせて、ウィルムは何処かへ去っていった。


 彼女は云百年と生きているらしいが、どうにも子供っぽく見えてしまう時が多い。竜として思うがままに生きてきたからだろうか?


 残された冷気に身震いしつつ、俺は個室にあった石の寝台に横になり、午後からの調査に備えて休息をとるのだった。


◇◆◇◆


 すやすやお昼寝タイムを経て、寝顔を盗み見ていたらしいヤームルに驚くお昼時。


 動揺しつつも食事の準備のために移動し、へとへとになって帰ってきたアインハルトらに昼食を用意して、一緒に食事をしながら調査の話を聞いていく。


「──魔物の気配はなかったが、以前調査に出向いた時と変わらず、尋常ではない乾燥領域だったよ。魔術の『水弾』もすぐに乾いてしまうから、水分補給には難儀したね」


「『水弾』って人の頭くらいの大きさでしたっけ? それもすぐに乾くって相当ですね」

「そうそう。それで私も教授もお姉ちゃんも、みーんなヘロヘロになっちゃって。セルケトさんは魔力で身体を保護して、平気みたいな顔してたけど……」


「渇くは渇くが、しっかり水を飲めば問題ない程度であったな。こやつらが水を浴びるように飲み、乾燥させた果実を次々と頬張る様は、中々に愉快であったぞ」


 アインハルトも吸血鬼姉妹も熱中症のような状態で食欲も無いようだったが、セルケトは平常運転だ。手掴みでパスタをモリモリと平らげる姿は、ばてた気配など欠片もない。


 流石人外……と言えばアシエラ姉妹もそうなんだけど、やはり彼女は特別製ということなのだろうか。


「やはり変わらず過酷なんですね。大変な環境の中、お疲れさまでした。竜の痕跡は発見できましたか?」


「むっ?」


「いや、労あって功無しさ。私は東側境界沿いを調査したから、西側境界沿いを頼めるかい?」

「はい。調査が終わった時に目印の柱を立てておきます」


 報告の中で竜の痕跡という単語を聞き怪訝な表情となるウィルムに、こそこそと事情を説明する。


「言い忘れてたけど、今回の調査対象って竜なんだよ。つっても竜そのものを調査するわけじゃなくて、剥がれ落ちた鱗だったり組織だったり、残留物を調べるんだけど」


「なに? 人如きが竜属を調査だと? 思い上がりも(はなは)だ──」

「──はい! 分かったから俺と一緒にちょっとあっちに行ってよう、な?」


「やい、何をするか!」


 説明を聞いて髪の毛が逆立ち冷風が吹き出だしたところで、腕を引っ掴んでお隣の部屋へ強制連行。丁度今朝と逆の役回りだ。


「……なんだか、あの二人は仲が良いですね」

「そうさな。どちらも絶大な力を持ち、気質も似ている。であれば、あのように気が合うのも道理であろうさ」

「確かに、二人とも身勝……自由で奔放なたちですもんね。類は友を呼ぶ、のかな? むむむ」


 そんなヤームルとセルケトのやり取りが聞こえたような気がしたが、無視だ無視。


 今朝と同じ個室へ連れて行くと、開口一番文句が飛び出す。


「おいロウ、何の真似だ?」

「あのな、ただでさえ竜と同じ名前だってんで怪しまれてるのに、あの場でお前が怒りだしたらますます怪しまれるだろうが! 止めて当然だっての」


「竜だと露見するということか? はんっ! シュガールやティアマトも妾の所在を把握した以上、もはや正体を隠さず行動しようとも、何の問題もないだろうが」

「大ありだって。お前が竜だってバレたら皆が恐慌(きょうこう)状態になるわ。この大砂漠を創り出した存在と同族ってことだしな」


 隠す必要などないと居直るウィルムに否を突きつけると、むくれていた顔が更に歪み一層不機嫌となった。


「ふん。何故竜たる妾が人族どもの心情を斟酌(しんしゃく)せねばならんのだ」

「旅の最初に俺の言うことを聞くって決めてたろ。竜からしたら不満かもしれないけど、人との共同生活ってのは我慢の連続だからな。帰った時に何か埋め合わせするから、今は堪えてくれ」


「ほう?」


「あれ?」


 これ以上機嫌を損ねるのは危険だと判断し、仕方なしに妥協案を放り投げれば──彼女は不満顔から一転、妖しげな表情を作る。


 あれあれ? 思った以上にあっさり引いた……っていうか、乗せられたのか?


(はぁ……ロウは本当に、女性に甘い上に単純ですね。こうも簡単に乗せられてしまうとは)

(クククッ、自分で気が付けたのなら上出来だ。次回からは気を付けるんだな)


「ふっ。今更撤回などさせんぞ? 妾を楽しませる物なり事なり、よくよく考えておけ」


 今にも鼻歌でも聞えそうなくらいの上機嫌で身を(ひるがえ)すウィルム氏。


 愉悦の色を滲ませ去っていくその姿は、先ほどまでの不満気な雰囲気が嘘のようだ。


 というか、嘘だったのか。こすい真似しやがって……。


 内心で悪態をつきつつ彼女の尻を追い、昼食再開。

 パスタや干し肉やパンの入ったスープを八つ当たり気味に平らげた俺は、過酷な環境へ備えたのだった。

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[一言] ウィルムにセクハラしようぜ!仕返しだ〜
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