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異世界を中国拳法でぶん殴る!  作者: 犬童 貞之助
第五章 ヴリトラ大砂漠
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5-1 同行者たちとの顔合わせ

今日から第五章の始まりとなります。

 護衛兼荷物持ち依頼により、ヴリトラ大砂漠へ向かう、その当日。


「それじゃあ、行ってきますね」


「はい、いってらっしゃい!」「おにーさん、気を付けてくださいね」「お帰りをお待ちしております」


 日の出を告げる鐘が鳴ってから一時間ほど経った頃。宿泊している「竜の泥酔亭(でいすいてい)」のエントランスで巨大なバックパックを背負い、ボルドーから共に旅をしてきたアイラたちに挨拶を行う。


 今日から三週間ほど、魔術大学の研究者たちと砂漠の旅だ。戻ってくる頃には大学も始まっているらしく、三人とも何日か後に学生寮へと移動するのだという。


 ……研究目的とはいえ、大学が始まるのにその教授が砂漠へ向かって大丈夫なのだろうか?


「あのような何もない、ただただ渇くばかりの地へ向かうなど、あなたも物好きですね」

「砂漠なんて、生まれてこの方見たことが無いですからね。実は結構楽しみなんですよ。それはそれとして、イルまでついてくるなんて言わなくてホッとしました」


 アイラたちに紛れこんでいる妖精神に応じながら、隣にいる美女二人に目を向ける。


 人型魔物のセルケトに竜のウィルム。彼女たちは何を思ったのか、今回の旅に同行すると言い出したのだ。


 旅の前日になってからの急な心変わりだったため、こちらは頭を抱える羽目になったが……。依頼主であるアインハルト教授の元へ向かい検討してみると、自前で食料や荷物を準備でき、且つ戦力となるならば問題ないとのことだった。


 呆気なく許可が得られてしまい、拍子抜けである。


 ちなみに、俺の異空間に住んでいる我が眷属(けんぞく)たちは、こちらへ呼び出して俺やセルケトたちの部屋のお留守番を頼んでいる。


 折角宿をとっているのに長期間空けてしまうのはもったいないこと、旅ともなると異空間をそうそう利用できず眷属たちが退屈してしまうこと。そんな理由から休暇代わりに任せたのだ。宿へ追加料金を払うことになったが、やむなしであろう。


 末っ子のサルビアも魔力を物質化させることで肉体を得られるようになっていたため、四人姉弟揃ってのヘレネスデビューである。


 留守の間、俺が武術指導を行っていたレルヒの監督を彼らに行ってもらう予定だが、それ以外ではある程度自由にするつもりだ。


 話せなかったり人の世で生活するには大きすぎる力を持っていたりと、不安な点も多々あるが……俺の知識があるしお金も十分に渡しているし、きっと大丈夫だろう。


 なにより、こっちの非常識コンビに比べれば、ずっと安心安全というものだ。


「ふむ? 我の顔に何かついているのか?」

「いや……。何で君らがついてくるとか言っちゃったのかなーと思ってな」


「知れたことだ。我も冒険者組合の依頼や戦闘の経験を積むという意図以外、あるはずが無かろう」

「貴様からは体術を盗まねばならんからな。他意などない」

「さいですかー。ともかく、ちゃんとこっちの言うことは聞いてくれよ」「ふふっ」


 それぞれが当然だという表情で宣言したので追及を諦めた。


 いい方に考えれば、竜に魔物にと極めて高い戦力を加えることが出来るのだ。旅の安全性は高まったと言えるだろう。今更(くつがえ)らないだろうし切り替えていこう。


(その分、道中の心労は増大しそうなのです)

(ククッ、そう言ってやるな、ギルタブ。俺たちだってもう人化寸前の域にはきているし、旅の途中で成せたときは紹介も兼ねられた方が楽だろうさ)


「もう人化ってマジかよ。ってことは、いつぞや言ってた憑依もできるようになるのか? なんやかやで時間経ったんだな」


 念話を寄こしてくる曲刀たちの人化進捗報告を聞く内に目的地に到着。それらしき人物を探せば、こちらに向かってくる人物が目に留まる。灰色髪のナイスガイにして今回の依頼主、アインハルトだ。


「待っていたよロウ君──と、そちらの女性二人が、君の?」

「お待たせして申し訳ありません。こっちの二人が同行者になります。大槍を持っている方がセルケト、青い髪の方が……あー……」


 挨拶を返しながら紹介を行う途中、ウィルムの名前を伝えると不味いことに気付く。


 なにせ、この大学教授は竜鱗の研究を行っているくらいの人物である。隣にいるじゃじゃ馬竜のことを知っていてもおかしくない。


 というか、ほんわか少女のアイラもぼんやり名前が浮かぶくらいだし、確実にウィルムの名を知っているだろう。やっべどうしよう。


「おい、貴様。セルケトはしっかり紹介しておいて、妾の段になると言い(よど)むとはどういう了見だ?」


「くくく、ウィルムよ。ロウはおぬしのことを紹介するのは(はばか)られるということだ」


 俺が大脳皮質(だいのうひしつ)灰白質(かいはくしつ)を唸らせ高速思考している間に、あっさりウィルムの名を呼んでしまうセルケト。台無しじゃねーか!


「フフ、仲が良いよう……ん? ウィルム、さんかい? 何か──」

「──アインハルト教授! 今思い浮かべたそれと彼女は何の関係もありませんので、ご安心ください。それよりも、他の方々のところへ行きましょう」


 ウィルムという名の何某(なにがし)かを思い浮かべたらしい教授の思考を止めるべく、背中を押して馬車を止めてあるところへ移動する。


 一応は誤魔化せたようだが……感づかれるようなことがあったらお仕舞いである。彼女にはよくよく自制するよう言って聞かせねば。


 そもそも、竜の人化とは広く世に知られているものなのだろうか? と考えている内に馬車に到着。荷物整理をしていた研究員のヘレナに、挨拶兼お詫びを入れる。


「遅れてすみません、ヘレナさん。他の冒険者の方ってもう来てますか?」


「おはようございます、ロウ君。冒険者の方はもう到着されていますが……実は、大学の学生も一人同行することになりまして」

「学生さんですか? ヘレナさんやアインハルト教授が同行を認めたなら、実力者だろうということは分かりますけど」

「ええ。私や教授のように遠近どちらもこなすというよりは、遠距離に特化した子ですね。っと噂をすれば──」


 話している内に(くだん)の学生がやってきたのか、彼女は言葉を中断して顔を上げる。


 彼女の視線の先には俺とそう変わらないくらいの背丈の、栗色(くりいろ)の少女の姿が──。


「──って、ヤームルさんじゃないですか」「やっぱり、ロウさんだったんですね」


 そこに居たのは、厚手のローブを纏い魔術師然とした出で立ちのヤームルである。


 驚く俺とは対照的に、彼女は予想通りといった風で頷き、ウィルムを見るなりジト目と化した。


「……また女の人を(たら)し込んだんですか?」

「のっけから酷いですね。後で冒険者の方々と顔を合わせた時に紹介しますよ」


「あら、お二人は既にお知り合いだったのですね」「フフ、紹介の手間が省けて助かるよ」

「なんだ、こっちの小娘もロウの連れ合いなのか? まっこと色狂いだな」


「連れ合いってなんだよ友達だっつーの。お前も知ってるアイラやカルラさんの友達でもあるぞ、この人は。というかヤームルさん、使用人の方は連れていないんですね?」

「ええ。フュンとアイシャにはアイラとカルラさんの補佐に回ってもらいましたから。……あの二人を知っているということは、宿で知り合ったということですか。ふむふむ」


 一人納得する少女をよそに荷物を荷車へ載せ、ヘレナや教授の後に続いて前方の馬車へと移動する。


 馬車の前方へとまわれば、六本脚のカバにも見える巨大な生物が馬車に繋がれていた。


「ボォ……」

「ひょえー」


 魔物とは異なる黄色い魔力を持つ巨体の体高は、ヘレネスへ来るときに見た魔獣アルデンネよりは少し低く、成人男性より頭一つ分高いと言ったところ。


 しかしながら、この鼠色(ねずみいろ)の生き物は横幅が広く、そして胴も長い。前脚中脚後ろ脚と総じて樹木の幹のように太く、鈍色(にびいろ)の鱗に覆われた様は金属を張り付けられた破城槌(はじょうつい)の如き様相だ。


 更には、頭部が凄まじい。カバのようなと形容したが、正にカバのように巨大である。八メートルくらいの体長の、五分の一くらいはありそうだ。下顎から突き出す大剣のような牙は、見る者に怖気(おぞけ)を走らせる。


 ……こいつに牽かせるのか? どう見ても長距離を走るような生き物に見えないんだけど。


「ほう、タウルトか。箱を牽かせるには適しているだろうが、よく人如きが馴らせたものだ」

「!? ボォー……」


「おい、(ひざまず)きだしたぞ。威圧すんなよな」

「ふっ。妾から滲み出る高貴さにあてられたのだろうさ」


 呆け顔で羽虫やハエにたかられていたタウルトなる巨獣は、ウィルムを視界に入れると瞠目し、敵意が無いとでも示す様に膝を折って地に伏してしまう。


 その様が珍しかったのか、同行していたアインハルトが目を丸くして驚きを表した。


「驚いたな。この亜竜は馴らされているとはいえ、人に服従するような態度はとらないものなんだが」

「これって亜竜だったんですか。鱗があるとはいえ、何だか竜っぽくない感じ……尻尾短いし、六本脚だし」

「魔獣かと思えば亜竜だったか。中々愛らしい外見なのだな」


 彼の言葉で判明した亜竜という事実に唸っていると、セルケトから妙な感想がこぼれ出た。


 頭部の大きさの割に小さな目と耳、扁平(へんぺい)な顔つきにぼやけたような表情。愛らしいというか間抜けな面に見えるが……。流石魔物であるセルケト、美的センスが謎である。


「アインハルトさんの声ってことは、他の人がきたのかな?」「みたいだね。出ようか」


 そんな会話が中にまで届いたのか、馬車の中から先に来ていたという冒険者が姿を現す。


「「「あっッ」」」


 黒い髪に赤い瞳。見覚えのあり過ぎる容姿の女性と少女は、吸血鬼姉妹のアシエラたちだった。思わず声を上げれば、三人の声が見事に共鳴する。なんか前もこんなことあったな。


 ヤームルから「また女性が知り合いなのか?」というなじる視線を浴びながら、俺は丁度いいからと強引に自己紹介の流れを作り出すのだった。


◇◆◇◆


 意外と長い六本脚をせかせかと動かし、重そうな外見とは裏腹な速度で駆けるタウルトなる亜竜。その速さは、あの剛脚アルデンネにも匹敵する。


 加えて、長距離を移動するほどの持久力と肉体をも有しているらしい。四本脚に翼部が退化した中脚を追加したことで、それぞれにかかる負担が軽減されているのだろう。


 強壮にして剛健、まさに車を牽くために(あつら)えたような生き物だ。


 このカバ……亜竜に牽引される馬車は、ものが良いのだろうか、小刻みな振動と道路工事のような騒音は感じれど、室内は(おおむ)ね快適空間と評せるものだ。車窓から生い茂る森を眺めていても、時折石を踏んだ場合を除けば衝撃も少ない。


 そのおかげか、前の馬車の旅ではグロッキーとなっていた乗り物酔いマスターのセルケトも平然としている。


 そんな中、俺同様に今回の護衛兼荷物持ち依頼を受けていたアシエラたちから、自身の技能や俺との出会いについて語られた。


 彼女たちの話で関係を把握したヤームルは、チラリとこちらに視線を寄こしながら頷く。


「なるほど。それでロウさんと知り合ったんですね。てっきり、ロウさんが鼻の下を伸ばして話しかけたのかと」


(とげ)がありますねーヤームルさん。俺だって、そうしょっちゅうデレデレしてるわけではないですよ」

「ふん。食事の最中ですら妾やセルケトの胸や尻に視線を向ける貴様が、何を言うか」

「……バレてたんスね」


 栗色の少女に反論するも、横合いからその芽を潰されてしまった。


 深山幽谷(しんざんゆうこく)たる谷間や長汀曲浦(ちょうていきょくほ)たる臀部(でんぶ)に対する我が目線には、彼女たちも気が付いていたらしい。


「あはっ。まあまあ、ロウ君はそれだけお姉さんたちのことを魅力的に思ってるってことですよ」


 誤魔化し不可能ならいっそ開き直るかと考えていると、アムールがまさかのフォローを入れてくれた。流石吸血鬼美少女(百歳以上)、寛容である。


「ロウ君は本当に外見と、態度というか中身の差が激しいね。異様に強かったり礼儀正しいかと思ったら、変にエッチだったり妙に冷静だったり」

「褒められてるんだか(けな)されてるんだか……」


「あけっぴろげだったり飄々(ひょうひょう)としていたりって感じですよね。つかみどころがありそうで無いというか」

「ねー。ところで……お二人はお知り合いでお友達とのことでしたが、実はもっと親密な仲だったりしないんですか?」


 いつの間にか俺の人物評についての話題になっていた──そう思ったところで、口角を上げ歯を見せて笑うアムールが妙なことを聞いてきた。


「ロウさんは楽しくて可愛らしい方だとは思いますけど、そういった関係にはないですよ」

「あや。ヤームルちゃんもロウ君もとっても落ち着いた雰囲気ですし、外見以上に成熟してる感じがしますし、男女の仲なのかな~と邪推しちゃいました」


「ふふ、ありがとうございます。そういうアムールさんも、私たちとそう変わらない年なのに、自分でお店を出しているのだとか。私も商人の娘ですから、ご自分で商品を作り販売までしているというのは、是非とも見習いたい行動力です」


 彼女の探るような言葉を微笑みと共に軽く流すヤームル。流石冷静さに定評のあるヤームル先輩である。だけど、男に対して可愛らしいって評価はどうなん?


「こやつが、可愛らしい? 憎らしさばかりで愛嬌(あいきょう)の足りん、これがか? 妾には理解できんな」


 ヤームルの言葉を遅れて消化したウィルムが、片眉を吊り上げながら口を挟む。そこまで言う?


「ふむ。ロウが憎らしいか小憎らしいかは、脇へ置いておこう。アシエラは実力のある冒険者として名が通っているようだが、アムールは戦力となるのか?」

「お前も大概酷いな……」


「あははっ、ロウ君ってば、お姉さんたちの前ではかたなしだね。こほん、私はお姉ちゃんには及びませんが、剣術や魔術の手ほどきを受けてますので、それなりに戦えます。といっても、基本は荷物持ちに徹するかもですけど」


 俺の話題を雑に終わらせたセルケトは、アムールの戦闘能力へと焦点を向ける。戦力の把握は重要だし、茶々を入れずに黙っておこう。


「この子は色々魔術を知っているし、身体能力に関しては私と殆ど変わらないし、高位冒険者として通用すると思う。っていうのは、多少身びいきが入っているかもしれないけど。まあ、その辺りは実戦の中で──うん?」


 アシエラが妹の能力紹介をしている最中、不意に馬車が止まる。


 何事かと魔力感知の度合いを強めれば、進行方向に魔力を振り撒く存在が複数。魔力は薄紫色、ということは──。


「──魔物か」

「みたいだな。パパっと片すかね」


「二人とも、よく分かるね? 索敵には自信があるけど、それらしき反応は……」

「進路上に何者かがいるのは我にも分かるぞ。魔物とまでは断じかねるがな」


 柘榴(ざくろ)のような赤い目を細め進行方向を見るウィルムと頷き合っていると、自分も気付いていたぞとアピールし始めるセルケト。何かと張り合う子供かよ。


「さいですか。流石セルケトさんっすね」

「おお~。お三方、流石ですね……と、お姉ちゃん、折角だしお披露目してきていいかな?」

「確かに魔物が相手なら丁度いいかもね。馬車も止まっているし、御者をやっているアインハルトさんたちに許可を頂こうか」


 先ほどの意趣返(いしゅがえ)しだと雑な返答をセルケトにしていると、吸血鬼姉妹が良い機会だからと腕前を披露しようという流れができる。


 彼女たちの提案を受け入れた俺たちは馬車を出て街道を進んでいき、その戦いぶりを観戦することとなった。

明日2月11日(火)は建国記念日で祝日のため、次回更新日は翌日12日(水)です。

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