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異世界を中国拳法でぶん殴る!  作者: 犬童 貞之助
第四章 魔導国首都ヘレネス
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4-3 アレクサンドリア魔術大学

 魔導国首都ヘレネスに到着し、一夜明けて翌朝。


 異空間で一悶着があったものの、俺は(おおむ)ね無事に自己鍛錬を終え、朝食を頂いた。


 この「竜の泥酔亭(でいすいてい)」の食堂には円のテーブル席が幾つもあり、料理群が置かれているテーブルから各自が料理を選び取る方式となっている。お好きにどうぞということらしい。


 早朝から太陽が真上にくるまで朝食が提供され、昼の間は食堂が閉まる。日が沈むと再び食堂が開放され、昨夜の様にビュッフェ形式の夕食に。


 自由な時間に食事を摂れて、且つ内容は豪勢。流石は一泊銀貨二枚の高級宿である。俺が昔住んでいた宿の、十倍の値段だからな……。


 雑念に囚われつつも食事は進む。


 パスタやピザのような定番料理から、魚の頭が突き出した謎のパイ。動物の皮? にひき肉やオートミールとよく分からない野菜を詰め込んだ、名状(めいじょう)しがたい肉料理まで。


 時に舌鼓(したづつみ)を打ち、時に胃を鷲掴(わしづか)みにされ身体が痙攣(けいれん)するような拒絶反応を引き起こしながら、朝食を終えた。


「ふぃ~。食った食った……ん?」


 強烈な肉料理による口臭を気にしながら自室に戻れば、何故か曲刀たちと談笑している人型の魔物セルケトと、猫耳少女カルラの姿が。


 戸締りをしていたのに、である。


「あ、ロウさん。おはようございます」

「ようやく戻ったか。我やカルラが朝食へ誘ってやったというのに、一体どこまで遠出していたのだ?」


「鍛錬に適した場所なんて多くないからな。というか、何で当然のようにいるんだ?」

「う。ごめんなさい……」「はっ。人の厚意を足蹴にするとは礼儀を知らん奴だな!」

(まあまあ、そう言うなって。ロウが食堂に行っている間は俺たちも暇でな。帰ってくるまでの間相手してもらってたんだよ)


 談話室状態となっている我が部屋で事情を聞けば、曲刀たちが用件があるならこの部屋で待つよう提案したのだという。


 俺は当然鍵を閉めて朝食へ向かったが、セルケトはまたも窓から侵入したらしい。姿形はバッチリ人型とはいえ、こいつは一回教育しなきゃ駄目かもしれん。


「お前らが引き留めたんかーい。勘違いしてすみませんでした、カルラさん」

「いえ、こちらこそすみません! ロウさんになんの断りもなく、部屋に入っちゃって」

「おいロウよ、我への謝罪の言葉はないのか? 引き留めたのはサルガスなのだぞ」


「お前はそもそも窓から侵入するなって話だし……」

「はんっ。扉も窓も入り口には違いが無いだろうが」


 ムッと膨れっ面になりながら居直るセルケトだが、異世界広しと言えど窓を入り口と認識しているのはこいつだけだと思う。


「これ以上は不毛だし、やめやめ。それで、どんな用件があったんだ?」

「はい、ヤームルさんたちと魔術大学に行って試験の手続きをしたり、この街の案内をしてもらうことになっているんです」


「街の案内と言えば食べ歩きに買い物だ。となれば、当然金が入用となる。故にロウよ、我に小遣いを寄越すのだ」

「……お前もその内仕事見つけろよ?」


 社会勉強の一環になるだろうし、彼女の面倒を見ている手前このくらい出しはするが……先行きが不安だ。このままたかられ続けると思うとゾッとする。


「えっと、ロウさんもこの街の観光、一緒にどうですか?」

「そりゃもう、喜んで。冒険者組合の方に顔を出しておきたいので途中で抜けるかもしれませんが。もう出発する感じですか?」

「そうだぞ。フュンとアイラの準備は終わっているようであるし、すぐにでも大学とやらに向かうようだ」


「さいですか。じゃあセルケト、これくらい渡しとくから、あんまり使い過ぎるなよ? 当面は支給しないからな」


 カルラからの誘いを受け、テーブルに置いてあった財布代わりの革袋を小遣いをねだるセルケトに与える。金貨十枚ほどと銀貨以下沢山入っているため、ひと財産と言っても良い金額だ。


 彼女に渡すには(いささ)か多すぎる額ではあるものの、カルラたちが一緒にいるなら使い過ぎるということもないだろう。


「ふむ? ……ほう、大した金額だな。気が利くではないか」

「あわわわ……金貨が沢山。セルケトさん! そのまま持ち歩いちゃ、絶ーっ対、だめですよ?」

「安心せよカルラ。我とて何度かの買い物を通し、この金貨袋が十分以上の資産であることは学んでいる。人目につくような真似はせぬとも」

「大変よろしい。それじゃ先に行っておいてくれ。こっちも準備したら行くからさ」


 女性陣を退出させて身だしなみを整え、異空間から金貨袋を引っ張り出す。


 異空間で暇をしている眷属(けんぞく)たちが、いかにも連れていって欲しいという雰囲気を滲ませていた。が、今回は君らを連れて行けないんだ。すまない。


(段々とロウの異空間も大所帯となってきましたね。いつだったか冗談で軍団が出来るかもと言いましたが)


「いざという時を考えると、人員は増やしておいた方が良いってのは感じるから、今後も増えていくかもしれん。まあ、相当想像力を使って創らないと、あいつらみたいに生き生きとした眷属は創れないから、軍団みたいなのはそうそう創れないと思うけど」


 ギルタブの何気ない言葉で言われてみればと気が付く現状。


 ウィルムは戦力に数えられないにしても、熟練の冒険者が束になっても敵わないような眷属が三体。全員が接近戦主体とはいえ恐るべき戦力だ。


 あるにこしたことはないかと開き直り、今後のことを考えて遠距離型の眷属でも創ってみるかなと新作の妄想をしながら、俺はカルラたちの待つエントランスへと向かったのだった。


◇◆◇◆


 魔導国の雰囲気は俺が今まで見てきた大都市と大きく変わらない。


 宿から一歩出てみれば石造りでしっかりとした建物たちが(のき)を連ね、その建物たちの間を人々が流水のように動いて大通りへと移動している。


「ふわ~。ボルドーも人は多いですけど、ここも人が沢山ですね~」

「うぅ~。わたし田舎者だから、こういうのはちょっと苦手かも。なんか格好が浮いてたりしませんよね?」


「ふふっ、大丈夫ですよカルラ様。いつも通り、可愛らしい御姿ですから。ですよね、ロウ様?」

「はい。今日もとっても可愛いらしい猫耳だと思いますよ」


 豪商ムスターファの使用人であるフュンに同調し、もじもじと身をよじるカルラで目の保養をしつつ、流れに乗って大通りへと向かう。河川の様に、本流に合流する支流のような気分だ。


 そのまま大通りへ出ると、色違いの石を組み合わせた見ているだけでも楽しくなるような、なんともカラフルな石畳の街路に出迎えられた。


 ぐるりと辺りを見回せば、日差しを和らげ涼を創り出す街路樹に、白い外壁、灰色の石垣、緑の生垣。やたら目立つがどんな店なのか分からない青色の置き看板に、遠目で肉屋と分かる骨付き肉の形をした吊り下げ看板。


 他の都市と違う点を挙げるならば、この統一感のない、しかし色彩豊かな街並みだろうか。


 雑多な感じがどことなく日本の街を想起させ、何とも言えない郷愁(きょうしゅう)にかられていると、アイラのハキハキとした声で現実へ引き戻された。


「わぁ~……オシャレで可愛い大通りですね~」

「うん。凄く都会! って感じがするねー」

「何とも彩り豊かな街路よな。……我にはボルドーの方が性にあっているようだ。ちいと落ち着かん」


「大通りはこんなだけど、本流から外れたら落ち着いた雰囲気の場所もあるんじゃないか? 宿の前なんてシンプルな通りだったし」

「ふむ。そういうものか」


 口々に街の感想を漏らしをしながら大通りを進んでいく。


 朝とも昼ともつかない時間だが、大通りを行き交う人々は多く、実に活気にあふれている通りだ。子供たちだけで歩くには危険だし、しっかりとした大人であるフュンが先導してくれたのは幸いだった。


 そうして彼女の後をついて回ることおよそ三十分。


 商業区域を抜け人通りも疎らな居住区域を進んだところで、高い金属の柵で囲われた建物群が姿を現した。


 巨大な壁にも見える横長の建物や、正面玄関に飾られる美しい女性を(かたど)った像が象徴的な、校舎と思わしき建物。落ち葉がしっかりと掃かれた石畳の歩道と、綺麗に枝打ちされている樹木たち。


 パッと見でも相当にお金がかかっていることが分かる施設が、そこに存在していた。


 うーむ、流石は魔術大学。ひょっとすると、前世で俺が通っていたマンモス大学よりも立派かもしれん。


「皆様、お疲れさまでした。こちらがカルラ様とアイラ様が試験を受けていただく大学──アレクサンドリア魔術大学となります」

「ふわー……」「大きい、ですね。物凄く……」


 呆けて建物群をに見入っているとフュンの澄んだ声が響いた。


 チラリと目を向ければ少女たちも俺と似たような反応をしていることが分かった。


 よかった、これが普通なら、周囲から田舎者扱いされずに済みそうだ。そう信じよう。


「随分と建物が沢山あるようだが、この大学とやらはそれほど多くの者たちが住んでいるのか?」


「国中から、更には隣国からも優秀な人材が集まるのがこの魔術大学です。首都ヘレネスに居を構える職員や学生以外は寮住まいとなりますので、それはもう多くの人々がここで暮らしておりますよ。何でも、現在この魔術大学にいる人数は職員や学生、研究者を合わせると万にも迫るのだとか」

「「「ほぇ~」」」


 彼女の語る大学概要を聞きながら柵沿いに歩いていき、校門に辿り着く。


 スライドする柵といった雰囲気の校門は既に開放されているが、武装した警備兵が常駐しているようだ。


 屈強な警備の男性に、フュンが書類やら俺の冒険者組合員章やらを提示する様を眺めることしばし。無事許可が下りたようで通行可能となった。


「部外者が出入りするのは割と手間がかかるんですね?」


「書類や提示された身分証明が正しいかどうか、精査せねばなりませんからね。とはいえ、冒険者組合員章は専用の魔道具で簡単に確認が出来るので、今後ロウ様が出入りする際は短時間で済むようになるかもしれませんよ」

「おぉーそうなんですね。割と高かっただけあって役に立つなあ」


 なんとなしにフュンへ聞いてみれば、組合員章についての詳細が教えてもらえた。


 安い宿であればひと月泊まれるほどの金額を払って得た組合員章。それだけに、身分証明としてはバッチリのようだ。


「確かな身分の証明か。人の世とは、つくづく面倒なものよな」

「国の重要な研究機関でもあるみたいだし、こういうところなら証明が必要になるのも仕方が無いだろうさ」


 魔物ならではの呟きを漏らすセルケトを軽く(なだ)めながら敷地へと踏み入る。


 大学は現在夏季休業中とのことだが、それでも学生や研究者の姿がちらほら見えた。夏休みでも研究に明け暮れているのか、はたまた実家へと戻るのが面倒なのか。


 自身も下宿時代は実家へ戻るのが面倒だったなあと思い返しながら、俺はフュンに連れられて、ムスターファの孫娘ヤームルや公爵令嬢のエスリウが待つ校舎へと向かったのだった。

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