番外編最終話 双子誕生!
※ 番外編の最終話です。(^_^)/
※ 2025/11/9 挿入修正済み
◇ ◇ ◇ ◇
その後、僕は通常の勤務を終えて、宮殿内の別棟にある正教会まで出向いた。
産科病棟の受付、看護婦と乳母のマリーに確認したが、まだ陣痛だけで出産はしてないと云われた。
そのまま、マリーと共に控室で待っていても良かったのだが、どうにもじっとしていられなかった。
「マリー、僕はアクアリネ様の霊廟にいってご祈念してくるよ。双子が生まれたら悪いが従者をよこしてくれ、直ぐに戻る」
「かしこまりました。ですがカール様。ひどい雨ですが、霊廟行くまで濡れませんか?」
「ああ大丈夫だ。この前王宮殿内から、霊廟内へ続く室内廊下をライナス殿下が作ってくれたばかりだ。従者にもそこから歩いて来るように伝えてくれ」
「畏まりました。御子様がお生まれになりましたら、すぐに使いをやります」
「よろしく頼むよ」
マリーは快く承知してくれた。
◇ ◇
そして僕はそのまま霊廟内へ来てから、既に夕方である。
ウェンディの陣痛が始まってから既に15時間以上経過していた。
僕は降りしきる雨の中、必死に室内のミケの石碑に向かって、無事に出産できるよう祈念し続けていた。
膝を突いて一心不乱に目を瞑って祈っていると、足元になにか柔らかなモノに触れた。
「にゃぁ~ん」「にゃぁ~ん」
見たら子猫たちが2匹いた。
とても可愛いミケ猫だった。僕のブーツをペロペロ舐めているではないか?
「ミケ!?」
びっくりした僕は、2匹の子猫を抱きあげた。
「にゃぁ~ん!にゃぁ~ん!」
子猫たちは鳴いたが、さして嫌がりもせず2匹共に僕の顔ををペロペロと舐めだした
「はは、くすぐったい!」
──なんだ、この可愛い子猫たちは?
なぜこんなところに子猫がいるのだろう。
もしかしてミケからのプレゼントか?
僕が子猫たちとじゃれていて心が和んだ時だった──。
ガタンと霊廟内の部屋の扉が開いた。
「!?」
マリーが従者を伴なって、スカートの裾をつまみながら霊廟内へ勇んで入ってきた。
「旦那様、旦那様、ああ、お産まれになりましたよ、奥様も双子もご無事でございます!」
「おお、産まれたか!!」
僕は声をあげた。
「はい、旦那様!」
「マリー、わざわざ呼びにきてくれたありがとう!」
「はい、とてもうれしくて自分から旦那様に伝えたくなりました。とっても可愛いお嬢様たちです!」
「おお、女の子か!」
ふと気付くと、あれほど降っていた雨はピタリと止んでいた。
いつの間にか遠くの空には、うっすらと夕空になっていた。
さらに驚いたことに、雨上りの虹が美しく七色に弧を描いて、ぽっかりと浮かんでいるではないか!
──ああ、美しい虹だ。今日はなんて僥倖な日なのだろう。
この国では双子は絶対に無理だといわれていたから、必死に祈願していたがその祈りが通じたのだ。
虹までかかって、まるで娘たちの誕生を、天が祝福してくれてるようではないか!
「そうか、女の子か……良かった。それでウェンディは本当に大丈夫か?」
「はい、ご安心を、奥様もご無事でございます。はぁはぁ」
流石にマリーは早足できたのか息を切らしていた。
眼には涙をためていた。
──マリーありがとう!
僕の目にも涙が溢れていた。
おお、ミケよ。お前に感謝してもしきれん!
本当にありがとう!
そして、アクアリネ様よ。ライ老人よ。
その他、全ての妻と娘を助けてくれた方々に感謝の祈りを捧げます。
◇ ◇
2週間後──。
屋敷のコンサバトリー内。
ウェンディの体調が思いの外、良かったので退院が予定よりも早くできた。
「お帰りなさいまし、ウェンディ様!」
「おかりなさいませ。奥様ならびにお嬢様方!」
「おかえりなさいませ、旦那様方!」
屋敷の従業員たちが、全員揃ってウェンディと双子の娘を出迎えてくれた。
ウェンディと乳母のマリーは、大きな2人用の乳母車で双子の赤ちゃんを運んできた。
僕は、大きな木目のバスケットに子猫の三毛猫2匹を入れて、一緒に大広間へと入っていった。
「みんな、私が留守の間デビッドと旦那様の世話をどうもありがとう。心から礼をいいます」
ウェンディは執事たち従者やメイドを労った。
家令たちも無事にウェンディが新しいお嬢様たちと無事に戻ってきて、涙ぐむものもいた。
「キャリー、特にあなたにはデビッドの世話をしてもらって本当にありがとう!礼をいいます」
「とんでもないです奥様。デビッド様はとてもお元気でお健やかにお過ごしておりましたから、手間はかかりませんでしたわ」
と、乳母のキャリーが明るくデビッドと手を繋ぎながら出迎えた。
「おかあしゃま~おかえりなさい!」
デビッドはウェンディに飛びつくように抱きついた。
「ただいま、デビッド。私の可愛い坊や、すっごく会いたかったわ」
ウェンディは屈んでデビッドをぎゅうっと抱きしめた。
デビッドは母に抱かれながらも、傍の乳母車を横目で不思議そうに見つめた。
「わあ、おかあしゃま、この子たちがぼくのいもうとなの?」
「そうよ、金髪の子がリリーで、茶色の髪の子がベリーよ」
「リリーとベリー。すごくちいしゃくてかわいい!」
デビッドは乳母車に近づいて、赤ちゃんたちをブルーアイズの瞳をキラキラと輝かせてじっと見た。
双子の赤子は小さくて、おそろいのピンクのベビー服を着て目を閉じていた。
ふにゃっとした表情でとても眠そうだ。
「ねえ、おかおは? どちらに、にてるのかな?」
「そうね、旦那様がいうには私らしいわ、ねえ旦那様?」
「ああ、デビッド。寝てるからわからないけど、目を開けるとお母様にそっくりな双子だよ」
「おかあしゃまに?」
「そうだよ。髪と瞳の色がそれぞれちがうけどね。金髪で茶色の目がリリーだ。髪が茶色で目が青色なのがベリーだよ」
「へえ~おかあしゃまと、かみのけと、めのいろは、おとうしゃまのあいのこだ」
「ははは、あいのこなんて言葉を、どこから覚えたんだい?」
「うんとねぇ……えほんにかいてあったの。ぼくね、おかあしゃまがいないあいだ、たくさんキャリーとごほんよんだよ!」
デビッドは頬を紅潮させて自慢げにいった。
「それはいい子だったな」
と、デビッドの金色のひよこ頭をなでなでしてあげた。
「旦那様、ほら子猫たちもデビッドに紹介しなきゃ!」
「あ、そうだった。ほらデビッド、こっちへ追いで」
と僕はデビッドに手招きして、居間のテーブルにバスケットを置いた。
デビッドはテーブルに近づくや否や──
「わあ、かわいい!」
と三毛猫たちを見て目を輝かせた。
「かわいいだろう? 双子の子猫も今日から家族だよ。『ミケ』と『ネコ』って名前だ。ピンクのリボンが『ミケ』で青いリボンが『ネコ』だよ」
「へえ、ミケとネコ? なんだか、へんななまえだなぁ……じゃあおいでミケ!」
デビッドはミケを抱き寄せた。
「にゃ~ん」
とちょっと嫌がるミケ。
「うふ、もこもこしてかわいいなぁ!」
デビッドは頬をミケにすり寄せて笑った。
もう一匹の青いリボンのネコも抱いて欲しいのか、モゾモゾしてたので、ウェンディが抱き寄せた。
「でも、不思議ね。旦那様が私の出産祈願をしている時に、子猫が二匹も霊廟に現れたなんて!」
「そうだろう。君が双子を産んだ時、大雨も止んで虹が浮かんだんだよ。もう吉兆だらけで僕は邪気のおかげだと思って邪気のミケに感謝したよ」
「そうね。こんなに安産だなんて夢みたい。やっぱりミケは“光の邪気”だわ」
◇ ◇
その夜の晩餐会は、久々に家族水入らずで御馳走を沢山食べた。
デビッドは食事中、ウェンディにずっと甘えっぱなしだった。
新しい我が家の娘たちは、すやすやと新しく作った子供部屋で眠っていた。
双子たちの乳母は引き続きマリーに頼んだ。
ちなみに、娘たちの名を付けたのは僕だ。
リリーの正式名は「リリアンヌ」
ベリーは「バイオレット」だ。
どちらも初夏の花の名前から付けた。
あの2人が生まれた日。
雨上りの霊廟の庭園から空にかかった虹を見つめていたら、ふと白い笹百合とビューティーベリー(日本名:ムラサキシキブ)の花が咲いているのを見つけた。
この美しく咲いている花々を見て、双子の名前にしようと心に決めた。
この可愛らしい娘たちが、未来のライナス殿下の子供たちのフィアンセになるには、もう少し先の事であった。
──番外編・完──
※いかがだったでしょうか。
不幸なことばかり起こっていたカールが幸福になれて良かったです。
双子たちも無事に産まれたので、これにて番外編も完結とさせていただきます。
※ これまでポイント、ブクマと評価してくださった方、本当にありがとうございました。
お陰様でなんとか完結できました。
一読してくださった方々も、ありがとうございました。
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