番外編 光の邪気とお産問答!
※ 2025/11/9 挿入及び修正済み
◇ ◇ ◇ ◇
僕は慌てて辺りをきょろきょろ見回した。
周りはウェンディとライ老人しかいない。
( カールここだよ、今、ウェンディのお腹の中にあちきは双子と一緒にいるよ!)
「!?」
( へへへ。大丈夫さカール。おいらが双子もウェンディも守ってやるから、この医者に産むように説得しなさんな! なあに全然平気っすよ、ちゃんと双子は産まれるから、何~んも心配すんなって!)
「!?」
僕はその場で飛びあがった。
──やっぱりミケの声だ。こいつの声、相変わらずの下品な言葉づかい。
だけど僕はそれがとても懐かしくって、とっても嬉しかった!
そうか、化け猫のミケだ、ミケが双子と一緒にお腹にいるんだ!
いま、僕に赤ん坊は大丈夫だからウェンディに産めといってるんだもの!
──間違いない、ミケがウェンディたちを助けてくれる!
僕は確信した。
そして頭に閃いた事象をライ老人に問いかけた。
「ライ先生、つかぬことをお聴きしますが、ウェンディを瞑想療法した時に、双子の他に“猫の邪気”は視えませんでしたか?」
「え、猫の邪気ですか?」
ライ老人はハッとした。
「はい、以前先生が瞑想療法を私にして頂いた折に、猫のシルエットが見えたでしょう。あの猫です」
「…………」
ウェンディが僕の問いかけで泣きじゃくっていた顔をあげた。
「猫?……ああ、そういえばうっすらと、2人の赤子のシルエットに覆いかぶさっているような猫のシルエットがありました」
ライ老人は思い出したかのように言った。
「それだ!それですよ!──猫はウェンディの“光の邪気”なんです。猫は以前ウェンディの命を助けた猫です。間違いない。双子は助かります。光の邪気が必ず助けてくれるはずです!!」
僕は確信に満ちてライ老人に訴えた。
「あ……旦那様……」
ウェンディもみるみる顔に赤みがさしていた。
ライ老人は思案していたのか暫しの沈黙の後、静かに応えた。
「カール様。あの猫が光の邪気ならば、話は少し変わってきます。出来れば、もう少し“光の邪気”だったその猫のことを詳しく私に教えてくれませんか?」
「はい先生。お安いご用です!」
それから僕はライ老人に、ウェンディと僕の過去世の話からミケとの出会いや因縁、2人が転生したことまで、レフティ侯爵のハーバート国王への恋愛事情以外は包み隠さず話した。
◇ ◇
「なるほど、話は理解しました。さすればミケ猫がウェンディ様の“光の邪気”で双子を守っているならば、母子共に無事に生まれる可能性も十分にありますね。う~ん、驚きましたな。こんな事象は初めてです」
ライ老人は妖しげに黄金の瞳をキラキラさせて、薄い唇で口角をあげて苦笑した。
だがまだ若干どうするか決めかねている様子だ。
僕は口を開いた。
「ライ先生、貴方は以前私におっしゃったではないですか、『光の邪気は幸福のシンボル』だと!」
「カール様……」
「『光の邪気は滅多に出ない現象でそれだけで僥倖だと!』その時先生は仰ったけど、正直私はミケを信じきれなかった。それでもミケは、あの刺客たちが襲ってきた時、ウェンディの命を自分の命と引き換えに助けてくれたんです!」
僕は興奮して思わず席を立ってしまった。
「カール様……」
「旦那様……」
ライ老人とウェンディは僕を見て驚愕していた。
「私は今度こそミケを信じます。双子ができたのも逆にミケのおかげなのかもしれない。子どもは多いほうがいいに決まっている!──絶対にミケなら妻の命も双子の命も守ってくれると僕は信じてます!ライ様、どうかお願いです。妻の出産を助けてください!」
僕はライ老人により深く頭を下げた。
僕の礼した姿を見て、ウェンディも僕に連なった。
「ライ様、どうかどうか私からお願い致します。どうしても赤ちゃんたちを産みたいのです!」
ライ老人は暫し無言だったが──。
「カール様、ウェンディ様。どうかお顔をおあげくださいませ」
といわれて僕たちは顔をあげた。
眼前にはライ老人の優しい笑顔があった。
「分かりました。私が出産に立ち会いましょう」
「「ライ先生!」」
「カール様のおっしゃった通りです。ウェンディ様のお腹を瞑想した時、確かに猫のシルエットは視えました。そして猫が“光の邪気”ならば幸運のシンボルに間違いありません。双子のシルエットばかり目がいって、うっかり私は見落としていたんですね。医師として恥ずかしい限りです。本当に申し訳なかったです。はは、魔術師としても失格だな」
ライ老人は珍しく恥ずかしそうに苦笑した。
「いいえライ様、そんなことはないです。」
「先生、ありがとう。本当に、うっ……ありがとうございます!」
ウェンディはまた泣きだした。
「ですが、出産には万全の注意が必要です。今後は奥方は毎月、定期健診にきてください。毎回瞑想療法を駆けて双子の状態をチェックをします。それから通常よりも出産予定の1か月前に入院いたしましょう。なにせ初めての試みです。何が起こるかわかりませんから」
ライ老人はいつもの切れ長の黄金の瞳に変って険しい表情になった。
「了解しました。ウェンディ、良かったな」
「ええ、旦那様。ありがとう。ミケが赤ちゃんと私を守ってくれるなんて……夢のようだわ」
僕たちは、ライ老人がいるにもかかわらず嬉しくて抱き合った。
( にゃん……にゃん! )
僕はまたミケの可愛い鳴き声が聞こえた気がした。




