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なんども駆け落ちされた伯爵子息カールの行く末は……  作者: 星野 満


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番外編 ウェンディ2度目の妊娠

※ 2025/11/9 タイトル変更及び挿入修正済み

◇ ◇ ◇ ◇



ピアノの練習の後で、デビッドと天気が良かったので、庭のサンルームでティータイムをした。

メイドのアンナが入れたダージリンティーとブルーベリー入りのスコーン。

ブルーベリーのスコーンはデビッドの大好物だ。


「おとうしゃま。おかあしゃまは、いつになったら、おもどりになるの?」

デビッドがスコーンのくずを口元につけたまま、足をぶらつかせながら言った。


その表情は幼子ながら少し淋しそうだ。

僕はふきんでデビッドの口元を拭いてあげた。


「デビッド、お母様はね。来月には、可愛い赤ちゃんを連れて戻ってくるよ」

「あかちゃん? あかちゃんは、おうちでうめないの?」


「うん、お母様は昔、お姫様だったから、赤ちゃんは王宮の病院で産む決まりなんだよ」


「そうなんだ、ぼくも“おうきゅう”でうまれたの?」


「そうだよデビッドの時も、王都にある王宮殿で生まれたんだよ」


「ふうん、だから乳母のマリーもいっしょにおかあしゃまと、おうきゅうでんに、いったのね」


「そうだよ。デビッド。だからもう少しの辛抱だからね。我慢しておくれ」

と、僕はとなりに座っているデビッドを抱き上げて膝の上にのせた。


デビッドの金色のひよこの羽根のように、ふわふわした髪の毛を撫でてあげた。


だが、僕はデビッドにはそういったものの、笑顔とは裏腹に心は重苦しかった。




◇ ◇



去年の秋──。


デビッドが3歳になり、庭をひとりで走れるくらいになった頃。


ウェンディが吐き気をもよおして病院で診察をしたら“おめでた”だとわかった。

僕たちは手を叩いて大喜びした。

もちろん嫡男のデビッドだけでも、十分嬉しかったが子供は何人いてもいい。


「旦那様、今度は女の子が欲しいでしょう!」


ウェンディは瞳を輝かせて僕に訊ねた。


「いや、どちらでもかまわないよ。元気で生まれてくれさえすればそれで十分だ」

「そうね、私も同じですわ」


ウェンディはデビッドの時と同じように、早速、未来の赤ん坊の靴下をデビッドとお揃いにしようと喜んでいた。


だが、その数日も経たない内にウェンディの体調が突然悪化した。

悪阻(つわり)も酷かったが、眩暈(めまい)と貧血で失神したりと通常の状態ではなかった。


僕は心配になり、妻を連れて王宮内にある正教会(国立病院)で見てもらった。


担当はあの瞑想(ヒーリング)をしてくれたライ老人だった。

彼は魔術師でありながら、高名な医者でもあり特に産科医として名を()せていた。


診察後、僕とウェンディはライ老人に部屋に呼ばれた。

僕たちが席についた後、ライ老人は長い口髭を触りながらいつのも増して険しい表情をしていた。


「正直に申し上げます。ウェンディ様は妊娠しておりますが、御子は()()のようです」


「!?」

「双子って……」


僕とウェンディの顔は真っ青になった。


それもそのはず、双子以上の赤子というのは、スミソナイト王国では滅多に見られない妊娠だったからだ。


この時代、子どもを生むのは体の弱い女性なら命がけであった。

子どもを生んだ後、母親が死産するケースも少なくなかった。


それでも妻が子供を産むのは、妻としての務めであり、子が生まれれば妻の地位も安泰となる。

生まれてきた子息は、王族や貴族の家の跡継ぎになれる。

次男以下の子供も同じである。


嫡男でなくとも“子は宝”というくらい貴族の赤子は大切にされた。


もちろん女子でも良家に嫁げば貴族同士の姻戚関係ができる。

貴族同士の繁栄には令嬢も欠かせない存在だった。


だが1つ例外があった──。


双子以上の子供を妊娠した場合だ。


それは貴族が最も忌み嫌う予兆だった。

なぜならば、この国では貴族の子で双子ができた場合、不思議だが、ほとんど母子共に死産したのだった。




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