番外編 可愛い長男のデビッド
※ 2025/11/9 タイトル変更&修正済み
◇ ◇ ◇ ◇
屋敷の庭の木漏れ日がキラキラと眩しい若葉薫る5月。
僕とウェンディが結婚して早5年以上が経過した。
来月になったら、結婚記念6周年を迎える。
──思えばあっという間の5年間だった。
僕も既に29歳となり、来年はいよいよ30の大台の上る。
この間、僕は王宮騎士団の東地区の団長に一昨年から就任した。
王太子の護衛騎士を兼任しながらの団長である。
仕事はますます多忙となっていた。
もう1つ大きな変化は、ウェンディに待望の嫡男が誕生したことだ。
そう、とうとう僕は父親になった。
子どもができたとわかったのは、くしくも親善パーティーのピアノの演奏会の後だった。
あの時、僕の作曲した「朝の訪れ」を王室で演奏したおかげで、スミソナイト王国から翌年には隣国まで人気がでて、ライナス殿下は印刷所で大量に楽譜を刷って再販したほどだ。
「朝の訪れ」の楽譜は各国でも飛ぶように売れた。
その後、僕は作曲活動もぼちぼち続けていたので、4,5曲ほどヒット曲が続いた。
おかげさまで音楽家としても僕の名は有名になり、年に数回程度のサロンや定期演奏会を開催している。
とはいえ音楽は、あくまでも趣味の延長だ。
それでも将来、定年になれば騎士団を退団するだろうから、老後はピアノ講師の職につけそうだと冗談ぽく王太子殿下に話したところ、
「カール、謙遜するな、既にお前は著名な作曲家の仲間入りをしたぞ。楽譜の印税も毎年入る。それだけで老後は安泰だな。ははは俺に感謝しろよ」
とライナス殿下がニタニタ笑いながら言ってたっけ。
ライナス殿下とアメリア妃にも2人の王子が誕生した。
現国王様は、孫がいたく可愛いのか、暇をみては王太子宮内に寄って遊んでばかりいる。
ふたりの御子とも聡明だが、特に長男の王子はライナス殿下と同様に勘が鋭いらしい。
僕と殿下は暇さえあれば、お互い息子の自慢話ばかりし合って親ばかを発揮したいた。
息子のデビッドは今年の春に4歳になったばかりだ。
まだ舌足らずな喋りかたをする、生真面目な僕に似ないで愛嬌のある子どもだった。
母親譲りの金髪でブルーアイズ、顔だけは僕の幼い頃にそっくりらしい。
僕はわからなかったが、父と祖父がデビッドの4歳の誕生日に、幼少時の僕にそっくりだという。
「カール、お前も金髪でブルーアイズだったら、デビッドみたいに可愛らしかったかもしれんな」
と父はほざいていた。
ただ、こうして幼い我が息子を見てると、僕の顔もなかなか悪くないのかな?と思えてくる。
やはり金髪と青い眼の威力は、平凡な顔立ちすら茶色の髪より見栄え増しになるものだからな。
祖父と父はあいかわらずケチだけど、初の孫、(祖父はひ孫)は可愛いのか、デビッドに会いに来る度に玩具や服などのプレゼントを買って持ってきてくれる。
父もとても元気で、当分実家のマンスフィールド伯爵家は継がなくてもよさそうだ。
正直、僕は実家は叔母の息子のマイクに後を継がせてもいいと思っている。
叔母の子供は3人兄弟だし、叔父の家はさほど裕福ではない。
マイクが本家を継げば、叔父の家も少しは潤うだろう。
実際、僕は王室から与えられた伯爵領地の税も順調だし、騎士団の団長を兼ねながら父の所領地の経営までだと、手が回らない。
地方役員に委託してもいいが、僕の性分では自分で管理したくなる。
僕が爵位を継がないと申し出たら、祖父と父はカンカンに怒るだろうが、それが一番いいような気がする。
だが、当分はごたつくのは嫌なので、何より父の健康長寿を祈るばかりだ。
◇ ◇
屋敷の居間からピアノの音が聞こえている。
今日は、久しぶりに午後は非番で、息子のデビッドのピアノ練習を見ていた
まだ、デビッドの小さな手は、たどたどしく鍵盤を弾いているが、メトロノームの速度に併せながら、テンポも正確で1音1音しっかりと弾いていた。
──基本に忠実、真面目で練習熱心だ。
さすがは僕の息子だ。
「おとうさま、どでしゅか?」
ひと通り弾き終えたデビッドが上目づかいで僕の顔を覗きこむ。
「ああ。デビッドとっても良かったよ、テンポも合っているし、ミスもない」
「えへへ……よかったでしゅ!」
デビッドは嬉しそうに頬をバラ色に染めた。
「そうだな。もう一回だけ、おさらいしてからお茶にしようか」
「はい、おとうしゃま!」
どうやらデビッドはピアノが好きなようだ。
僕がいわなくても毎日レッスンしているみたいだし。
親の自分がいうのもなんだが、ピアノの才はある。
少々気になるのは、息子は外で遊ぶより、部屋の中で乳母たちとままごとまでしている。
ちょっと嫡男としてどうなのかな?とは思うが、まだ4歳になったばかりだ。
もう少し大きくなったら、父親としては剣技も教えてあげたい。
僕は愛すべき我が子の姿を満足げに目を細めた。




