番外編 演奏会の後で(2)
※ 2025/11/9 タイトル変更及び挿入修正済み
◇ ◇ ◇ ◇
僕らにとって懐かしい曲。
いわれてみれば「モーニング3」のメンバーのライト、ジン、カレン。
この3人が別の世界とはいえ、こうして久しぶりに勢揃いしたのだ。
──不思議だ……今世で3人が集ってカクテルを酌み交わしてる。
過去世は未成年だったから僕は酒は飲まなかったけど。
だがジンとライトはマネージャーに隠れて、こっそり飲んでたな。
僕は微笑んだ。
そしてハーバート殿下のお姿を改めて見つめた。
金髪とブルーアイズ。王族特有の非の打ちどころの無い美形だ。
昨年王太子からとうとう一国の当主になった。
若きデラバイト新国王。
それでも、それでも過去世では僕の友人のライトである。
短期間だったけど、僕らはいつも一緒に演奏活動を行っていた。
煌めくステージで歌って踊るアイドルという、今とは全く違う特殊な演奏スタイルだったけど……
感無量なのは、今日僕が演奏した「朝の訪れ」は紛れもなく「モー3」の楽曲だ。
──そうだ、あの時もライブのアンコールによく歌ったな。
ライトとジンが本パートを歌って、僕がキーボードを弾きながらハモったんだ。
きっと、レフティ侯爵も僕のピアノ演奏で「モー3」時代を思い出したんだろう。
時代を超えて廻り廻った歌をこうして今、僕が再び演奏したんだ。
レフティ侯爵の涙をみて、僕もだんだん過去の郷愁を感じていた。
それは、「モー3」の大ファンだった風子嬢も同じ気持ちなのか、無言でレフティ侯爵を優しげに見つめていた。
その時──。
「レフティ、私たちはもう過去世の人間ではない。現世にそれぞれの役割を持って生きている。いつまでもカレンの不幸を思い悩むのは、いい加減よそう。それよりも今、自分が為すべきことを行わないとな!」
と、爽やかに微笑してハーバート国王は、ポンポンとレフティ侯爵の肩を軽く叩いた。
「はい、ハーバート国王のお仰る通りでございます。どうかお許し下さい、今後は気をつけます」
レフティ侯爵は震える声で、それでも臣下としての頭を垂れた。
「うん、解ればいいんだ」
え!?
僕は心の中で、ハーバート様の言葉に驚愕した!
──カレンだって!?
今、僕の過去世の名前をハーバート様は仰ったよな?
まさか──?
僕とウェンディはすぐにお互い顔を見合わせた。
そして再度、僕達はハーバート様の涼し気な端正なお顔を凝視した。
だが、ハーバートは何も動じていないようにカクテルを嗜んでる。
──何だ、今の殿下のレフティ様への励ましは?
僕の胸はざわざわした。
まさか、ハーバート様も過去のライトの記憶が蘇っているのか?
だから僕が“カレン”だったのを知っている。
それともレフティ侯爵から、僕らの過去世の話をお聞きしたのだろうか?
──いや、ありえない。
ライトを男色として愛していたジンが、ハーバート様に話すはずがない。
だとすると、以前から彼は「モー3」のことをご存じだったのだろうか?
僕は何が何やらわからなくなった──。
◇ ◇
「あら、ハーバート国王、レフティ侯爵、お久しぶりでございますわね!」
と殿下とレフティ様が、他の異国のご年輩の王妃様に呼び止められた。
「ああ、お久しぶりです王妃様。あ、カール伯爵、ちょっと悪いが失礼するよ。また後でな」
と僕らに挨拶をして2人は、異国の王妃と連れ立って席を外した。
彼等が席を外したのを見計らってウェンディは、さっそく僕に耳打ちをする。
「(小声で)旦那様、もしかしてお兄様は過去世界の記憶を取り戻したのかしら?」
「ああ、ウェンディ僕もそう思ったよ。君も“カレン”って聞こえたよね?」
「ええ……聞こえたわ。でも、今まで私には何もおっしゃらなかったのに……」
どうにも解せない、というウェンディの表情だ。
「うん、だがあの様子だと以前からご存じだったやもしれないな。だが……レフティ侯爵が傍にいるし、義理兄は敢えて何も知らない振りをしているのかもしれない」
「…………」
ウェンディの顔はだんだんと曇っていった。
「どうしたウェンディ?」
「……そうね、旦那様。そうかもしれない──以前、もしかしてお兄様がライトの記憶をご存じなのかも?と疑った時がありましたの。その時私、お兄様を探ったのだけど、あの時、結局分からずじまいでしたわ」
「そうだったのか……」
「ええ、でもお兄様は私がいうのも何ですが、牡蠣のようだと、デラバイトの王宮では陰で噂されてる人です」
「牡蠣?」
「うふふ、譬えですわ。お兄様は美しいお顔の仮面に隠された固い牡蠣の殻のように、黙り込んで、ご自分の内面を身内にも他人にも解らせないと陰で揶揄されてたの」
「──そうなんだ」
僕は驚きもしたがハーバート様の普段の態度を見て納得した。
「ええ。でも旦那様。この件、私はお兄様に2度と確かめませんわ」
「……そうだねウェンディ。その方がいい。ハーバート様が自ら話さないなら、このままそっとしておこう!」
「ええ、それが一番よろしいですわ」
僕とウェンディは、ハーバート様とレフティ侯爵の談笑している仲睦まじい姿を眺めていた。
それにしてもレフティ殿は、今どんなお気持ちでハーバート様にお仕えしているのであろうか?
そしてハーバート様も……
僕は2人を見ていて、何故だか心が締めつけられるように切なくなった。




