表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なんども駆け落ちされた伯爵子息カールの行く末は……  作者: 星野 満


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

75/81

番外編 演奏会の後で(2)

※ 2025/11/9 タイトル変更及び挿入修正済み

◇ ◇ ◇ ◇




僕らにとって懐かしい曲。


いわれてみれば「モーニング3」のメンバーのライト、ジン、カレン。

この3人が別の世界とはいえ、こうして久しぶりに勢揃いしたのだ。




──不思議だ……今世で3人が集ってカクテルを酌み交わしてる。


過去世は未成年だったから僕は酒は飲まなかったけど。


だがジンとライトはマネージャーに隠れて、こっそり飲んでたな。


僕は微笑んだ。

そしてハーバート殿下のお姿を改めて見つめた。


金髪とブルーアイズ。王族特有の非の打ちどころの無い美形だ。


昨年王太子からとうとう一国の当主になった。

若きデラバイト新国王。


それでも、それでも過去世では僕の友人のライトである。


短期間だったけど、僕らはいつも一緒に演奏活動を行っていた。

煌めくステージで歌って踊るアイドルという、今とは全く違う特殊な演奏スタイルだったけど……



感無量なのは、今日僕が演奏した「朝の訪れ」は紛れもなく「モー3」の楽曲だ。



──そうだ、あの時もライブのアンコールによく歌ったな。


ライトとジンが本パートを歌って、僕がキーボードを弾きながらハモったんだ。

きっと、レフティ侯爵も僕のピアノ演奏で「モー3」時代を思い出したんだろう。


時代を超えて廻り廻(めぐりめぐ)った歌をこうして今、僕が再び演奏したんだ。


レフティ侯爵の涙をみて、僕もだんだん過去の郷愁を感じていた。

それは、「モー3」の大ファンだった風子嬢ウェンディも同じ気持ちなのか、無言でレフティ侯爵を優しげに見つめていた。


その時──。


「レフティ、私たちはもう()()()()()()ではない。現世にそれぞれの役割を持って生きている。いつまでも()()()の不幸を思い悩むのは、いい加減よそう。それよりも今、自分が為すべきことを行わないとな!」


と、爽やかに微笑してハーバート国王は、ポンポンとレフティ侯爵の肩を軽く叩いた。


「はい、ハーバート国王のお仰る通りでございます。どうかお許し下さい、今後は気をつけます」


 レフティ侯爵は震える声で、それでも臣下としての(こうべ)を垂れた。


「うん、解ればいいんだ」



え!?


僕は心の中で、ハーバート様の言葉に驚愕した!



──()()()だって!?


今、僕の過去世の名前をハーバート様は仰ったよな?


まさか──?


僕とウェンディはすぐにお互い顔を見合わせた。


そして再度、僕達はハーバート様の涼し気な端正なお顔を凝視した。


だが、ハーバートは何も動じていないようにカクテルを嗜んでる。



──何だ、今の殿下のレフティ様への励ましは?


僕の胸はざわざわした。

まさか、ハーバート様も過去の()()()()()()が蘇っているのか?


だから僕が“カレン”だったのを知っている。

それともレフティ侯爵から、僕らの過去世の話をお聞きしたのだろうか?



──いや、ありえない。


ライトを男色として愛していたジンが、ハーバートライトに話すはずがない。


だとすると、以前から彼は「モー3」のことをご存じだったのだろうか?


僕は何が何やらわからなくなった──。



◇ ◇



「あら、ハーバート国王、レフティ侯爵、お久しぶりでございますわね!」

と殿下とレフティ様が、他の異国のご年輩の王妃様に呼び止められた。


「ああ、お久しぶりです王妃様。あ、カール伯爵、ちょっと悪いが失礼するよ。また後でな」

と僕らに挨拶をして2人は、異国の王妃と連れ立って席を外した。


彼等が席を外したのを見計らってウェンディは、さっそく僕に耳打ちをする。


「(小声で)旦那様、もしかしてお兄様は過去世界の記憶を取り戻したのかしら?」


「ああ、ウェンディ僕もそう思ったよ。君も“カレン”って聞こえたよね?」

「ええ……聞こえたわ。でも、今まで私には何もおっしゃらなかったのに……」


 どうにも解せない、というウェンディの表情だ。


「うん、だがあの様子だと以前からご存じだったやもしれないな。だが……レフティ侯爵が傍にいるし、義理兄は敢えて何も知らない振りをしているのかもしれない」


「…………」


ウェンディの顔はだんだんと曇っていった。


「どうしたウェンディ?」


「……そうね、旦那様。そうかもしれない──以前、もしかしてお兄様がライトの記憶をご存じなのかも?と疑った時がありましたの。その時私、お兄様を探ったのだけど、あの時、結局分からずじまいでしたわ」


「そうだったのか……」


「ええ、でもお兄様は私がいうのも何ですが、牡蠣(かき)のようだと、デラバイトの王宮では陰で噂されてる人です」


牡蠣(かき)?」


「うふふ、(たと)えですわ。お兄様は美しいお顔の仮面に隠された固い牡蠣(かき)の殻のように、黙り込んで、ご自分の内面を身内にも他人にも解らせないと陰で揶揄(やゆ)されてたの」


「──そうなんだ」


僕は驚きもしたがハーバート様の普段の態度を見て納得した。



「ええ。でも旦那様。この件、私はお兄様に2度と確かめませんわ」


「……そうだねウェンディ。その方がいい。ハーバート様が自ら話さないなら、このままそっとしておこう!」


「ええ、それが一番よろしいですわ」


僕とウェンディは、ハーバート様とレフティ侯爵の談笑している仲睦まじい姿を眺めていた。



それにしてもレフティ殿は、今どんなお気持ちでハーバート様にお仕えしているのであろうか?

そしてハーバート様も……


僕は2人を見ていて、何故だか心が締めつけられるように切なくなった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ