番外編 演奏会の後で(1)
※ 2025/11/9 タイトル変更後、挿入及び修正済み
◇ ◇ ◇ ◇
演奏会の終了後、大広間では立食形式のダンスパーティが開催された。
僕はスミソナイト国王夫妻や、各国の親善大使たちの席を、他の演奏家たちと順々に廻って挨拶をした。
それぞれ来賓者から演奏の労いの言葉をかけてもらってようやく解放された。
その後、演奏者の自分のテーブル席に戻った。
席には既にウェンディとその兄、ハーバート国王。
そしてレフティ侯爵が座って談笑していた。
「あ、旦那様、お待ちしていましたわ!」
「ウェンディ!」
「おお!ようやく来たな!」
僕は彼女たちの顔をみて笑顔になった。
「旦那様、お疲れになったでしょう。何かお飲みになる?」
「ああ、レモンカクテルソーダを頼むよ」
「分かりました。ウェイター、レモンカクテルソーダ2つお願いね」
と、近くを歩いてる給仕にカクテルを頼んでくれた。
「やあ義弟よ。君がくるまで待っていたんだよ!」
「カール伯爵、演奏素晴らしかった。もう偉大なる作曲家の仲間入りだね」
とウェンディの兄、ハーバート殿下と参謀のレフティ伯爵が僕を褒めた。
「ハーバート国王陛下、レフティ侯爵様も。恐悦至極にございます」
僕は新国王となったハーバート様に深々と礼をとった。
「あぁ、この場では堅苦しい挨拶は抜きだ。カール、君の演奏は素晴らしかった。さあ乾杯しようじゃないか!」
「そうしましょう、ほら旦那様、レモンカクテルソーダが来ましたわ!」
「ありがとう」
僕は給仕からグラスを受け取る。
「それではカール伯爵の偉大なる演奏に乾杯!」
「「乾杯!」」
と皆でカチンカチン!とグラスをぶつけ合う。
「「おめでとうカール伯爵!」」
「ウェンディ、御仁方もありがとうございます!」
僕はようやく飲みたかった、レモンカクテルソーダをぐいっと一気飲みした。
──ああ〜上手い。喉元でソーダがパチパチ音を立ててるみたいだ。
「ウエイター、もう一杯頼む!」
僕は給仕にカクテルの2杯目を注文した。
「それにしても護衛騎士の君にこんな才があるとは驚いたよ」
「ありがとうございますハーバート殿下、ピアノは久しく弾いてなかったので、今回、ライナス殿下から演奏者に選ばれた時は真っ青になりました」
僕は正直に頭を掻いていった。
「そうよ、お兄様。カール様は騎士のお仕事を休むくらい、最後の数日間はものすごい特訓をしてましたの。見ていて涙ぐましいくらいでしたわ」
「それは大変だったな。私は音楽のことは分からないが、君のピアノはとても感銘を受けたぞ」
「そういっていただけると嬉しいです。頑張ったかいがありました」
ハーバート殿下に何度も褒められて僕は照れてしまう。
「本当になあ、グスっ……カール伯爵はいつも真面目で……私は健気な君が大好きだよ」
突然レフティ侯爵が涙ぐみだした。
「レフティ様、いかがなさいましたの?」
ウェンディがレフティを見て怪訝な表情をした。
「ええ、ウェンディ様。すみません。おめでたい席なのに……カール伯爵のアンコールの曲が……昔を思い出して、私はもう泣けて泣けて……うぅ……」
レフティ侯爵はさらに泣き出した。
──え、昔を思い出してって、それは……
僕はびっくりした。
「おいおい、レフティどうした?」
「ハーバート国王。大変失礼しました。だけど駄目なんです。私にはカール伯爵殿の演奏がとても懐かしくて……嬉しくて……」
レフティ侯爵は、またしてもハンカチを取り出して涙ぐんだ。
ああ、分かった。
どうやらレフティ様は僕の曲を聴いて「モー3」のジンの頃を思い出したんだ。
僕はレフティ侯爵の涙ぐむ姿になんとも言いようのない気分になった。




