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なんども駆け落ちされた伯爵子息カールの行く末は……  作者: 星野 満


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72/81

番外編 「朝の訪れ」が大ヒット!

※ 2025/11/9 修正済


◇ ◇ ◇ ◇



しばらくすると、王都内の貴族のサロンからも場末の酒場のピアノから、この曲を演奏して聴いた人々の評判が評判を呼んだ。


僕の曲はまるで一石を水面に投じた波紋のように 拡散していき、いつしか王都中で「朝の訪れ」を弾く演奏家がとてつもなく増えた。



最初、自分の曲が街の人々たちに賞賛されてるなんて知る由もなかった。

元々僕は街中には要人の護衛以外は、滅多に出かけないからだ。


だが、たまたま久々の休みにウェンディの夜会ドレスを作る為に、僕は購入したい本があって2人で街に繰り出した時があった。


昼間、僕はお目当ての本を買って王都に来ると行きつけのカフェで、購入した本を読みながらウェンディを待っていた。

彼女は貴族専門のオートクチュール店で、ドレスの仮縫い中だった。


仮縫いはけっこう時間がかかる。

そろそろ彼女との約束の時間になるなと、時計を見ながら購入した歴史書を読んでいた。



突然、店内でピアノの演奏がゆったりと始まった。



──うん、なんだか出だしは僕と似た曲だなぁ……と他人事のように聴いていたら、となりの席の若いカップルが話し始めた。



「やった、ここでも『朝の訪れ』弾いてくれたわ!」

「良かったな。リクエストしたかいがあって」

「ええ、今この曲は私の妹の通っている音楽サロンでも大流行なのよ」

「へえ、たしかに朝のイメージを感じるとても美しい曲だね」



──ええ、ちょっと待て! 「朝の訪れ」って僕の曲じゃないか!


音楽サロンで大流行って……本当か?


僕は真っ青になった。


店で自分の曲が演奏されているだけで、恥ずかしさでいたたまれなくなり読んでいた本を顔に近づけた。


「旦那様、ごめんなさい遅れちゃって!」


その時、ウェンディの良く通る声で呼ばれた。


「いや、大丈夫だよ」


僕はホッとして本を閉じて彼女に微笑した。


ウェンディは座るやいなや


「ねえ、このピアノの演奏、旦那様の曲よね?」


(うあああ、駄目だよ、ウェンディ、今それをいっちゃったら!?)


僕は、慌ててウェンディの口をふさぎたくなった。


「旦那様、どうしたの?」


ウェンディは様子が変な僕を訝しがった。

僕は横目で隣の席のカップルをチラリと見た。

2人は会話を中断して僕の顔をポカーンと凝視している。



──うあぁ、いたたまれない!


「ウェンディ、場所を変えよう!」


僕はそそくさと席を立ち、山高帽子を深く被りさっさと会計を済ませて外に出た。


「あ、まって旦那様~!」


外に出たらでたで広場まで歩くと何やら人だかりができていた。

覗くと軽業師とアコーディオン弾きの余興だった。


「それでは弾き語りタイムです。お客様のリクエストにお応えします」


「はい、『朝の訪れ』がいいわ!」

「私も『朝の訪れ』」


「はいよ、では『朝の訪れ』を弾くよ~!」


ここでも僕の曲を奏でていた。



──うわぁあ、大変だ!


僕は、突然の変化にとてもついていけず、そのままウェンディと食事もとらずに屋敷へ帰宅した。



◇ ◇



「朝の訪れ」はたちまちにしてポピュラーソングみたいに王都中に拡まっていった。


しまいには王室までこの曲の噂が届いたのか、ライナス殿下とアメリア妃から、王宮に呼び出されて、来週隣国との親善パーティを開催する時に、ピアノ演奏をするようにと命じられた。


「お言葉ですがライナス殿下。私はプロの演奏家ではありませんし、ピアノもブランクがありますのでとても無理です」


と最初、僕は丁寧だが頑なに断った。


「何言ってるんだ。今、王都ではお前が作曲した『朝の訪れ』が流行してるんだ。街中では幼児ですら口ずさんでると聞く」


──ひええ〜、子供までって……そこまで浸透してるの?


ライナス殿下は更に続ける。


「そもそも王族の護衛騎士団が作った作曲なんて、それだけでも話題性抜群だ、インパクト大なのだ!いいか、良く聞け。お前の曲のおかげで、王室の名声に一役買えるにはもってこいなんだぞ!──ここで異国の親善大使たちに、お前が颯爽と自曲のピアノを弾けばさらなる話題になるのだ。『おお、スミソナイト王室の護衛騎士は芸術面でも秀でてる、何たる王国だ〜ファンタスティック!』とな。はははは、どうだ素晴らしいだろう!」

と、早口でまくしたてた。


──ええ、王室の名声って、貴方様はなんつう重荷を僕に課すんですか!

もしも、万一観衆の前で、ピアノをミスったら僕はどうなる?

まさか殿下は護衛騎士をクビにするかも?


僕は頭の中が火山のように爆発寸前に、プスプスなってどうにかなりそうだった。


「まあ、ライナスったら、無骨なカールをからかったら駄目よ」

と呆れたようにアメリア妃が口を挟んだ。


「カールも気楽に受ければいいのよ 親善パーティーなんて単なる余興に過ぎないわ。それにウェンディも王室の一員として来賓客として来るし、大喜びするわよ。ね、新妻の為にも楽しく弾いておあげなさいな──それに義父のリチャード様と、義兄のハーバート殿下もいらっしゃるし、ウェンディの夫として妻の王族に媚を売るチャンスでもあるわよ」


「媚びとかチャンスって……アメリア様まで……」


思わず僕はこの王太子夫妻の、とても王族とは思えぬ下世話な物言いに、呆けて本音を口にしてしまう。


「さすが我が妻、アメリアは良い事をいう!」

「オホホ、ライナスったら煽てても何もでないわよ!」


とアメリア妃はまんざらでもないと、嬉しそうに孔雀の扇でパタパタと仰ぐ。


「分かりましたよ、演奏致します。殿下の命令は臣下には絶対ですから。その代わり何度も言いますが、私は長年のブランクがあります。大ミスしてもご了承願います!」


と、僕はしぶしぶ承諾した。



「そうそう、お前はそれでいいんだよ!」

「そうよ、貴方はそれで良いのよ!」


夫妻は同時に、楽し気に笑った。


うっ……僕は、半ばライナス王太子夫妻にからかわれてるだけなのか?


結局、僕はいいくるめられて演奏に参加するハメになった。




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