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なんども駆け落ちされた伯爵子息カールの行く末は……  作者: 星野 満


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番外編 ウェンディの奥方稼業

※ 番外編です。

※ 2025/11/9 修正済み


◇ ◇ ◇ ◇



僕とウェンディが結婚してから約1年の歳月が過ぎて、新居に移ってから穏やかな時間が流れていった。



僕は結婚しても王宮騎士団の訓練と、王太子の護衛勤務は変わらなかったので、週に5日は王室に出向く。


休日は夫婦水入らずの時間をあてる為、実家や知人宅訪問以外は、なるべく新居で過ごすようにした。


ウェンディは隣国の王女から伯爵家へ降嫁となったが、今ではすっかり“伯爵夫人”の呼び名に馴れてきた。


屋敷の従事者たちにも率先して自分を「奥様」と呼ぶように命じた。


妻になったウェンディは、王族の慈善活動の催し物以外は、伯爵邸にいて内外共に切りもりし始めた。


当初は新居の従業員も最少人数なので、僕の食事を料理長と一緒に献立から考えて食事を作ったり、庭園の花壇の管理など自ら率先して行っていた。

一見すると平民の新妻のような生活である。


僕は最初だけならと多めに見ていたが、3ヶ月過ぎて従事者が増えたにも関わらず継続していた。

さすがに元王族の姫君が、従者と同じことをするのは貴族の夫としては放ってはおけない。



「ウェンディ、君が料理を手伝ったり庭いじりする必要はないんだよ、人手が足りないならもっと増やせばいいだけだから」


と僕がいうと──


「いいえ、旦那様。私ずっとお料理を作りたかったの。お花の手入れもとても楽しんでますのよ。だって王宮ではけっしてお父様とお兄様がお許しにならなかったから──私、カール様と結婚したら絶対に、この2つだけはしたかったの。とくに新婚時代はお子もいないし、余暇の時間はたっぷりあるでしょう──その貴重な時間を旦那様の食事を、自分で作りたかったのですわ」


と、ウェンディはまことしやかにいう。


「せっかく降嫁したのですもの。うるさかった王族は誰もいないし、自由に()()()()をして旦那様を支えたいのです」


「奥方稼業って……ウェンディ、私たちは貴族なんだよ」


さすがに僕は呆れた。本来伯爵の妻としてあるまじき言葉だ。


「まあまあ、そんなこと仰らないで……どうかお願い、旦那様!」


ウェンディは僕の側に寄ってきて、大きなブルーアイズを下から見上げるように懇願する仕草をする。



──うう、僕がその愛らしい表情に弱いことを知っててするんだもの。


けっこうウェンディはあざとい!



「わかったよ。だけどけっして無理はしないでくれよ。それに父君が来る日は絶対に厨房に入っては駄目だからね、私がリチャード様に怒られてしまう」


「はい、気をつけますわ。旦那様ありがとうございます。大丈夫、お父様も突然こちらに来るなんて、失礼なことは致しませんもの!」

と、嬉しそうに僕の胸にとびこんでくる。



──う~ん、了承したのはいいが大丈夫かなぁ?


やっかいなのは妻の父、元デラバイト国王リチャード様だ。


リチャード様は王位を退いてから暇なのか、僕らの住む伯爵邸から余り離れていない王都近郊に別荘を購入して住んでいる。


今では1ヶ月に2~3回も足しげく訪れてくるのだ。


甘美な新婚家庭なんてリチャード様の頭には毛頭ないのか、ちょくちょくやってくる。


もしかして僕達のハネムーンの邪魔をしたいだけなのかもしれない!


そしてリチャード様が来訪すると、必ず決まっていう言葉があった。


「早く孫の顔がみたいものじゃな~」だ。


「お父様、気が早すぎますわ!」

と、ウェンディが頬を赤らめながらもピシャリという。


間近でリチャード様が義父になって分かったが、元国王だというのに義理父はプライドなさすぎだと思う。ウェンディの前ではただのヤンデレ父ちゃんそのものだ。


自国民(デラバイト)のことなんてほぼ眼中にはないのか、以前からスミソナイト王国民みたいに我が国に慣れ親しんでいる。


ご公務を退位してデラバイト王国の後をを継いだばかりの、長子、ハーバート様に任せっぱなしである。


退位してからは一度もお帰りになっていないとの噂だ。


ウェンディと接するリチャード様を見てると


──この人、本当にウェンディが可愛くて仕方がないんだな


と感じた。


目に入れても痛くない愛娘を、良く僕のような平凡な男に嫁がせたものだと感嘆するくらいだ。


まあ、デラバイト王国もハーバート様や側近のフレディ様等が、優秀だと信頼している証でもある。


ハーバート様は王太子時代から、聡明で王国民からの人望もあったし、国王としても優秀だから元国王として安心して任せられるのだろう。


リチャード様と間近に接してみてわかったが、見た目も小柄で丸っこいせいか、何やら居るだけでほっこりする温かな雰囲気があった。



──なるほどなあ、ちっとも王族らしくない。

この方が女性にモテたのもわかる気がしてきた。朗らかで愛嬌があってどこか憎めない御方だ。



◇ ◇


僕は表面上、妻の料理づくりに快く思っていない態度をしていたが、反して彼女の作る料理は殊の外、美味しかった。


そのせいか『妻の手料理』は残さずにぺろりと平らげる。

時にはおかわりまでして、ついつい食べ過ぎてしまう事も往々にしてあった。


おかげで最近、ズボンのベルトの穴が2つくらい緩くしないとキツクて履けない。

このままでは肥えると危惧した僕は、前にもまして剣技の訓練を増やし、朝は近場の走り込みまでし始めた。


新婚から半年経ってもウェンディは、毎日かいがいしく厨房に入り、僕の好きな辛めの肉料理から魚料理、野菜のピクルスまでレパートリーを増やし、美味しい料理を作ってくれる。


懸命に料理に励む、ウェンディの姿は健気で愛おしい。


当初は僕も妻が厨房に入るのを見て、面食らったが最近では見慣れてきた。

それにウェンディが楽しそうに料理長やメイドのアンナたちと、献立や食材を選ぶ姿を見てると、僕までほっこりしてくるから不思議なものだ。


なんでも前世の風子嬢は、家でも母親の夕食の支度を良く手伝っていたらしい。

そう、風子嬢は日本の一般家庭の生まれである。


今の世界では王族と貴族に転生したが、元々僕ら2人とも前世の庶民の感覚に馴染んでいた。

ウェンディも前世の記憶が戻ったから、率先して自分で料理をしたいのだろう。




僕が王宮から帰宅して厨房に向かうと、フリルが付き白いエプロン姿のウェンディが、何やら赤い塊を、一生懸命手でこねていた。


「旦那様、おかえりなさいませ! 今夜のメインはミックスハンバーグですわ!」

と小麦粉が付いてるのか頬が白くなっている。


それでも瞳を生き生きと輝かせてる妻の姿は愛らしい。


「ほお、僕の大好物だね」


「ええ、旦那様のお好きなポテトサラダも沢山作りましたのよ。デザートはダイエットで紅茶とオレンジゼリーにしますわね!」


「ははは、僕の体型のために考慮してくれてるんだね!」


「ええ、太り過ぎは騎士のお仕事にも差し障りになりますし、お身体にも余りよくありませんもの」



──そうそうこれだよ、妻はここまで気を使ってくれる。


僕の顔も自然と緩む。


まあいいか、当分はこの蜜月の時間を楽しんでみよう。




※ 結末が唐突過ぎたので、その後の2人の新婚生活を数話ほど書く予定です。

よろしければ一読くださいませ。\(^o^)/

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