光の邪気との別れ
※ 2025/11/6 挿入及び修正済み
◇ ◇ ◇ ◇
その後、シスターたちが部屋から出た後、ライ老人は僕の質問に知る限りのことを答えてくれた。
「ライ殿。囚われた者たちの首謀者は、やはり王妃の手先だったのですか?」
「左様でございます。以前のパーティーで取り逃がした間者たちだったそうです。デラバイトの王妃は自分だけ迫害を受けるのが許せなかったのか、ウェンディ姫を道連れにしたかったのでしょう」
「道連れってどういう……?」
「カール様。実はデラバイトの王妃は、ウェンディ姫様の暗殺を指示した後で、自ら同じ毒を飲んで自害なさったようです」
「え、自害?」
「ええ、王妃は最初からそのおつもりだったのでしょう。辺境地での幽閉暮らしなど死んでも嫌だといっていたようで……とはいえ自死、自分の産んだ姫もいるのに余りにも愚かな方ですな」
「…………」
──なんたることだ。そこまでウェンディ憎しというか、デラバイトの王妃はそれほどまでにあの国王に執着してたのだろうか?
あんな背が低く小太りの国王を?
私の脳裏には、デラバイト国王の姿がちらついた。
駆け落ちしたアクアリネ様もデラバイト国王にご執心だったそうだし、あの国王は見た目以上に貴族令嬢を虜にする媚薬でも持ち合わせているのか?
僕は勘繰ってしまう。
「では王妃の娘はウェンディ姫の異母妹はどうしたのですか?」
「彼女も王妃が指示をして毒を飲もうとしたのですが、恐くて毒が飲めず死にきれなかった様です」
「なんと、我が子にむごいことを……異母妹はまだ14歳と聞いたが」
「左様です。エミリー姫もある意味ウェンディ姫と同様に、悲劇の皇女ですな。だがエミリー姫は王妃と同じに、これまで散々姉君を虐げていた罪は消せませんから修道院に隔離されるしかないでしょう」
「ああ、そうなるのだろうな。それにしても愛とは恐ろしいものだな……」
僕は内心、胸が痛んだ。
愛情とはとても甘美なものだが、それが叶わぬ時は愛憎にも変化してしまうのだ。
「そういえば、カール様の“邪気の猫”はようやく消えましたな」
「え?」
「一昨日、カール様の毒の治療の瞑想をした折に、猫のシルエットは見えませんでした。今、カール様には以前のような邪気は纏っていませんでした」
「僕から邪気の猫が消えた?」
「はい、邪気といっても“光の邪気”でしたがな」
──そうか。邪気が消えたんだ。
呆けて聞いていたが突然、はっとなった!
ミケは? ミケはどうなった?
僕はミケがウェンディ姫を庇って間者が投げた武器に当たり、ミケが切られて血飛沫が飛んだのを思い出した!
僕の心臓は、急にドキンドキンと大きく鳴り響いた。
「カール様?」
「ライ殿、姫の飼っていたミケ猫はどうしたかご存じですか? ミケはあの時、刃に当たって血が飛んだのを目の当たりに見たのですが……」
「…………」
ライ老人は少し顔を歪めた。
「ライ殿──?」
「残念ながら、ウェンディ様の飼われていた猫は、私が見た時はもう息絶えて助かりませんでした。ウェンディ様が猫を抱く手やお召しものも血だらけになっていて、絶叫で泣いておりました。あの猫は体当たりでウェンディ姫をお守りしたのでしょうな──できれば私も猫を助けて差し上げたかった……」
ライ老人は辛そうに顔を伏せた。
「そんな……嘘だ。 ミケ、ミケが死んだなんて……」
僕は、僕は思いの外、ショックだった。
あのミケが、ミケが死んだことが信じられなかった。
涙がポロポロと溢れて止まらなかった。




