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なんども駆け落ちされた伯爵子息カールの行く末は……  作者: 星野 満


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ライ老人との再会

※ 2025/11/6 タイトル変更&修正済

◇ ◇ ◇ ◇



「カール様、カール様、お目覚めですか?」


僕は見知らぬシスターたちの声で目が覚めた。


「!……ここはどこだ……」


「正教会の治療室です。あなた様は怪我をなされて正教会へ運ばれたのです」



──正教会? あ、そうか()()()スミソナイト王国か。


僕は、目覚めてから王室晩餐会の後で、ウェンディ姫を殺めようとした刺客が現れたことを思い出した!


「ウ、ウェンディ姫は、姫は無事か──うっ!」


僕は、ベッドから起き上がろうとしたが、突然鈍い痛みが全身を駆け巡った。


「あ、まだ起きてはいけません、せっかく治療した傷口が開きますわ」


中年のシスターがベッドから起き上がる僕を制した。



──なんだ、この鈍い痛みは僕は苦痛で顔を歪めた。


良く見ると上半身裸で肩と背中、胸にかけて包帯がぐるぐる巻きにされていた。


「う、大丈夫だ。僕のことより、ウェンディ姫は、姫は無事でしたか?」

「カール様、今王室の従者に確認いたしますから、とにかく落ち着いてくださいませ!」

「いや、ここでのんびり治療してはいられない。姫は姫はご無事か確かめねば!」

「あ、駄目ですよ動いては、傷口が開きます。カール様!」

「あなた達、来て頂戴!」


慌てて中年のシスターが他の若いシスターたちが叫ぶ。


「おやおや、病人はお静かに。せっかく治療した傷口がうずきますぞ!」


扉が開いて男性が入ってきた。


「ライ様!?」


シスターが叫んだ。

目前にいる初老の男は、酷く痩せており長い口髭を伸ばして神秘的な金色の瞳をしていた。


「あなたは確か!」


「カール様、お久しぶりでございます。魔術師のライでございます」


ライ老人は、胸元に両手を交互させて挨拶をした。



──そうだ、この老人は、以前瞑想療法(ヒーリング)を僕に施してくれたライ殿だ。



「ライ殿、お久しぶりです。あの、ウェンディ姫はご無事ですか?」


「ご安心ください。カール様が身を(てい)して庇ったので、ウェンディ姫はかすり傷ひとつございません。一昨日おとといここへカール様が担ぎ込まれた時に、ウェンディ様も夜遅くまでこちらにいたのです」


「え、ウェンディ姫が?」


「はい、ですがカール様が一命を取りとめたとご報告したところ、安堵されてその場でお倒れになりました。慌てて国王たちが、むりやりウェンディ姫を後宮に連れ戻しました。今頃、ウェンディ姫も2日も徹夜されましたから、今はまだお休みになられていることでしょう。今日また私どもが、カール様の容体を王室にご報告いたしますので、明日一度、こちらに来るやもしれませんな」


「はあ、そうでしたか、ああ……良かった……」


僕はホッと安堵した。



──良かった、ウェンディ姫はご無事だったのだ。


肝心なことが聞けたので、なにやらまた背中と肩に痛みが増してきた。


「お身体まだ痛みますでしょう。なにせ間者はコブラの猛毒を投げ物(手裏剣)()り込んでましたからな。聖女でも切られた傷は治せても猛毒までは治癒できません」


「……そうか、やはりあの手投げの武器に毒が塗ってあったのですね」


「左様でございます。身体の神経を麻痺させる恐ろしい猛毒でした。間者を全員捕まえた後、毒の正体を突き止める為に私が瞑想で呼ばれました。さすれば彼等の邪気に黒い蛇が浮かびました故、毒蛇の猛毒とわかったのです。その後、直ぐに毒を解毒する薬草を私が処方しましたので、カール様はなんとか一命を取り留めました」


「なんと、ライ殿の瞑想はそこまで見抜く力があるとはたいしたものだ。私は何度もライ殿に助けられている。心よりお礼をいわねばならない。本当に感謝いたします。命をお救い下さりありがとうございました」


僕はベッドから身動きできなかったので、せめて握手だけでもと片手を差し出した。


ライ老人は、ニコッと微笑んで握手をしてくれた。


「いえいえ、これが私の職務ですのでお礼には及びません。ですがまだ毒が抜け切れていません。ここ数日間は絶対安静にしてください」


「わかりました」


「さあ、シスター、カール様に痛み止めと毒消しの薬草茶を与えてやりなさい」

「はい、ライ殿」


ライ老人の傍にいたシスターが水差しで僕にお茶を飲ませた。


なにやらぬるくてとても苦い茶だった。


「う、苦いな……」

「解毒剤と痛み止めです。苦いでしょうが、一日3回、どうか我慢してお飲みくださいませ」


「わかりました……」


素直に従ったものの、僕は、内心これほど苦いものは飲んだことがないので、毎日3度も飲まなくてはいけないのかと思うと、げっそりした。


そんな僕の顔をみた若いシスターたちはクスクスと微笑していた。






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