カレンの記憶・カールSIDE(2)
※ 2025/11/4 挿入及び修正済み
◇ ◇ ◇ ◇
グループの中で亀裂が生じ始めたのは、デビューして半年が過ぎた頃からだった。
2曲目のシングルも僕の曲だったが、シングルほどの大ヒットではなかったがヒットはしていた。
仕事に慣れてきて、疲れが出始めた頃──。
ある日、控室で僕はジンが寝ているライトの口にキスをしているのを目撃した。
最初は冗談でしてるのかと思って、気にもとめてなかったが何度が同じ場に出くわした。
──ジン、ライトまさかお前たち……まじか?
ジンとライトに問いただそうと思ったが、何か怖くて聞けなかった。
それでも僕は何だかとても嫌な気持ちになっていった。
そのまま2人、特にジンからプライベートでは距離を置くようになった。
そんなある日、ジンが風邪で休んだ時があった。
ライトとレッスン会場で2人になった。
ちょうど僕は、いい機会だ、ライトにジンとの関係を聞こうとしたら、ライトが先に言った。
「昨日さ、フラワー48の優実ちゃんから告白されたんだよ」
「え、あのセンターの可愛い子?」
「うん、前から“うたばんレッツゴー!”の控え室とかでよく話をしてて、前から可愛い子だなと思ってた。そしたら、向こうからコクられた時はびっくりしたよ」
「へえ……良かったじゃないか。で、どうするの?」
「うんOKした。本当はデビュー年は女の子と付き合うのは、事務所はご法度と云われたけど、あの子といるととっても楽しいっていうか、仕事の疲れがとてるんだよ」
「わかる。アイドルの世界は僕も向いてないから……」
「カレン、お前……」
「あ、今はまだ頑張れるから大丈夫だよ。でも光、優実ちゃんとはバレずにうまく付き合えよ!」
「サンキュ。お前に話して良かったよ。ジンにいったら凄い剣幕で怒られたんだ」
「え、ジンが怒った?」
「ああ、デビューしたばかりでプロとして失格だって、頭ごなしにメチャクチャ怒るんだよ。マネさんより怖かったぜ!」
「……ああ、そうだろうな……」
──だって光、あいつはお前をマジで好きなんだぜ!
ロッカー室でお前の下着まで嗅いでたくらいだ。
う、どうしようか、僕は、この事を本人に伝えておこうか迷った。
「なあ……光?」
「何?」
「あ、いや、やっぱりいいや。とにかく事務所にはバレずに付き合えよ」
「サンキュ、カレン!」
「はい、休憩終了、レッスン再開よ!」
と遠くから踊りのコーチから叫んで、レッスンが再開された。
◇
「1.2.3」 「はい、1.2.3!」
僕は、リズミカルに光と踊りながらジンの事を考えていた。
やっぱり、ジンの片思いなんだなと。
この頃から僕はジンが男色だとわかって、ますますジンが嫌いになっていったんだ。
だけど、異世界でレフティ伯爵と和解した時の、彼の涙を僕は思い出した。
レフティ伯爵の涙は紛れもなく本物だった。
彼は片思いと知りつつも、とめどない気持ちを隠さなかった。
──うん、今なら理解できる。
たとえ相手が異性でなくても、人を好きになるのは仕様がないよ。
恋をするって理屈じゃないのだと──。
※
同時に僕自身もアイドルという職業が、この頃からどんどん負担になっていった。
もともと高2の頃、友人の光が僕がピアノを弾けるから、僕にロックバンドをしようと光が持ちかけたのが始まりだった。
まさかこの頃はプロになって、アイドルの仕事をするなんて夢にも考えなかった。
何より僕は容姿も平凡で、女の子から騒がれるアイドルなんて柄ではなかった。
その後、光が事務所にスカウトされて「友人とバンドをしたいから」と、一旦は断ったのに、スカウトは僕も一緒でいいと無理やり説得された。
結局、事務所は光をメインに僕はバックバンドでデビューする予定だった。
僕もバックバンドならキーボードが引けるし承諾した。
だが、新たにジンがバンドに加入して「2人の容姿はとてもアイドル向きだよね」と事務所のプロデューサーが光とジンとセットで売る方針に変えた。
それで何故か曲が作れる僕も、背丈や年が光たちと同じだから「モーニング3」のメンバーとして残り、トントン拍子に「モー3」のデビューが決まっていった。
そして僕らはシングルが大ヒットして、一躍トップアイドルグループの仲間入りをして、瞬く間に1年が過ぎていった。
だが、その栄光もつかの間だった。
翌年、僕が作った3曲目のシングルがオオコケしてから、僕たち3人の歯車が狂っていった。
──決定的となったのは、コンサートで僕とジンは大ゲンカしたんだったな。
あの時、マネさんから僕の大ファンという、いつもカスミソウのファンレターをくれる女の子と、会える約束をしたのに、ジンと喧嘩して会えずじまいになってしまった。
思えばあのファンの女の子が、僕に温かなファンレターをくれてたから、僕は苦手なアイドルとしてステージに上がっていても、何とかグループを続けられたんだ。
それがまさか、あのカスミソウの子が風子嬢だったなんて……
まだ、小さいライブハウスで歌っていた頃から、カスミソウのファンレターは貰っていた。
だから彼女はデビュー当時から僕のファンだったのだろう。
※
「カレンどうした!」
「あ、悪い!」
「最後に挨拶しようぜ!」
「OK!」
僕はライブステージにいる事に意識が戻った。
ちょうどアンコール曲、全てが終わったのだ。
3人で両手をあげて、観客に向かってカーテンコールをした。
その時、観客席にライトが明るく鮮やかに照らされた。
観客席の女の子たちがよく見えた。
ふと僕は前から3番目の一番端の席の、白いワンピースの少女と目があった。
「!?」
とても潤んでつぶらな瞳の儚げな少女だった。
少女は僕だけをじっと見つめていた。
そう、ライトでもジンでもなく、ステージには僕だけしか目に入らないかのように。
──君か、 君なのか?
おさげ髪に、白いリボンをつけたかわいい少女だった。
少女はカスミソウの花束を持っていた。
風子嬢?
僕はなぜか直感で彼女だとわかった──。
少女の顔はウェンディ姫とは全然違うけど、彼女の纏う雰囲気がよく似ていたのだ。
──そうか君が風子嬢だったのか。
僕は彼女に向かってとびきりの笑顔で手を振った。




