カレンの記憶・カールSIDE(1)
※ 2025/11/4 修正済み
◇ ◇ ◇ ◇
ライブ会場。
煌めく青やグリーンの照明のライト光線が交差する会場内。
ギューン、ギューン!と音楽サウンドが、会場全体をこだまするように唸って聞こえている。
「キャー、ライト!」
「ジン様、最高!!」
「モー3!!」
「モー3!!」
若い女性たちの黄色い絶叫ともいえる歓声が聞こえる。
ステージの幕からもよく聞こえる、怒涛のような歓声だ。
僕は朦朧とした意識の中、はっと我に返った。
──何だ、ここは?
僕は死んだのか?
いや……生きている、生きているが……
凄く暑くて、体中汗でびっしょりだ。
僕は自分のTシャツ姿とパンツルックの足元を見た。
素足にスニーカーを履いている。
とても変わった形の靴なのに、不思議と僕は直ぐにスニーカーだと分かった。
──この姿は? あ、そうかここは日本!
僕は周りをきょろきょろと見回した。
何人か男性たちが立っている。
皆、僕と同じようなラフな格好をしていた。
サングラスをかけた男たちもいる。
女の人もチラチラいる。
どうやらステージの幕間にいるようで、すぐ傍の小さいテーブルには、冷えたタオルとペットボトルが置いてあった。
「おい、カレン大丈夫か。さっき少しだけど気を失っていたんだぞ!」
と美少年が僕に冷たいタオルで顔や首筋を拭いてくれた。
「きっと初めてのツアーだから緊張したんだな」
美少年は金髪に染めてるけど瞳は茶色だった。
そうだ、この少年は高校時代のクラスメートの光だ。
彼の「モー3」の芸名はライトだったな。
デラバイトのハーバート王太子に顔がそっくりじゃないか?
光がペットボトルを僕の首筋にあてた。
「うぁっ、冷たいよ!」
「ハハ、目が醒めただろう!」
ライトが楽しそうに笑う。
──ああ、そうか。わかったぞ!
これは僕の前世のカレン時代の記憶だ。
そしてここは過去だ!
今、僕は過去の記憶の中にいるんだ!
なんだろう、不思議と違和感がまったくない。
ずっとこの世界に生きていた、という感覚が頭の中にしっかりと刻まれている。
確か今日のステージは「モーニング3」がデビューして初のツアーコンサートの初日だ。
この頃の僕らはデビュー曲が大ヒットして、瞬く間に人気アイドルグループに躍り出たばかりだ。
それ故、スカウトされた事務所も僕たちを大々的にプッシュしはじめた。
そのおかげで主要都市の初の全国のライブツアーを、開始したばかりの頃だった。
「アンコール、アンコール!」
「アンコール、アンコール!」
アンコールと手拍子の大合唱。
「カレン大丈夫か。アンコールだけど、このまま演奏できる?」
ジンがポンと僕の肩を叩いて、心配そうに顔を覗き込む。
──ジン。あ、黒髪のストレートヘア。黒目切れ長の瞳。
コイツも光に負けず劣らずカッコいいな!
なんてこった、ジンの顔もフレディ伯爵そっくりじゃないか?
僕はペットボトルの水を飲み終えて笑った。
「ああ、ありがとう。ジン、もう大丈夫だ!」
「良かった!」
「よし、アンコールだ、ジン、カレン行くぞ!」
「「OK!」」
タオルを宙に投げ捨てたライトが、まっさきにステージに走っていく!
その後、ジンも軽やかな足取りで後に続いた。
すぐに僕も2人の後ろのキーボードに向かった。
「キヤッーー!」
「ワァアアアーー!」
凄い歓声だ。
僕らがステージに来ると、歓声が会場中轟音のように揺れた。
光がマイクを片手に持って
「3,2,1──イェーッ!」とリズムを取って、合図をした。
「ジャジャァーーン!」
「ギューーン!」
とバックバンドのエレキギターの凄まじい音が唸路を上げた。
ライトとジンの軽快なダンスで、ファンの歓声と手拍子が鳴り響く。
──ああ、最高だ。
なんて楽しいんだ!
僕はキーボードを弾きながら、自然と笑顔になった。
──可笑しい!
こんなに楽しく演奏してたのに何故、僕はこのグループから抜けたんだ?
そんな事を考えながらも僕は懸命にキーボードを弾いた。
良くライブでやるクチパクではない、演奏も生でしていたライブだった。
※
2曲目のアンコール曲はデビュー曲だった。
まだ、この頃はまだ1.stアルバムだけの構成で「モー3」の持ち歌だけでは、ライブ曲数が足りず同じ曲をアンコールで歌ったんだっけ。
そう、この頃の僕らはプライベートなんかまったくなかった。
人気もうなぎ上りでメンバーたちも、毎日の芸能活動をこなすのに精いっぱいだった。
とにかく日々のスケジュールに追われる毎日。
テレビの歌番組出演、ラジオのゲストトーク、レコード会社との打ち合わせ。
朝から晩まで「モー3」のグループ活動だけで歌う、そして曲を売るための宣伝活動ばかりの日々だった。
だからこそ3人が「モーニング3」を成功させようとひとつになっていた。
僕らの中でチームワークが最高潮の時だったんだ。




