王族の晩餐会
※ 2025/10/25 タイトル変更及び修正済み
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王宮殿の客間・晩餐会場
高い天井から吊り下げられた、豪奢なクリスタルシャンデリアの煌めく灯りの中。
王宮殿の来賓の間に、僕は生まれて初めて国王の晩餐会に招待された。
公爵など王侯貴族ならともかく、何の褒章もない小領地の伯爵臣下が、王室一家とまみえて晩餐を共にするなど到底有りえないことだった。
だが「今宵は無礼講で良い!」と国王とデラバイト国王、共々仰せられて、僕は晩餐会に招待された。た。
出席者は国王夫妻、ライナス王太子夫妻。商人に扮したフレディ商会長こと、デラバイト国王リチャード、その王女ウェンディ嬢の王族6名と、そうそうたる顔ぶれの中で臣下は僕だけの晩餐会となった。
初めての晩餐会で気付いたが、国王様を初め王妃様たちも皆、仲良さげで和気あいあいの方々だった。
隣国のデラバイト王と我が国王はウェンディ姫の亡き母、アクアリネ妃の件であまり仲が宜しくないなどと一部噂も耳にしたが、そんなことは微塵もなく両名は豪快に、酒を酌み交わしながら、次から次へと運ばれてくるご馳走に舌鼓を打っていた。
晩餐の形式のテーブルは大きな円卓1つだった。
デラバイト国王と僕の2人と王族が小人数だったからだ。
僕はライナス殿下やウェンディ姫の護衛騎士として、晩餐会など来賓の間には日頃、扉の外に待機しているだけだったので、一度も入出がない豪奢な来賓室に王族と真向いで同席するだけで緊張が走った。
そのせいで最初から僕だけがカチコに体中が強張っていた。
僕の緊張が傍からもよくわかるようで、斜め真向いのライナス殿下が“クククっ”と笑いながら僕を見つめている。
ライナス殿下は僕が緊張している姿がとても面白いのか笑ってばかりいる。
──ふん、殿下の笑い上戸め!
その後、ライナス殿下は隣のアメリア王太子妃に、僕のことをコソコソと耳打ちする。
すかさずアメリア妃は
「ライナス、カール伯爵をからかうのはおよしなさい!」
と夫を窘めてはいるものの、アメリア妃の眼にも僕をみて面白がってるのがありありと分かった。
その間、王室専属の給仕が僕の席にスープやパン、オードブル、魚料理や肉料理などなど豪華な料理を次々と運んでくるが、僕は料理をただ口に入れて咀嚼しているが、何を食べても一向に味がしない。
それだけ王族の晩餐会に招かれた緊張で、ナイフとフォークを使用する順番すら間違える子供のような有様であった。
隣の席のウェンディ姫が余りにも僕の痛ましい姿を察してくれたのか──
「カール様、本当に申し訳ありません。お父様の無茶ぶりで、急きょ王族のディナーに招かれるなんて……さぞやお気遣い大変でしょう」
「あはは……ウェンディ様さようなお気遣いなさらず、大丈夫ですよ」
と僕はカラ元気で笑いながら返事をしたものの、声は上ずっていた。
「いや……それにしてもさすが王宮のディナー料理は天下一品ですね~あはは。私は食べ過ぎたせいか、お腹が既にパンパンですよ!」
僕は冷や汗を掻きながら強がって、わざと口角をあげて笑顔を作った。
「カール様……」
ウェンディ姫の眉毛が、への字になって美しい額に皺が寄ってしまっている。
──ああ、こんなに姫に心配かけさせて申し訳ない。
せっかくのウェンディ姫の父君のご好意を、無下にしてはならないと勇んで出席したものの、やはり王族一家の中で食事をするのは僕には無謀すぎた。
僕は食べすぎで膨らんだ腹をさすりながら一刻も早く、この晩餐会が終わることをひたすら願った。




