3人の貴公子とウェンディ姫(3)
※ 2025/10/24 挿入及び修正済み
◇ ◇ ◇ ◇
「そうだわ、ハーバートお兄様。わたくし、先日、お母様の霊廟を見つけましたの! とても美しい造りでしたわ」
「なんと、母上の霊廟があるのか?」
ハーバート王太子が驚く。
「ええ、お兄様もご存じなかったのですね。紛れもなくお母様の霊廟よ。とてもひっそりとした場所にあって神秘的でした。庭師もたまにしか手入れをしてないようだけど、王宮内でも余り知られてないんですって!」
ウェンディ姫はうっとりとして頬を薔薇色に染めて王太子たちに伝えた。
「──でも私は母の記憶がないでしょう。見つけた時はとても嬉しかったですわ。まるで何かに導かれて歩いていて見つけたのです。私は母が恋しかったから、母の生まれ故郷の霊廟内に佇んでいると心が満たされて、なんだか清浄されてとても落ち着きましたわ」
「おお、そうだったのか、スミソナイト前王(祖父)は、父上に母を盗まれたと長くご立腹だったと聞いたが、真実ではなかったのだな」
ハーバート王太子も目を輝かせて喜ぶ。
「ええ、お祖父様(前国王)も、叔父様(現国王)も母が異国の地で亡くなって、さぞや哀しかったのでしょう。私を可愛がってくださったのも、私の顔は母の面影が色濃く残っているせいですわ」
「そうだな、ならば私もせっかく母の故郷に来たのだ。霊廟へ寄らせてもらわねば!」
「そうなさいませお兄様、明日にでも私がご案内いたしますわ」
「わかった。レフティも一緒に行くか!」
「はい殿下、私も見とうございます。まさかアクアリネ様の霊廟がスミソナイト王国にあるとは存じ上げませんでした。とても僥倖でございます」
「ええ、皆で行きましょうよ。カール伯爵様も、もう一度、私たちとご一緒してくださるわよね?」
「もちろんお供致します……ただ霊廟内は御3人だけで、ごゆるりとなさった方がよろしいのでは?」
「そんなこと……」
僕が遠慮したことで、ウェンディ姫は少しがっかりした表情になった。
「あ、誤解なきよう……無論、私はウェンディ姫の護衛騎士としてお傍にお仕えして門外で待機致しますのでご安心ください」
「ふむカール伯爵、君は随分と謙虚で気遣いができる男だな。ウェンディもそんな君を気に入ってると見える、君ならきっと妹の夫君として、国王も首をタテに振るやもしれんな、あはははは!」
ハーバート王太子は、ブルーアイズを輝かせて大笑いした。
──お、けっこうよく笑う御方だ。
王族ってライナス殿下と言い、ハーバート王太子といい、笑い上戸が多いのかもしれない。
しかし王太子のいうように、デラバイト国王が本当に結婚を了承してくれるとは思えん。
僕は目まぐるしく事態が変わるため、少々戸惑っていた。
この状況の変化。
婚約者を連れてきたハーバート王太子が、まさか僕とウェンディ姫との結婚に了承してくれるなんて、昨日までは夢にも思わなかった。
突然の僥倖が舞いこんできた気分だ。
正直、自分の気持ちが何だか追いついていけなかった。
◇
その後、レフティ伯爵とウェンディ姫の婚約は解消されたと報告が、デラバイト王室から正式に通達が来た。
この通達をライナス殿下から聞いた僕は、ウェンディ姫とレフティ伯爵が、婚姻破棄されたのだとようやく実感できた。
そしてこれを機会に僕は叔母からの見合い話も全てキッパリと断った。
叔母上の他、祖父と父も怒って嘆いたが僕は譲らなかった。
「見合いをしない理由をいえ!」と祖父たちから問沙汰されたが『面倒だから』と、頑なにしか答えなかった。
まさか僕がウェンディ姫と婚姻の話が出ているなんて、家族には絶対に言えない。
だから沈黙を貫いていた。
当然だろう──。
いくらハーバート王太子が了承したとはいえ、こればかりはデラバイト国王が了承しない限り、結婚は不可能だ。
僕は表向きはあくまでも、ウェンディ姫の護衛騎士以上の態度は変えなかった。
当のウェンディ姫は、少々物足りなさそうだったが……。
そしてハーバート王太子たちが帰国した1か月後──。
今度はデラバイト国王が、お忍びでスミソナイト王国へ乗り込んできたから、僕の身辺はまたしても騒がしくなっていった。




