表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なんども駆け落ちされた伯爵子息カールの行く末は……  作者: 星野 満


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/81

前世を思い出したわ! ウェンディSIDE 

※ 2025/11/3 修正済み。


◇ ◇ ◇ ◇



王宮殿後宮・ウェンディの寝室。


まだカール伯爵とレフティ伯爵が、庭園にいる時間──。



失神してベッドに眠っていた私はようやく目を覚ました。


「にゃ~にゃ~」と猫の鳴き声が聞こえた。


気付けばにょっと、目の前にミケの可愛い顔のドアップ!


「ミケ……」

ミケはクリクリとした茶色の瞳孔が悪戯っぽくキラキラしている。

そのままミケはペロペロと私の顔を舐めた。


「ふふ、ミケったら!」

私はくすぐったくてベッドから上半身を起こした。


そのまま手を伸ばして、ミケを胸にしっかりと抱いた。


「にゃーご、にゃーご、ゴロゴロ」


嬉しそうにミケは喉を鳴らした。


ベッドの隣には、椅子に座ったマリーがうつらうつらと、うたた寝をしていた。


「マリー、マリー起きて!」マリーはびくっと気が付いて私を見つめる。


「あ、お嬢様。良かった……目覚めたのですね。心配しました!」


「ええマリー、心配かけてごめんなさい。あの……ここは、私の……ウェンディの寝室よね?」


「左様でございますが……どうなさいましたか?」

「ううん……何でもないわ」


マリーは心配そうに言った。


「お嬢様はハーバート殿下とお話なさってた時、突然お倒れになったのです。最近はカール様を見ても平気でしたのに、またお嬢様がお倒れになって私はとても心配いたしました」


「ごめんなさいマリー」


「何を仰います。ずっとお眠りで喉もお(かわ)きでしょう。お水をお飲みになりますか?」


「ええ、お願い」

「はい、どうぞお気をつけて……」


乳母のマリーはサイドテーブルにある水差しでお水を飲ませてくれた。


私は水を飲みながら、ミケの頭を撫でる手が少し震えた。





──そうだ、ここは異世界スミソナイト王国。


私は隣国のデラバイトの第1王女のウェンディなんだわ。


こうしていつも私の周りは、常にお付の従者や乳母のマリーが側にいてくれて、身の回りを世話をしてくれる。


至れり尽くせりの王女様に転生したのね。



私は豪奢(ごうしゃ)な部屋をくるりと見渡しながら、ふと大きな鏡台に映る自分の顔を見つめた。


波打つ豊かな金髪で瞳は蒼色。

色白で整った輪郭の少女の姿が映っている。


絵画の仏蘭西(フランス)人形のように美しい。




──信じられない。


こんな非現実なことってあるのかしら?


()()()()まったく違う世界なんだわ。


どう見てもこっちが夢想世界なんだけど、今が現実の世界だったのね。


私は眩暈(めまい)がしそうなくらい戸惑った。


それでも──


不思議と風子の記憶が蘇っても、これまで18年間ものウェンディ王女の生きた時間も忘れてはいない。


ただ、過去世の風子の記憶がポンとウェンディの脳内に追加されただけ。


まだ、ところどころパズルのピースが揃わない断片的な箇所はあるが、アイドル「モーニング3」のカレンのファンの記憶は鮮やかに蘇った。


私はもう一度、その過去を思い出して頭の中を整理した。



※ ※



前世の私、安城 風子(あんじょうふうこ)は大人しい女子高生だった。


自分でいうのもなんだが、勉強と読書ばかりしている根暗な女の子だった。

読書は何でも読んだが特に魔法や異世界ファンタジー小説が大好きだった。


私は現実よりも、空想ばかりしているような少女だった。


それが突然アイドルグループ「モーニング3」略して「モー3」。

彼等の演奏をテレビで見て、一瞬で虜になり推しになった。


特にカレンにどんどん惹かれていき、アルバムを購入したりライブにも行くようになった。

それはエスカレートしていき、家族から“追っかけ&ストーカー”と揶揄されるほど、グループにのめり込んでいった。


だがある日突然、一番推しのカレン様が交通事故で亡くなった。


あの時は目の前が真っ暗になった。

ショックで私は生きる気力を失くし、高校を中退するくらい落ち込んて家に引き籠った。


そしてカレン様の死後から何か月か経ったある日、私はファンクラブの追悼記事を読んだ。


記事にはカレン様のお墓を彼のご両親が建てたという内容だった。


カレン様=本名は九条 唐人(からひと)の実家は青森にあったのでお墓も青森にあったが、カレンの両親がファンがお墓参りをしやすいようにと、わざわざ分骨して東京の寺にお墓を建てたと書いてあった。


私は記事を読むと藁をもつかむように、私と同じようにカレン様の死を悲しんでいたファンの友人たちと、毎週末になると待ち合わせしてお墓参りに通った。


だがいつしか他のファンの娘も1人、2人と減りいつしか私だけとなった。


ひとりお墓に行くようになった私は、誰に気兼ねもせずに毎日通った。




──そうだ、あの頃の私はひがな一日中、亡くなったカレン様のことばかり考えていた。


いけないことだが心の中は常に“カレン様の後を追いたい”と、何度も自死を考えていた日々だった。


だが家族の心配を考えると、さすがに実行まではできずにいた。


私には母と父、2人の姉がいた。

家族たちは私をとても心配してくれた。


それなのに学校まで中退して迷惑をかけていると、私は自分の行動を呪った。



──ああ、だけどなんてことでしょう。


ウェンディ姫となった私は、過去世だった家族の顔を誰ひとりとして思い出せない。


笑い合っていた両親の顔も、優しかった2人の姉の顔もおぼろげな風貌しか記憶にない。



親不孝だけど、私の前世の記憶は、ステージ上のカレン様含む「モー3」のことばかりだわ。


だからカレンが亡くなって、淋しくて淋しくて毎日お墓に通ったのね。

カレンが大好きだったミケ猫の置き物を何か1つ買って持っていった。


猫を愛していたカレンがお墓で独りぼっちにならないように……。


私はカレン様のお墓参りをするのが日課になっていた。




──あの頃は、カレン様のお墓にいるだけで心が満たされていた。


だけど秋が深まる頃いつものようにお墓から帰る途中、私は冷たい雨に打たれて風邪を引いてしまった。そのまま肺炎をこじらせて、あっけなく死んでしまったんだわ。


(風子)は18歳だった。

今の私と同じ年だ──。


あの亡くなった夜は、高熱で朦朧(もうろう)としていたのになぜか覚えている。

全身が痛くて、苦しくて熱で(うな)されながらも、カレンをずっと呼んでいたわ。



その時、私の願いを天の声が聞き入れてくださったのか、今こうしてカール様のいる異世界へ転生できたのかしら?



◇ ◇



そして──。


意外な事だが転生者は私とカール様だけではなかった。


他にも転生者はいた。


ウェンディは蒼色の瞳をカッと見開いた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ