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なんども駆け落ちされた伯爵子息カールの行く末は……  作者: 星野 満


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カールとレフティ伯爵(3)

※ 2025/10/22 挿入及び修正済み

◇ ◇ ◇ ◇



レフティ伯爵は僕の話を黙って聞いてくれた。


「なるほどな、あの時カレンのお墓にあった大きなミケ猫の置き物まで、猫として転生していたのか……人間以外に動物まで……それも風子嬢の怨念(おんねん)だったのやもしれんな」


レフティ伯爵は顎に手をやって考え込みながら言った。


「実は、俺も風子嬢と一度、カレンの墓で会った事があったんだ」


「え、そうなのですか?」と僕は驚いた。


「ああ、それでその時、カレンが好きだったかすみ草のファンレターの女子だって知ったんだ。だがあの猫の置き物が、ウェンディ姫のミケだったとは気が付かなかったよ」


「あの……教えて欲しいのですが、伯爵様のジンの記憶って、いつ頃わかったのですか?」


「そうだな、確か数年前に突然啓示があったんだ」


「啓示?」


「ああ、ある日突然、頭が割れるように痛くなってな、何やら不思議な感覚だった。自分の心ともう1つ別の人格が同居してるような気持ち悪さだった。でもそれも段々と馴れていったがな」




──数年前、あ、最初のマロンクリーム令嬢のフィアンセが駆け落ちした頃か?


だとすると、ミケもその時に僕に取り()き始めたのか?


僕はなんとなく腑に落ちた。


多分、レフティ伯爵とミケは同時に転生したんだ。

それも風子嬢が若くして亡くなり、ウェンディに転生した後だろう。


レフティ伯爵はそのまま説明を続けた。


「そして俺の頭に、過去世のジンの記憶が入ってきたんだ。ハーバート王太子の前世がライトだとはすぐわかったんだ。ハーバートとライトは顔が瓜2つだったからな。違いはブルーアイズと薄茶の瞳の色くらいだった。だが、ウェンディ姫が風子嬢とはすぐに気が付かなかった。風子嬢とウェンディ姫は容姿はまったく似てなかったからだ」



──そうだ、僕も風子嬢は暗い魔女のような墓参り令嬢のイメージだった。


現在のウェンディ姫とはまったく違う。


「あ、でも実際の風子嬢は3つ編みのセーラー服姿で、可愛い女子高生だったぞ!」


「セーラー服姿?」


「あ、そうか。セーラー服といってもわからんよな。今でいう女子学園の令嬢が着る制服だよ、日本の男からは好まれる学生服なんだ」


「はあ……?」



レフティ伯爵が僕の間抜け顔を見て苦笑した。


「まあ、そんなことはどうでもいい。俺がウェンディ姫が風子嬢と気付いたのは、姫がスミソナイト王国で“タイガーマスク”の護衛騎士に助けられたと、王太子から聞いた時だ──なぜか俺の中で、風子嬢とウェンディ妃が一瞬、過去の記憶と重なったんだ。その直後にウェンディ姫と俺との婚約を、姫の父王から打診された。さすがに絶句したよ。」


「そうなのですね。あの……伯爵様、もうひとつ質問していいですか?」

「なんだ?」


「その呪猫のミケは最初、僕の心にテレパシーで話しかけてきました。つい先ほども僕は貴方様の心の声が聞こえたんです。もしかして転生してから、テレパシーができる能力を身に着けたのですか?」


「あ、そういえばそうだったな。俺も驚いたよ、さっき突然、君の心声が聞こえたんだ──それで君がかすみ草の花が好きだというから、君がやはりカレンだと確信したんだ。でも変だ。テレパシーとやらは俺ではないな」


「え、なら今近くに化け猫のミケがいて、貴方様にそう仕向けたのかもしれないですよ」

と、僕はきょろきょろと辺りを見回した。



──そうだよ、あの化け猫ならやりかねん!


「そうか? しかしウェンディ姫様の猫なら寝室で姫の側にいたはずだ。さっき部屋で猫の鳴き声聞こえたよ」


「そうですか? では先ほどの不思議なテレパシーは何だろう?」


「う~ん、分からんが。それよりカレン!」


「はい?」


「君は前世のカレンの記憶がない。だから分からんだろうが、一応ジンとして俺にここで謝らせてくれ」


とレフティ伯爵は深々と頭を下げた。


「あわわ、伯爵!」


僕はレフティ伯爵に一礼されて驚愕した。

どうしても現在の姿で謝罪されると恐れ多いからだ。


「カレン、あの時は本当に悪かった。お前が亡くなった後『モー3』もすぐに解散したんだ」


「え、それは何故?」


レフティ伯爵は苦しそうな表情で答えた。


「あの日、お前が言った通りったよ。『モー3』の曲を作るお前がいなくなった事が何より大きかった、他人の曲だとヒットしなかったんだ。やはりアイドルは顔だけ良くても、長続きはしなかった。あれから俺とライトとの仲も()()()()()し始めてな──解散後はライトは役者の道に進んで俳優として大成した。俺は芸能界を辞めた」


「そうだったのですか……」


「ああ、お前に謝りたくて月命日(つきめいにち)の日は、必ずかすみ草を持ってお墓詣りしたよ。そこで風子嬢にも何度かあったんだ」


「彼女は毎日、カレンの墓参りをしていたと、ミケから聞きました」


「そうらしいな、とってもありがたいファンの子だよな」

「そうですね。僕にはもったいない崇拝者ですよ」


「それでな一番肝心な事をいうが、俺はウェンディ姫とは()()()()()()から安心しろ!」


「ええ、でもそんな……貴方様が勝手に決めても良いのですか?」


「お前がカレンだとはっきりとわかったんだ。風子嬢(ウェンディ姫)からまたしても、カレン(カール)を奪うわけにはいかんよ」


「ですが、王太子やデラバイト国王にはどう説明するのです?」


「そんなのはどうにでもなる。とにかく俺は突っぱねるよ。何よりウェンディ姫が、お前を見るだけで失神するほど夢中なんだろう。ならば意地でも結婚は無理だろうしな」


「レフティ伯爵……」


「安心しろ、ウェンディ姫は大人しかった過去の風子嬢ではないぞ、俺は幼き頃から姫を知っている。あの気性の姫なら、国王にお前と結婚できなければ修道女になると突っぱねるだろう。もしや切羽詰まったらお前と駆け落ちするかもしれんぞ」


「ええ、駆け落ちだけは勘弁してください! 僕は駆け落ちほど(いや)なものはないです!」


「そうか。たしか、お前は“3度も駆け落ちされた駄目男”だったな。我が国にも噂は聞こえてきたよ、あははは!」


「伯爵、もう昔のことは勘弁してくださいよ!」


僕は駆け落ち男の噂が他国まで知られていると知って、久しぶりに恥ずかしくなった。


「悪い、アハハハ!!」

レフティ伯爵は、駆け落ち男の言葉が可笑しいのか、笑いを抑えられない。


先ほどまでの神妙な面持ちはなくなり、レフティ伯爵の顔はとても晴れやかになっていた。



◇ ◇ 



「お~い、レフティたち、いつまで庭園を散歩してるんだい!」


僕らが和やかになった時、バルコニーのテラスからハーバート王太子が大声で呼ばれた。



「あ、申し訳ありません殿下、ただいま参ります!」

とレフティ伯爵が立ち上がる。


「早くしろ、ウェンディが目を醒ましたぞ! カール伯爵、妹が君たちと話がしたいそうだ!」



──良かった、ウェンディ姫が目を醒ましてくれた!


「畏まりましたハーバート王太子様、直ちにそちらへ参ります!」


僕も王太子に返事をして伯爵の後へと続いた。










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