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なんども駆け落ちされた伯爵子息カールの行く末は……  作者: 星野 満


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姫君と風子の記憶(2)ウェンディSIDE 

※ 2025/10/18 挿入&修正済み

◇ ◇ ◇ ◇



私、安城風子はカレンのファンというより、もはやストーカーといっても良い。


風子は「モー3」のファンクラブに即、入会したし、CDも新曲が出るたびに何十枚も購入して、部屋中ベタベタポスターを貼っている。


学校から家に帰れば、ほぼ毎週ファンレターを書いてカレン宛におくっている。


関東近辺のライブコンサートやテレビやラジオの出待ちまでチェックしている相当なカレンオタクだ。


お小遣いは全て「モー3」の為に、足りない分は昼食代も親に内緒で食べずに注ぎ込んでいた。



「モー3」はライト、ジン、カレンの3人組全員高卒したばかりの19歳のグループだ。


一昨年デビューして、またたくまにトップアイドルグループの仲間入りをした。


ライトとジンが主にボーカル担当で、歌ってキレキレなダンスをする。


カレンはキーボード担当で、2人の歌のハーモニー担当だ。


カレンの踊りは身体をゆするくらいで、ほぼキーボードから動かない。いわゆる派手なダンスで、パフォーマンスする2人の引き立て役だ。


何よりもカレン様は金髪染めたライト君と漆黒の髪のジン君の派手さに比べると、ごく平凡な容姿で余り華がない。


だが風子、つまり今世の私は「モー3」の楽曲の良さからファンになった変り種だった。


その優しく軽やかな曲を作っているのがカレンだと知って以来、カレン様の優しい風貌と歌がシンクロして、私はカレン様に夢中になっていった。



「風子、あんたってカレンが好きなんて変ってるわね~!」

「本当、たいていのファンは、ライトかジン様なのに」

「でもいいじゃない。それだけライバルがいないのは!」


と私の回りにいるファン仲間は、私がカレン様が好きなのを珍しいとからかった。


彼女らはテレビ局やライブ等で出待ちしてるファンの中でも、特に濃い追っかけファンだった。


「あら、カレン様の作る曲がいいから『モー3』は人気あるのよ」


おずおずと遠慮しながらも私は反論したs。


「まあ、そうだけど曲が良くてもカレンは地味だよ、裏方ぽいよ、私は断然ライトだわ」

「いいえ、私は黒髪の麗しいジン様よ!あの切れ長の目が堪らないわ!」

「そうよ、やっぱりアイドルは顔と歯が命ですもの!」

「そうよ、そうよ!」


と圧倒的に『モー3』の出待ちのファンはライトとジンが目当てだった。




──まあ、顔はともかくとして、カレン様も歯は白いしステキな歯並びよ!

と内心、私は舌打ちしていた。



そんな私だが『モー3』のファンになって1年近く、ひょんなことから『モー3』のマネージャーさんから電話を頂いた。


なんと、カレン様が“かすみ草のファンの子”と会いたい!というのだ。


私はファンレターを送る時、必ず目印に()()()()()()()()をつけて送付していたのだ。


かすみ草が好きなこともあるが、どこかでカレン様の特別なファンだと、承認欲求したかったのかもしれない。


それが功を奏したのか、カレン様が私の手紙を楽しみにしてると言う。


そして今私はのこのこと、真に受けてコンサートの後、マネージャーさんと一緒にカレンのいる楽屋の入口へ歩いていた。


「おーいマネージャー、悪い、ちょっと至急来てくれ!」

「え、今ですか?」

「ああ、至急だ、早く!」


私たちが振り向くと『モー3』の事務所の社長さんが廊下の奥から声をかけられた。


私は事務所の社長さんの顔まで覚えていた。


うう、我ながら恐るべしだよ、ストーカーファン!


「わかりました社長。あ、悪いわね風子ちゃん。先に1人で楽屋に入って待っててくれる、後から私も行くから!」


「ええ──私1人でですか?」


「うん、直ぐに戻るから、ほら!」


とマネージャーのお姉さんはそう言って、楽屋を開けて無理矢理私を中へ押し込んだ。


そのままお姉さんは、社長の方へバタバタと去ってしまった。



──そんなぁ、私1人でカレン様と出逢ったら死んじゃうわよ!


そう私、風子は極度のあがり症だった。


カレン様とたまにライブコンサートで目があったりすると、その都度(つど)失神してしまうくらいだった。


これは大げさではない、カレン様と接近するなんてとっても無理!

半径1メートル以内なんてとても近づけない!


無理無理無理無理無理無理ーー!


私は真っ青になった。


とにかく1人で遠くで、じっとカレン様を見てるのが大好きなの。

1人でにまにまと悦に浸っていたいだけなのよ〜!


そんな自分とまさかカレン様が会いたいなんて……嬉しいけど嬉しいけど……とても困る。


これが私の心底、本音だった。



無理、やはり会わずに帰ろう。


と、その時だった──。



「ジン、僕はグループを抜けるよ!」

「ああ、そうしろ、お前がいない方がせいせいする!」


楽屋の仕切られている、カーテンの奥から大きな声がした。



あ、この麗しい静かな声は……カレン様の声だわ。

相手はジン様?


もしかしてジン君と喧嘩している!?


風子の身体はとつぜん固まった──。









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