かすみ草の花嫁 ウェンディSIDE
※2025/10/17 挿入修正済み
◇ ◇ ◇ ◇
王宮殿の後宮 ウェンディ妃の部屋。
私は朝から気分が重くて仕方がなかった──。
何故なら今日の午後、デラバイト王国からレフティ伯爵が親善大使として来る日だったからだ。
王太子妃夫妻には「レフティ伯爵との縁談は絶対に嫌!」といったものの、果たして本人を目の前にしてキッパリとお断りをするのは忍びなかった。
──だって、レフティ伯爵には何の罪もないのよ。
彼の父上は現宰相である。
将来ハーバートお兄様が、国を継いだ時の片腕が私の夫になればお父様だって万々歳だろう。
レフティ伯爵にしても、父王が決定した縁談を承知する以外、臣下として拒否などできないのだから。
──ああ、とても憂鬱だわ。いっそのこと具合が悪いといって寝込もうかしら?
「お嬢様、いかがいたしました?」
乳母のマリーが心配そうに私を見ている。
「何でもないわ。マリー少し庭に出るわね、さあミケもいらっしゃいな!」
「にゃ~!」
と猫のミケを抱いた私は気分転換に庭園に出てみると、色とりどりの赤や黄色の薔薇が咲いている側で、真っ白い小花のかすみ草の花壇に目をやった。
かすみ草は美しく咲誇って満開だった。
「まあ、なんて可憐なのでしょう」と思わず私は感嘆の言葉を発した。
「ニャーニャー」とミケも私に同意したように鳴いたた。
私は子どもの頃から、真っ白いかすみ草の花が大好きだった。
側にいたお付の令嬢たちは「ウェンディ様は薔薇やガーベラよりも地味なお花がお好きなのね」
と珍しそうにいったが私はちっとも気にしなかった。
かすみ草こそ、薔薇やガーベラなど赤や黄色の大きくて目立つ花より、白く清楚で可憐な花に見えたからだ。
私はいつも好んでかすみ草だけを部屋に飾っていたが十分満足していた。
「にゃぁ~にゃぁ~」
突然、ミケが私の手から離れて花壇の回りを飛び跳ねて回りだした。
ミケもかすみ草が大好きみたい。
私は楽しくなってひと輪ずつ、かすみ草を摘みだした。
ミケは膝元の側にきて足元でごろ寝をしだす。
とてもご機嫌で嬉しそうだ。
そうね、せっかくだからと赤い薔薇も少しだけ添えてみよう。
──ああ、かすみ草ってなんて愛らしいのかしら。
かすみ草は薔薇など華やかな花の添えものと思われてるけどそれでもいい。
私はかすみ草が一番好きだわ。
そうよ、私の結婚式のブーケは真っ白なウェディングドレスに真っ白なかすみ草だけでいい。
大好きな白藍色の長いリボンをつけて、小さくて、ま白なお花が綿菓子みたいでフワフワしていて、とっても可愛いでしょう。
ドレスも真っ白でシンプルなエンパイアスタイルでいいわ。
床につくくらいのベールを被ってバージンロードをゆっくり歩く。
私はかすみ草を抱えながら、そっと目を瞑り自分のウェディングドレス姿を想像した。
──そう、小さなひっそりとした白亜の教会で2人きりで式をあげる新郎新婦。
隣には背の高い立派な体躯の、虎の被り物をした白いタキシードを着服した新郎。
その被り物の殿方はライトブラウンの目が優しくて私だけを見つめて微笑んでいる。
──ああ、想像するだけで、なんてステキなんでしょう!
「ウェンディ、おい、ウェンディ!」
突然、いつも聞きなれた野太い声が!
私の白い結婚式の空想世界がかき消されたように現実に引き戻す声──。
私が少し不機嫌に顔を向けると、背の高い2人の貴公子が部屋のバルコニーの前に立っていた。
「あらまあ、ハーバートお兄様、それにレフティ伯爵様まで!」
「にゃ~ご?」
ミケが不思議そうに首を傾けた。
突然、兄とレフティ伯爵のお部屋訪問に、私はびっくりして摘んでいたかすみ草を何輪か落としてしまった。




