駆け落ちは反対! ウェンディSIDE
※ 2025/10/17 タイトル変更&修正済み
◇ ◇ ◇ ◇
「駆け落ちってウェンディ、あなた本気でいってるの?」
「おいおい、ぶっそうなこというなよな。お前はデラバイト王国の王女なんだぞ?」
アメリア妃とライナス王太子は、お互い顔を見合わせて、
「は~やれやれ」といわんばかりの素振りをした。
それがちょっと私にはカチンときた。
「ええ、本気ですわ。私はレフティ伯爵様に嫁ぐ気はもうとうございません、もしお父様が、私の気持ちを無視して、このまま縁談を強引に勧めるなら、駆け落ちでもなんでも致しますわ!」
少々腹ただしくなった私は、カモミールティーの残りをグッと飲み干した。
ライナスお兄様は、腕組みをしながら首をふりふりした。
「ウェンディ、お前のカールへの真剣な気持ちは分かった。だがな、駆け落ちは肝心のカールが承知しないだろう」
「何故です、どうしてライナスお兄様がそんな風にいいきれますの?」
「何故って、カールは過去に3度も駆け落ちされているんだ。お前は当時のカールの苦しみを知らないから簡単にいうが、あいつにとって“駆け落ち”とは“禁句“だ、未だに忌まわしき言葉なんだよ」
「そんな事がカール様の身にあったのですか?」
「ああ、俺も当初は3度は流石に珍しくて、カールにお祓いでもしろとからかったがな。今となっては反省している。だから、いくらお前の頼みでも、あいつは駆け落ちだけは良しとしないだろうな」
「そんな……私が懇願してもカール様は承諾してくれませんでしょうか?」
そう自分で言ったくせに、私の心はザワザワとざわめいた。
──ああ、それは多分無理だろうと。
そんな酷い仕打ちをカール様が過去にされていたとは……。
婚約者が他の殿方と駆け落ちするなんてそれも3人も!
「ねえ、ウェンディ。私もライナスと同じ意見よ。カールは本当に3人の令嬢から駆け落ちされた時は、相当ショックを受けてたわ。特に3番目のエリーゼ嬢の駆け落ちは最悪だったの。結婚式を挙げる前日に忽然と彼女は消えた。カールはエリーゼ嬢にとても夢中だったから、物凄く落ち込んだわ。──あれ以来何年も令嬢たちとは一線を画したのよ、そんなカールが他人に同じ仕打ちをするとは思えない」
「エリーゼ嬢? カール様はそれほど、その方をお慕いしてましたの?」
私はアメリア姉さまが発したエリーゼという、見知らぬ令嬢にチクリと嫉妬心が湧いた。
「まあな、エリーゼは名家のご令嬢で社交界のマドンナ的な存在だった。外見も性格も誰もが認める淑女だったよ。ただ相手が悪かった。エリーゼは昔から許嫁と仲が良くて、その許嫁の家、侯爵家が失脚した後も、何年もその男が忘れず独身を貫いていたんだ。それがまさかカールと結婚するなんて俺だって当初は信じられなかった……そうしたら結局、男の許へ逃亡したんだ、まあカールはとにかく運が悪かったんだな」
──何てことでしょう。カール様はお可哀そうに。
その愛するエリーゼ嬢に手酷く裏切られた。
ああ、可哀想に……あのお優しいカール様のことだから、相手より自分を責めたかもしれないわ。
「…………」
私は何もいいかえせず口を噤んでしまった。
項垂れてしまった私を見て同情してくれたのか、アメリア姉さまが私を抱きしめて優しく言った。
「ウェンディ。そんなに落ち込まないで、カールもあなたと出会って過去の傷が癒えつつあるのだから時間をかけないと駄目よ。急いては事を仕損じるというでしょう」
「だけどこのままだと、私はレフティ伯爵の妻にされてしまいますわ。きっとお優しいカール様ならば、単に私の護衛だけの立場でもいいといいかねません!」
「俺もそう思うぞ。あいつはカチコチの堅物だからな。身分差で遠慮するはずだ。お前が自分の護衛騎士でいてくれなんていったら、マンスフィールド家の伯爵の爵位を辞して、一生お前の護衛になるやもしれんぞ、ワハハハハ!」
と、可笑しそうに笑い出した。
「そんな、そんなの駄目です、カール様がお可哀そうですわ!」
「大丈夫よ、ウェンディ。ライナスったら! いい加減からかうのやめなさいな!」
「へいへい、奥方殿……」
「ねえウェンデイ、結婚は今秋でしょう。ならまだ時間はあるわよ。私もあなたとカールを応援するから、どうか駆け落ちなど最悪な事だけは考えないでちょうだいな」
アメリア姉さまは真剣な表情で私を諭した。
「分かりました。だけど私はカール様と添い遂げなければ、いっそのこと修道院に入りますわ。その事をお父様にいって結婚は断固拒否します。カール様は私の恩人でもあり、あの方しか私はお慕いできない──だから、どうかお願いです、ライナスお兄様とアメリア姉さまには、最後まで私の味方であって欲しい」
と2人に切々と懇願した。
「まあ、ウェンディったら……」
「はあ? お前は本当にカールに惚れたんだな、あの虎仮面がよほど気に入ったようだな、モノ好きな奴だ……アハハハハ!」
ライナスお兄様たちは私の強情さに呆れはしたが、お2人の目は悪戯っぽく笑っていた。
──そうよ、私はとても真剣ですわ。
絶対にカール様以外の人とは考えられませんもの。




