姫の決意(2)ウェンディSIDE
※ 2025/10/16 挿入及び修正済み
◇ ◇ ◇ ◇
レフティ伯爵とは過去に何度かお会いしてる。
彼の容姿は完璧だった。
長い黒髪と黒曜石のように美しい切れ長の瞳と麗しいお顔立ち。
国内の令嬢からもとても人気がある。
性格も聡明で女遊びもしないし、デラバイト王国の評判は上々だった。
とにかく彼は非の打ち所のない御方だった。
きっとこのまま素直にレフティ様の妻に私がなれば、穏やかな家庭が築けるだろう。
──けれど何故かしら、レフティ様を見つめても、一度たりとも心がときめいた事はない。
そうだ、カール様はレフティ様とはまったく違う。
あの方の傍にいると私は目が合うだけで、心の臓が止まるくらいドキドキしてしまう。
だからこそ何度も現実とは思えない失神をした。
──そう、これは理屈ではない、本能よ。
私は2度とカール様と離れるなんて絶対に嫌なんだわ!
こんなに自分がカール様に惹かれるのは、前世でフウコ様の怨念が、私に宿ってるからなのかしら?
多分、前世の私、すなわちフウコ様にとってカール(カレン)様は全てだったのでしょう。
このトキメク想いは、私と風子様は一心同体なのだと思うわ。
◇
「あ、そうそうウェンディ、もう一つ話があった。ハーバートからの連絡だが、王妃は王都を追放され辺境地の牢獄屋敷へ幽閉されたそうだ、親族たちもそれぞれ刑罰を受けて爵位を剥奪された」
ウェンディ姫に説明したライナス王太子の顔からは、笑顔はなく厳しい顔つきに変わっていた。
「え、それは誠でございますか?」
ウェンディはライナス王太子に振り向いて驚いた。
「ああ、俺の想像以上に国王はお前の暗殺未遂にお怒りだったようだ。──今までも王妃の親族たちは、地方高官達と癒着して賄賂等で相当悪事を重ねてたらしい。そこへきてお前に対する数々の嫌がらせと、異国での殺害未遂が発覚したからな。まあ自業自得だろう」
「そうですか……あ、ではエミリーはどうなりますの?」
「ああエミリー姫か……」
エミリー姫とは王妃の実娘であり、ウェンディの異母妹だ。
ウェンディよりも4つ下で、まだデビュタントに満たない少女といってもいい。
「エミリー姫は王妃の元で暮らしたいと希望してる。よほど母娘は仲が良いんだな。まあ、牢獄と言っても地方の屋敷に幽閉されるだけで拷問とかは一切ない。王妃の身分をはく奪されただけだ。母娘の身の回りは、今まで通りお付の侍女や乳母もいる。庭園の散歩も自由にできるし、日曜教会への参列並びにバザーなどの観光もできる、まあ監視付きだがな」
「ああ左様ですか。それは良かった……」
ウェンディはほっと胸をなでおろした。
「だがな、エミリー姫も少女とはいえ、これまでお前に対して数々の嫌がらせをしてきた。母親が亡くなれば城には戻れずに最果ての修道院に贈られる運命だよ」
「そんな……エミリーは私より年下なのに、修道女だなんて気の毒すぎますわ」
「はあ、そんな可愛げのある妹姫ではなかったろうに。俺もハーバートもあの親子に間者を放っていたが、お前は度々、エミリー姫からも酷い扱いを受けていただろう?」
「でも……あの子は王妃様のいう事を真面目に信じていただけですわ」
「まあな。だが第一王女を貶めた罪は罪だ」
「そうよウェンディ。妹を庇う気持ちはわけるけど……」
アメリア妃もライナス王太子に同調した。
「そうですね、エミリーが最後まで王妃様と暮らしたいと言うなら、それが2人にとって一番良い事なのかもしれないですね……」
ウェンディ姫はすこし寂しげな表情になった。
「ウェンディ、大丈夫?」
アメリア妃は、ウェンディ姫が気落ちしてるのを見て心配そうに見つめた。
ウェンディからしたら、たとえ自分を嫌っていたとしても血を分けた異母妹である。
流石に悲しい気持ちはあるのだろう──。
こういう心遣いはさすがアメリア王太子妃だ。
「アメリア姉さま、大丈夫です。心配には及びません。私はもうデラバイトには戻りませんし、一切気にしない事にしますわ」
「え、母国に戻らないって、それはどういう意味なの?」
「アメリア姉さま、私はこの国に住んでカール伯爵様の妻になりたいのです!」
「あらま?」
「おいウェンディ、お前正気か?」
今度はライナス王太子が驚いた。
「もちろん本気ですわ、ライナスお兄様。冗談でこんな大切なこと言いませんわ」
「だってウェンディ、そうは言ってもデラバイトの国王が、このまますんなりと結婚は許さないだろうよ。いくらカールがお前の命を救ったとしても、あいつの身分はとても低い」
「そんなの、へっちゃらですわよ。いざとなったらカール様と駆け落ちするまでですわ!」
「「駆け落ち!」」
ライナス王太子とアメリ妃は同時に発した!




