カール、王室より伯爵領を賜る
※ 2025/10/14 修正済み
◇ ◇ ◇ ◇
5月の晴れた日に、王宮殿の玉座の間で、僕はスミソナイト国王から、王室領のヘマタイト伯爵の叙勲を受けた。
式には参列者の中に、マンスフィールド家の代表として父と祖父も出席していた。
授与式には白い正装騎士服を身に着けた僕をみて、2人は涙を流して喜んでいた。
王族の列席にはライナス王子やアメリア妃、ウェンディ姫も出席しており伯爵の称号として記念の盾を受け取った後、退席する際にちらりと王族の列を見たらウェンディ姫と目があった。
彼女はもう僕の顔を見ても失神することもなく、バラ色の頬にブルーアイズを煌めかせて、笑顔を浮かべていた。
「どうかあなたは私の護衛に、いえ一生、私を守って欲しい……」
あの特別な日にウェンディ姫が僕に懇願した言葉。
ウェンディ姫の亡き母の霊廟庭園で、姫と抱擁してから数日が経過していた。
未だに僕は彼女を抱きしめた、柔らかな体の感触が思い起こされて少々赤面してしまう。
僕の胸中には今後、考慮しなければならない様々な思いが去来していた。
◇ ◇
王都、マンスフィールド伯爵邸の夕食。
晩餐会には、家族と親戚一同が席を囲んで伯爵を授与された僕を祝う宴が開催されていた。
「それではカールのヘマタイト伯爵を祝して乾杯!」
「乾杯!」
「乾杯!」
「カチーンカチーン!」と、シャンパングラスの音が響く乾杯となった。
「カール伯爵、おめでとう!」
「おめでとうカール。父は、涙が出るくらい嬉しいぞ!」
「カール、本当に立派でしたよ!」
「カール兄さん、僕も鼻が高いよ!」
などなど祖父と父と叔母夫妻、その子息令嬢たち、僕が国王から王室領の1部の伯爵領地を賜ったことで口々にお祝いをしてくれた。
「お祖父様、父上、叔母上、他の皆様わざわざ僕のためにありがとうございます」
僕もにこやかに微笑んでシャンパンを口につけた。
「お前がウェンディ姫の窮地を救ったと、懇談会では他の王都の貴族たちも褒めそやしていたぞ、私も鼻が高かったわい!」
父上はご機嫌だ。
「ワシもじゃ、いつも行く栄誉チェス倶楽部協会の御仁方も、今日はお前の話でチェスどころではなかったぞ、ワハハハ!」
と豪快に笑う。
齢77歳なのにまだまだ元気である。
祖父は半世紀前の近隣諸国との冷戦時代に、数々戦いの功績を残してスミソナイト王国に勝利をもたらしたが、同時に右片足を負傷し名誉の栄誉勲章を得た。
その褒章として息子に生前贈与することが出来た。
本来スミソナイト王国は家長が死亡のみ、長子が家督継承する習わしだが、祖父の時代だけは戦争で同じように死せずして負傷した貴族の家長が多かった。
そのため家督を継いだ多くの者が、障害者では王宮の様々な御公務に支障が生じてしまう。
その為この時代だけ、特例として家督を子に生前贈与する貴族の諸侯が多かった。
よって王政から引退した御仁たちが、暇つぶしといっては語弊はあるが「栄誉倶楽部」と評してチェスやクリケット、射撃など老齢の貴族たちの趣味で、各様々な『倶楽部協会』がこの当時沢山できた。
今でもこの協会組合は、引退した高齢貴族の社交場となり、老齢諸侯たちが我が家の自慢話に日夜矜持し合っていた。
──お祖父様も父上も大喜びで何よりだが、もし僕が今の地位を全て捨てて、一平卒としてウェンディの護衛騎士として他国へ移ります!といったら彼等はどうするだろうか?
まあお祖父様はカンカンに怒って「お前を勘当する、家から出ていけ!」と、怒鳴られて屋敷から追い出されるだろう。
僕はシャンパンを飲みながら苦笑いをした。




