抗えない姫の魅力
※ 2025/10/13 挿入及び修正済み
◇ ◇ ◇ ◇
突然のウェンディ姫の愛の告白で、僕の脳内のお花畑がその周りを小さい花がぐるぐる回って、やかんが沸騰したような赤面で何も考えられなかった。
おまけにタイガーマスクの被りものを付けてると、更に熱がこもって、すっかりと上せていた。
「わあああ姫、どうかお許しくださに。すみませんが失礼します!」
といって僕はウェンディ姫から慌てて離れて池の方へ走りった。
「あら!」
ウェンディ姫も驚いた。
ドキドキ、ドキドキ──。
──駄目だ、このままだと僕の心臓がとてもじゃないが持たない。
あのまま姫に手を握られ続けていたら、自分でも何するかわからなかったぞ!
僕はウェンディ姫に手を握られただけで、男の性を感じてしまった。
「カール様……」
ウェンディ姫が立ち上がった。
「みゃぁ……」
ミケもコンサバトリーの席から離れて、僕の足元に来てブーツの先をペロペロとなめだした。
そのままゴロっと寝そべって喉を鳴らした。
見るからに機嫌がいい。
──さてはこいつめ、さっきからニヤニヤと僕を見て楽しんでやがる。
「みゃぁ~にゃにゃん!」
僕は腹ただしくなって嫌がるミケをしっかりと抱き上げた。
「にゃぁ! にゃぁ~ご!」
ミケは僕に反抗した!
それでも僕は嫌がるミケを押さえつけながら、ミケの胴体を抱き上げる。
「あ、およしになって、ミケが嫌がってるわ!」
ウェンディ姫が僕の側に寄って来た。
「姫、こいつは猫じゃないのです、正体は化け猫なんですよ!」
「化け猫?」
ウェンディ姫が驚いた途端、ミケは思いっきり僕のタイガーマスクのお面をひっかいた。
「ぎゃお~ギャン!!ガリガリ!!」
「あ痛っ!?」
ミケに引っ掻かれてマスクは目の周りに大きな穴が開いてしまった。
「にゃぁ~ん、にゃ~ん!」
ミケは僕からぴょんと跳び離れて、そのままハーブ園の草むらに逃げ込んでしまう。
「うっ!」
ミケがひっかいたせいか僕の目には無数のゴミが入ってしまい、そのままタイガーマスクの被り物を顔から外した。
目の中がヒリついてとてもいた痒い。
──あいつ、ひっかきやがって!
目を擦った後で、ウェンディ姫が僕の面前にいた。
「あらまあ、カール様の右眼が赤くなってしまったわ」
僕の素顔をウェンディ姫のブルーアイズの眼がじっと心配そうに見つめている。
「あ、駄目です姫、あなたが失神してしまいます!」
僕ははっとして顔をそむけようとしたが、
「いいえ、いいえ、私もう大丈夫なのです」
「え?」
ウェンディ姫は微笑した。とても花が咲き乱れた微笑だ。
「カール様、やはりあなたの素顔はとても素敵ですわ。こうして近くで拝見できて私はとっても嬉しい」
「ウェンディ姫、あ、まさか……」
「ええ、申し訳ありません。実は少し前から……きっとあなたに命を助けられてから、失神しなくなりましたの」
「え、そうだったのですか?」
「はい、本当はタイガーマスクにならなくて良かったのです──でも、私が失神しなくなったら、あなたが護衛を止めると言い出したらと……少し怖かった。だから黙っておりましたの」
「ウェンディ姫……」
「カール様を騙してしまってどうか許してください。だけどあなたは私の護衛に、いえ一生、私の側で私を守って欲しいの」
ウェンディ姫はそのまま僕の身体にびったりと抱きついてきた。
「!?」
僕の顎の下に彼女のかぐわかしい髪の香り、まるでツル薔薇の香りに良く似た芳香が薫った。
「カール様お願い、どうか私を強く抱きしめてください!」
「ウェンディ姫……」
「お願い……」
僕はこんな抱きしめられて、これではとてもではないが、ウェンディ姫の魅力に抗えないと悟った。
──もう駄目だ。こうなったら降参するしかない!
僕は観念してウェンディ姫の華奢な身体を強く抱きしめ返した。
「僕も……僕もあなたがとても好きです」
「おお、カール様……」
春の明るい日差しの中、2人の影は1つになった。
そのままタイガーマスクの被り物は、僕の手からするりと地面に落ちていった。




