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なんども駆け落ちされた伯爵子息カールの行く末は……  作者: 星野 満


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32/81

亡き母の霊廟庭園内で(1)

※ 2025/10/13 タイトル変更、本文修正済

◇ ◇ ◇ ◇



王宮殿から少し離れた庭園内に入ると、目立たない細い新緑の並木道があった。

この辺りは、欝蒼(うっそう)としていて道も赤土で凸凹しており、庭師も余り手入れをしていないようだった。


季節は春真っ盛りで新緑の眩しい並木路で美しい。

所々に桜の木々が植えられていて歩いていると、桜の花びらが吹雪のように青い空を舞い散って見えた。


その花びらが風に吹かれて地面にたくさん敷き詰められていて、薄紅花の絨毯のように見事だった。

僕はそのまま細い道を歩いていった。


「にゃぁ……にゃぁ……」


「!?」


微かに猫の鳴き声が聞こえた。




──間違いない。あれはミケの鳴き声だ!


きっと、ウェンディ姫も近くに入るに違いない。


僕は直ぐにタイガーマスクを被って、ミケの鳴き声がする方向へ走った。


並木路の行き止まりには、胸の高さくらいの黒門があり、両扉を開けて中へ入ってみると、そこは美しい花々が咲き乱れた花壇と大きな女神像の彫像があった。


さらに進んでいくと、庭の真ん中に小さな池があった。

池には木蓮の形をした石膏の噴水が静かに流れていた。


池の周辺はハーブガーデンになっており、ハーブの香りと可愛い花が色とりどり咲いていた。


蝶々やみつ蜂が集中して飛んでいる花壇を見つけた。

近くに行くと甘くかぐわかしい薔薇の香りがする。

見るとピンクや白や黄色の見事なツル薔薇が咲き乱れたアーチ状の花壇であった。


そして僕はツル薔薇のアーチを潜った奥にある、白い建物内にいたウェンディ姫を見つけた。


その建物は白亜のバロック朝で、こじんまりとしたものだった。

開け放たれたコンサバトリーには、若草色のワンピース姿のウェンディ姫が座っていた。


彼女の膝にはミケが気持ちよさそうに抱かれているではないか。


「ウェンディ姫!」


「あ、カール様!」


「にゃあ…………」


ウェンディ姫とミケが僕の姿を見て驚く!


「随分、お探しいたしましたよ。お一人で庭園の中へ行かれて、マリー様たちがとても心配しておりました」


僕は少し息せきって話しながら、ウェンディ姫の座っている傍まで近づいていった。


「ごめんなさい。ミケが部屋から飛び出したので後を追いかけたら、亡き母の霊廟(れいびょう)がある庭園に連れてきてくれたのです」


「え、つまりこの建物がアクアリネ様の霊廟なのですか?」


「ええ、私も最近知りましたの。ほら見て下さい。そこに彫像が立っているでしょう」


ウェンディ姫が指さした建物の中には、石碑の両脇に少女の彫像と乙女の彫像が立っていた。


彫像を間近で見るとウェンディ姫に顔の輪郭、目や口元がよく似ていた。


「本当だ、この彫像はアクアリネ様……」


「ええ、母ですわ。幼い少女の頃と今の私くらいの年齢でしょうか」


「…………」


「母は18歳でデラバイト王太子だった父と結婚して、母国を離れたのですわ、そして兄と私を生んだ後、重い病いで亡くなったのです──なので私は母の記憶はほとんどありません」


ウェンディ姫は少し淋しそうに寝ているミケの頭を撫でた。


「そうでしたか。ではこの場所はアクアリネ様の霊廟で、母国でも前国王が造らせたのですね」


「多分そうだと思います。祖父(前国王)も叔父様(国王)も、とても母を愛していましたから──でもなんでしょうか。こんな奥まった場所に造ったのは、やはり人目に付きたくなかったのやもしれませんね。庭師もたまにしか管理してないみたいだし、とても錆びれた庭園ですわ……」


「確かにそういわれて見るとそうですね。僕もアクアリネ様の霊廟が、王宮内にあるなんて初めて知りました」


「ふふ、実は母は叔父と祖父(前国王)の反対を押し切って、デラバイト王国に嫁いだんです」


「え、そうなのですか?」


「ええ、特に祖父は、当時王太子だった父の事が気に入らず母の結婚には大反対だったとか……半ば駆け落ち同然だったらしく、母はデラバイトに嫁いだそうですわ。その辺りも密かに霊廟を作った理由かもしれません」


ウェンディのブルーアイズが可笑しそうに微笑んだ。



──おっと、ここでも()()()()かよ!


僕は“駆け落ち”という言葉にどうしても敏感に反応してしまう。


まだ過去、駆け落ちされた3人の令嬢たちのトラウマがシコリとなって傷を負っていたからだ。




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