消えたウェンディ
※ 2025/10/11 挿入話修正済み
◇ ◇ ◇ ◇
──なんだか色々と疲れたな。
確かに姫の護衛を一生していたい、という希望は頭にずっとあった。
あの美しいウェンディ姫のお姿を遠目からでも、このマスクのまま永遠脱がなくてもいいとさえ思っていた。
かといって、母国を離れて異国の、それも新婚夫婦の屋敷で姫と見知らぬ男のいちゃつく姿を見たいとも思わない。
だが、このまま姫と会えなくなるのは淋しい──。
僕はすぐには決心がつかなかった。
この件は、殿下の言う通り、もう少し熟慮してから決めようと先延ばしにした。
◇ ◇
「あ、いらしたわ。カール様、カール様!」
「大変です、カール様!」
突然姫の部屋の方向から、ウェンディ姫の乳母のマリーと専属メイドのアンナが、息を切らしながら小走りに近づいてきた。
「2人ともどうしました、そんなに慌てて?」
「それが……ハアハア……ぜぇぜぇ……」
乳母のマリーが息を切らしてとても苦しそうだ。
若いメイドのアンナが、中年太りのマリーの丸い背中をゆっくりと擦っている。
「マリー様、大丈夫ですか? カール様に姫様の事、私がいいますね」
「ああ……お願いアンナ……」
マリーは言った。
「はい、あの……カール様、大変なんです。半刻ほど前にウェンディ様のペットのミケ猫が突然、窓から飛び出しまして、ウェンディ様がベランダからミケ猫を探しに、王宮殿の庭園の方へ行ってそれっきり戻ってこないのです」
「何、ではウェンディ姫はそれから部屋に戻ってないのか?」
「はい、私たちも姫様の後を追いかけていったのですが、途中で見失って……その後あちこち探しましたが見当たらず──もしかしたら部屋に戻っているかと思い、部屋にもいったのですがまだで……それでネロ様とマルコ様にもお願いして只今、探して頂いています……」
と話しながらアンナのブラウンの瞳は、汗と涙で滲んでいた。
「わかった、王宮の庭園内ならさほど心配はあるまい。私もいまから探そう。マリー様とアンナ嬢はとりあえず部屋に戻っていてくれ。──なあに安心したまえ、直ぐにウェンディ様を見つけてくるとも」
僕はアンナ嬢とマリー様を安心させるべく優しく微笑んだ。
「カール様、ありがとうございます。どうか……お嬢様をよろしくお願い致します」
と、乳母のマリーが苦しそうにいった。
「ああ心配召されるな、マリー様、大丈夫だ、直ぐに見つかるからね」
「どうか姫様がご無事でいますように……」
マリーの額からは玉のような汗が吹き出ていた
──かわいそうに、2人共汗だくじゃないか!
僕は2人を見て気の毒になった。
姫を見失った後、さぞや心配であちこち探し回ったのだろう。家令たちは主人に何かあればお咎めを喰らう。ましてやウェンディ姫には、暗殺者の手がいつ現れるとも分からない時だ。
ただ、僕は姫がミケ猫を探しにいったと聞いて、別の考えがよぎっていた。
──それにしても化け猫の奴、あいかわらず姫様を振り回しやがって。
僕はミケ猫が何かウェンディ姫に何か困らせようとしていると思いって、ミケが恨めしくなった。




