カールの昇進ともう一つの報告
※ 2025/10/10 挿入修正済み。
◇ ◇ ◇ ◇
僕はウェンディ姫のデラバイト王国の立場を、ライナス殿下から聞いて、現王妃へ不憫さも感じた。
現国王がもう少し王妃とウェンディの異母妹にも配慮していれば、こんな暗殺未遂など起こらなかっただろう。
国王とはいえ、実の夫が前妻の娘ばかり溺愛すれば恨みたくもなる。
──だが、それはそれ、これはこれだ。
このまま王妃の謀を放置すれば、また姫が暗殺される可能性もある。
実際、黒装束の男たち数名は取り逃してしまった。
お伽噺話ですら嫉妬で逆上する継母の魔女は、白雪姫に毒りんごを食べさせたではないか!
あの満月の夜攻防を僕は思い出していた──。
我ながら決死の行動でジャンプして良かった。
間一髪、ウェンディ姫をキャッチできたが、もしあの時、間に合わなかったらと思うだけで、今だって身の毛がよだつのだ。
ウェンディ姫が城の屋根から落ちて、あの高さで地上に叩きつけられたら多分即死だったろう。
姫が頭を打って血だらけで亡くなっていたらと思うと、僕の胸は張り裂けんだにちがいない。
「…………」
どうやらウェンディ姫の護衛を引き受けてからまだ3週間だが、いつの間にやら僕は姫を思慕してしまったようだ。
──おい、カール、お前って馬鹿だな〜。
相手は姫君だぞ、護衛としてならまだしも結婚なんて逆立ちしたって無理だろうに。
心の中の僕が哀れむように囁きだした。
──ふん、ほっとけ、心の中で思うだけなら勝手だろうが!!
今のように護衛するだけでいいんだ。
僕は今回の騒動で彼女の思慕を自覚したが、この思いは誰にも打ち明けまいと心に決めた。
◇ ◇
「カール、それで父王からの王命だが、ウェンディはまだ当分この国で預かるから、引き続き彼女の護衛は頼むぞ!」
「あ、はい、承知致しました!」
ライナス王太子に不意を突かれて僕は頬が赤くなった。
「それからこの度の働きは見事だった。よくぞウェンディの救出に尽力してくれた。お前の働きを王様にお伝えしたところ大変感謝していたぞ!」
ライナス王子は執務室の椅子から立ち上がり僕の肩を叩いた。
「いえ滅相もないです。私の部下のネロとマルコのお手柄です。2人が黒装束の男を屋根づたいに追いかけてくれました。おかげでウェンディ姫を救出できたのです──あいつらがいなかったらどうなっていたか……今回は彼らの手柄でもあります」
「うむ、確かに良い部下を持ったな。あの軽業師のような身のこなしは見事であった。王宮騎士団だけではウェンディを救出できなかったやもしれん──さすが元サーカス団だけの事はある。安心しろ、2人にもたっぷりと褒美をとらせる。そしてお前も直々、王様から王族騎士団への昇進と、新たな爵位が授与されるだろう」
「え、私に爵位ですか──?」
「ああ、なにせ大切な国王の姪を助けた功労者だからな。王室から少しだが領地が与えられる予定だ、位も一応伯爵になる」
「ええ伯爵ですか? ですが殿下、私は将来父のマンスフィールド伯爵家を継ぐ身ですが……」
「アホ、単に領地を複数持てる身分になったという事だよ! 未来はマンスフィールド家の爵位を与えられる事には変わらん」
「! 私が複数の領地持ちにですか?」
「ああ、来週の王室懇談会の席上で父王より授かるだろう、その若さでたいしたもんだぞ。良かったな」
ライナス王太子はニヤニヤと笑った。
──ええっ僕がこの若さで伯爵とは信じられない!
突然の昇進はともかく、国王から伯爵領地を与えられるとは夢にも思ってなかった。
だがその時、僕は微かに厭らしい期待もした。
──ならばこの若さで伯爵になればウェンディ姫と結婚できるやもしれん。
いやいや、落ち着けカール、不可能だろう、
だが、今までの子爵よりは1%だが可能性は出てきたぞ。
などと自分に都合の良い妄想をして、僕はついつい顔が緩みっぱなしになっていく。
だがその妄想は次のライナス王太子の一言で、木端微塵に打ちのめされた。
「それからもう1つ報告がある。お前にはショックなことかもしれんが……」
「ショックな事?」
不意をつかれて思わず僕は聞き返してしまった。
僕を見つめるライナス殿下のブルーアイズの瞳が哀し気に言った。
「ウェンディにも嫁ぎ先が決まったよ」
「!?」
そう、僕はあっけなく天国から地獄へと突き落とされた──。




