ウエンディ姫のおかしな行動
※ 2025/10/06 挿入話&修正済
◇ ◇ ◇ ◇
「カール、おーい、カール!」
「は?」
「カール、俺がさっきから何度も呼んでいるのに聞こえていないのか?」
ライナス殿下は眉間を寄せて呆れたように白目で僕を睨んでいた。
「あ、はい、申し訳ありません殿下!!」
僕は慌てて直立して姿勢を正した。
どうやらウェンディ姫を間近で見た僕は、無意識に彼女の顔を見つめて、頬が緩みっぱなしだったようだ。
ライナス殿下は呆れていたが、ウェンディ姫に顔を向けて諭すように言った。
「まあいい、ウェンディ、さっきから俺たちは堂々巡りをしている。いいかげん諦めろ、このままでは公務に支障がきて王室自体が困るんだ、お前も王女ならわかるだろう」
「お兄様大丈夫です、私もここへ来る途中色々と考えましたの。見てください、これを!」
ウェンデイ姫は、いつの間にやら手に握り締めていた黒い就寝用のアイマスクを顔につけた。
「なんと!?」
ライナス殿下が呆気にとられる。
僕も面食らった。
「ほらこれならば、カール子爵様のお顔が視えませんから失神しませんわ」
黒色のアイマスクをつけたウェンディは、初めて僕の方向を向いて、口角を大きくあげて微笑んだ。
──うわあ、まじかよ?
姫君様、何かすご〜く、すご~く変なんですけど!
「駄目だ、それではお前は何も視えないではないか!」
「あらお兄様。彼が護衛の時はマリーか、他のメイドと私が腕組みして歩けば全然大丈夫ですわ」
「それでは意味がない。第一、王女がそんな姿では貴族から笑いものになるではないか!」
ライナス殿下は最初は呆れかえっていたが、徐々に不機嫌になっていった。
「ウェンディいいかげんにしろ! 何故一介の臣下にお前がそこまでする?──俺は王族の一員として許さんぞ、却下だ!」
「いいえ、お兄様お願い致します。どうか護衛はカール様のままで、変えないでいて欲しいの!」
「はあ……ウェンディ、そこまでカールにこだわるのは可笑しい。もしかして先ほど、俺とカールの話を立ち聞きしたのか?」
「え!?」
ウェンディ姫は図星を云われたのか体を硬直させた。
──あ、さっきの話を聞いていたのか?
僕も同時に体を硬直させた。
「ええ、まさにその通りですわ。先ほど申し訳なかったけど、私、扉の前でお兄様とカール様のお話が聞こえてきましたの!」
ウェンディ姫はアイマスクを勢いよくはぎ取った。
「やはりな──」
ライナス殿下はにやりと口元を歪めた。
ウェンディ姫は怯まない。
「正直、驚きましたわ。だって残念ながら私には前世のフウコ様の記憶がまったく御座いません」
──え、そうなの?
「でも記憶はなくても私はカール様がこのまま私の護衛を続けて欲しい、と強く願います。なぜならカール様が傍にいてくれると、とっても私は落ち着いて安心できますの。それに……」
「それに──?」
ライナス殿下が問うた。
「それに……カール様が傍にいないと、飼っている私の愛猫のミケが“にやぁ〜にやぁ〜”と耳元で哀しく鳴くんですもの」
恥ずかしそうにウェンディは呟いた。
──え、ミケの為? 僕は、瞑想の時のミケ猫を思い出した。
あの化け猫、ウェンディ姫に相当可愛がられているんだな。
僕はちょっとミケが羨ましくなった。
──あ、そうだ、いいことを思いついた!
突然、僕の頭にアイデアが浮かんだ。
ライナス殿下は意を介さない。
「駄目だ、ネコが鳴くからなど理由にならん、……とにかくアイマスクは却下! この話はこれで終いだな!」
「お兄様!」
ウェンディ姫は、今にも泣きそうに唇が歪んでいる。
「あのぉ〜、差し出がましいようですが、少々よろしいでしょうか?」
僕は片手を挙げておずおずとライナス殿下に尋ねた。
「なんだ、カール。何かいい案でもあるのか?」
「はい、私もウェンディ姫様の提案を聞いて閃きました」
と僕は、僕の声を聴いてとっさに後ろを向いたウェンディ姫とライナス殿下に微笑した。




