ウェンディ姫ご登場!
※ 2025/10/5 修正済み
◇ ◇ ◇ ◇
僕の邪気の正体は、前世の墓石の置物のミケ猫が生きた猫に変身した『化け猫』だと分かった。
正教会で施した不思議な瞑想治療で、とりあえず原因はわかった。
その後、僕の怠くて重かった体調は、すっきりと回復して治療効果のおかげで良好だった。
お陰様で再びライナス殿下の警護と公務に同席できるようになった。
「おはようございます。ライナス殿下、カールでございます」
何週間か経過したある日、僕はライナス殿下の執務室に入室した。
ライナス殿下は、自身の王太子の居間を執務室に充てていた。
ライナス殿下の「入れ!」の合図で、僕はドアを開けてその場に立った。
「失礼致します!」
いつものように、ドアを閉めて部屋の奥にある執務室用の机に座っている殿下に敬礼した。
今日の執務室の警護は僕1人だった。
扉のすぐ横に立ち警護をする。
僕の仕事は、執務室に入室する者を全てチェックする役割だ。
「おはようカール、良い朝だな。今日は君に紹介したい人がいる。こっちへ来い!」
「は、畏まりました!」
僕はスタスタと殿下の傍まで近づいていく。
──ん?
最初、僕は執務室にはライナス殿下1人と思っていたが、殿下の側までくると右奥の窓際に後姿の令嬢がいることに気が付いた。
──若い令嬢とは珍しいな?
普段ライナス殿下は女性を執務室には入れない。
愛妻家の殿下が王太子妃のアメリア様すら、日中の執務室には入らせないのに。
僕はチラリと横目で令嬢を見た。
令嬢は眩しい朝日の開け放たれた窓辺から、王宮の庭の景色を静かに眺めていた──。
「ウェンディ、こっちに来てくれ!」
「はい、ライナスお兄様……」
令嬢は殿下に呼ばれて、こちら側にくるりと身体ごと振り向いた──
──あっ!
僕の心臓が一瞬止まった──。
豊かなハーフアップの金髪、両端に白藍色のリボン飾り。
長い睫毛に縁どられた、碧い瞳の美しい令嬢が真っ直ぐにこちらに向かって来る。
しかし──僕の心臓が瞬間止まったのは、美しい令嬢ではなくて、その令嬢の七部袖から伸びた華奢な両手に抱きかかえている猫だった!!
──ミケじゃないか!
ミケ猫は「にゃ~ご にゃ~ご」と令嬢の胸の中で気持ちよさそうに鳴いている。
あのライ老人が施した瞑想の中で出逢ったミケとそっくりだった!
「お前……ミケだろう、何故ここにいるんだ!?」
僕は思わず叫んだ!
「にゃ〜ん、にゃ〜ん」
三毛猫はジト目で僕を嘲るかのように鳴いた。
「おい、ミケ、人間の言葉で話せよ!」
僕は無視された気がしてさらに語尾を強めた。
この時の僕は、驚愕と怒りで殿下の護衛としての立場を、頭からすっぽりと抜け落ちていた。
「おいカール、お前……」
そんな僕をみてポカ~ンと呆けたライナス殿下と、三毛猫を抱えたご令嬢。
「にゃぁ~にゃぁ〜ご」
2人を余所に嬉しそうにミケは鳴く。
令嬢は目を丸くしていった。
「あなたは私のペットの“ミケ”をご存じですの?」
──ミケ、同じ名だ。
やっぱりこいつだ、この化け猫野郎、良くもおめおめとこんな所に現れやがって!
「知ってるもなにも、こいつは……」
「こいつ?──お前ミケを知っているのか?」
ライナス王太子が横から口を挟んできた。
「はい殿下、こいつは……あ?」
──あれ?
僕は我に返ってミケと令嬢とライナス王太子、隣の令嬢とミケ、またミケと令嬢と、
とびっきり大きく目を見開いて交互に見比べた!
令嬢を近くで良く見ると、その容にはライナス殿下に似た端正な目鼻立ちと、つんと尖った顎の輪郭。桃色の唇は上品に微笑みながらも、少しだけ白い前歯を見せていて愛らしかった。
リボンと同じ白藍色の清楚なドレス姿は華奢な令嬢によく似合っている。
あ、あれ〜もしかしてこの御令嬢は──!
僕の脳裏には瞑想の後のライ老人の言葉が蘇った。
──運命の女性!
つまり、前世の風子譲なのかああぁ──?
改めて僕は令嬢をまじまじと凝視した!
いやいやいや、どこからどう見ても美少女だ!
僕がイメージしていた暗い夜道を歩く墓参り令嬢の風子、鼻の曲がっている魔女と似ても似つかない!
──ええ、この美少女が前世の風子嬢?
とても信じられん……
◇
「おい、カールさっきからどうした?」
ライナス殿下と令嬢は、僕の不自然な態度に怪訝そうな面持ちであった。
「あわわわ〜殿下、大変失礼致しました!」
僕は、とっさに平謝りをして深々と頭を下げた。
大いなる失態である──!
ライナス殿下の同席者に対して先に言葉を発するのは、護衛としてあるまじき行為だ!
──はぁ、僕はなんてアホだ。ライナス殿下の前で!
深々と敬礼したままで、みるみる内に頭に血が上っていくのが自分でも分かった。
──だが、ほんとに彼女は風子嬢なのか?
前世のイメージとまるで違うぞ!
一体全体、どうなってるんだ?
そうだ金髪&ブルーアイズだから、多分王族関係の親戚筋に違いない……
そういえばライナス殿下には、年の離れた隣国に暮らしておられる従妹の姫君がいらっしゃったな。
もしかして──?
「もういい。カール、顔を上げろ」
「は!」
「カールお前、ウェンディの猫を知っていたのか?」
「あ、いえ……そのぉ……」
僕は何を説明していいやら途方に暮れた。
「? まあいい、彼女はウェンディ・デ・デラバイト、俺の可愛い従妹だ」
──やっぱり。
ウェンディ・デ・デラバイト姫君。
なんだか舌がもつれそうな名前だった。
隣国デラバイト王国の第一王女で、ライナス殿下の従妹でもあるウェンディ姫。
「ウェンディ、この者はカーラル・マンスフィールド子爵。俺の友人で兼従者も兼ねている。愛称はカールだ、今後はここにいる間、君の護衛をしてもらう」
「初めまして、カール様。私はウェンディ…………」
と言うや否や、令嬢は僕と目が合った途端に、突如、パタリと倒れてしまう!
「えっ!?」
「お、おい、ウェンディどうした!」
ライナス王太子もびっくりして、ウェンディ譲を抱きかかえる。
「にゃにゃ~ん!にゃあ〜ん!」
令嬢に抱かれていたミケ猫も、令嬢が倒れて床にぴょんと投げ出された。
──ええ? 何故ウェンディ嬢は、僕をみて失神したの?
僕は何がなにやらわからず、余りにも突然の出来事で、身体が固まって動けなかった。
そう、これが僕とウェンディ(風子)嬢と今世初めての出会い(邂逅)だった。
※ ようやくヒロインのご登場です。Σ(´∀`;)




