推しの子とは崇拝者!
2025/11/11 追加挿入修正済み
◇ ◇ ◇ ◇
「ミケ、ありがとう。なんとなく僕も理解したよ。『推しの子』は僕を崇拝している令嬢の呼び名。崇拝している男が死んだ、それが前世の僕なんだね」
(はい、左様ですにゃん!)
ミケは僕が理解してくれて、とても嬉しそうに顔をくにっと曲げた。
「でも死んでまで慕われていたのは、誠にありがたいが、それにしてもフウコ嬢はなぜ僕の崇拝者になったの?──もしかして同じ学園の生徒だったから?」
( うんにゃ、直接の知り合いではないですにゃ~。カレン様は、歌って踊れるアイドルグループ「モーニング3」の内の1人だったんにゃん!)
「モーニング3の1人?」
( はいにゃん、彼等は『芸能人』といって。う~ん、そうですにゃ~? スミソナイト王国でいうと、王立劇場の舞台劇でオペラを歌う人達のようなもんです。それをここでは“アイドル”と呼ぶのですにゃん )
「アイドル?」
( はいアイドルですにゃん、令嬢たちはアイドルを見る為にはチケットを買って応援する。アイドルは偶像崇拝です。若いご令嬢たちから崇拝されるのですにゃん!)
「なるほどなかなか面白い。「モーニング3」て名前も変ってるな。彼等は朝早くから3人でダンスをして歌うのか? だが彼らと踊るパートナーも含めたら3人でなく6人が正しい気もするが?」
( にゃんにゃん、全然違いますって!)
ミケは呆れたのか、尻尾を左右にびたんびたんと素早く振った。
「いいですか、あなた様たちのカップルで踊る優雅なダンスとは違うんですにゃんよ。異世界には色んなダンスがあるんですにゃ~。彼等は1人1人で別に踊って歌う。そして時には3人が合わせて同時に踊るんです。うんにゃん、言葉で説明するのってむずかしいにゃ~。テレビがあれば一目でわかるのに!)
ミケは苦しげに言った。
──う、テレビって何?
と僕はミケに聞き返したかったが、これ以上質問すると、ミケがブチ切れて本物の化け猫になりそうで怖かった。
それにミケは見た目はとっても愛らしい普通の猫だ。
猫好きの僕はミケのご機嫌をここで損ねたくなかった。
だからもうこれ以上の質問は止めておこうと決めた。
「──すまないミケ。君が一生懸命教えてくれるのに僕がよく分からなくて……」
そう僕が正直に言った途端、ミケの耳がピンと立って、大きなネコ目を輝かせた。
( いえいえ、あちきが悪うござんしたにゃ。カール様が理解できなくて当然っすにゃん!)
──お、機嫌がなおったみたいだ。良かった~!
僕はホッと安堵した。
(『モーニング3』ていうのはグループの名ですにゃん。アイドルはいってみれば『ピアニスト』や『オペラの声楽家』みたいな職業と覚えればいいですにゃ~!)
「なるほど……」
( 何より覚えておいて欲しいのは、風子様はグループ3人のうちのカレン様。つまりあなた様だけを崇拝してたのにゃんす! ちなみに他の2人の方が圧倒的に人気があったんですが、カレン様だけをお慕いしてたにゃん。変わったお方ですにゃー!」
「ふうん、それはそれはフウコ嬢は僕にとっては貴重な崇拝者だったのか。──だがなぜ『モーニング』など朝食の名をつける? 紛らわしい職業名だな」
こういった途端、ミケの表情が曇ったように見えた。
──あ、不味い! またしてもうっかり質問してしまった!
僕はしまったと思った。だがミケは僕の質問に、怒らず同調してくれた。
(はいにゃん、確かにカール様の言う通りですにゃ~。説明するとアイドルは他にも沢山いるので、崇拝する令嬢たちに、一番自分たちの名を憶えてもらう為に、インパクトのある名前が必要なんすよ。ほら学園の運動祭で「ダイヤ組」「ルビー組」「パール組」って宝石名で組分けするようなもんですにゃん!)
「なるほど! それなら僕にも分かる」
( にゃんにゃん、ご理解くだすってようござんした。分かってくれてありがたいにゃん!)
ミケは僕がようやく理解したのが嬉しかったのか、満足そうにゴロゴロと喉を鳴らした。
こうして僕とミケの説明問答は続いていった。




