表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なんども駆け落ちされた伯爵子息カールの行く末は……  作者: 星野 満


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/81

邪気払いと不思議なミケ猫(2)

※ 2025/10/3 分割修正済み

◇ ◇ ◇ ◇



白い霧が立ち込める中、徐々に見えてきたのは、風変わりな灰色の墓石が狭苦しく隣接してある墓地だった。


そこに僕は佇んでいた。


今まで見た事のない墓地で、墓石と墓石の間に人間が1人か2人歩ける程度の細道だ。

僕はその墓地の細道を歩いていた。


良く見ると1つ1つの墓石の両脇に花瓶が付いていて、それぞれ菊や百合やガーベラなど綺麗に供養花が|生けてあった。



──へえ面白い、墓上に花束を置くのではなく、墓についてる花瓶に供養の花を飾るのか。


まるで墓が自分の部屋と同じに、花瓶に花を生けるという発想が面白い。


時々花壇になっている墓はあるが花瓶付の墓は珍しい。


ふと顔をあげると薄曇りのどんよりとした上空が見えた。

どこからともなく、(からす)が「カー・カー」と大きな鳴声がする。




──墓地の烏は嫌いだ。不吉な感じがする。


それにしてもここはどこだ?


僕はなんでここにいる、なぜ墓の中を歩いている?


僕は振り向いて見慣れない墓地を見回した。



ここはどうも()()()()()()の墓地らしいが……


スミソナイト王国の、だだっ広い白い石碑の明るい墓とはまるで違う。


昼間だというのに、ここはやたらと温かく湿った空気で、なんてジメジメしてるんだろう。



──あまり気持ちの良い場所ではないな。


僕は自分の体に(こけ)が生えそうな、ぬめりとした息苦しさを感じた。



それにしても一体どこの国だよ。こんな湿気めいた場所、絶対にジュエリ大国ではないな。


だがこれまた不思議なのだが、僕はこの場所がどこか見覚えがある気もしていた。



多分、以前東の大陸と貿易通商していた父の友人が、東国の水彩画を一度だけ見せてもらった事があった。その墓地とよく似ていた。


「東洋人が書いた絵だ。(すみ)だけで描く水墨画(すいぼくが)というんだよ」

「墨だけで描いたスイボクガ?」


僕は初めて水墨画という手法の絵を見て、何やら不思議なシンパシーを感じた。


色は黒と白だけのシンプルな絵だったが、その絵の寺院が描いてある風景が、ここの景色と類似していた。


僕の足は、その中を平気でずんずんと、恐れもぜず奥へ奥へと歩いていく。


行き止まりに当たった。


「う、なんだこの墓は?」


驚いたのは、一番奥にある墓石には、陶磁器の猫の置き物が何十個、いや何百個と所狭しにズラリと飾ってあった。


グロテスクな猫の顔もあれば、可愛らしい猫の置物もあって見てると面白い。


「面白いな。……猫のおき物ばかり飾って……もしかして猫の墓なのか?」


その墓を良く見ると、東洋人の“漢の字”なるもので黒文字が墓石に彫られてあった。


漢字という字が東洋人の文字だとは知ってはいるが、とても読めない。でも……



それにしても凄いな、()()()()()

良く見ると全ての猫がミケ猫の置物ばかりだった。


小さな置物は小指より小さい物から、手の平の中にすっぽり入る物もあった。



──もしかしたら、猫好きだった人間が死んだ後に

『お墓にミケ猫の置物を側に置いておいてくれ』と遺言したのかもしれない。


僕はお墓に飾ってあるミケ猫の一番大きな置き物を1つ手に取ってみた。

片方だけ前足で人を招いているようなしぐさの猫で、一筆で描いたように、笑っている顔がなんともユニークだった。


「ふ、とっても愛嬌があって可愛いじゃないか……」と独り言を呟いた。


実をいうと、僕も猫が大好きだった。

犬もいいが犬と猫が一緒にいたら猫に目がいくくらい好きだった。


あの「にゃーにゃー」と鳴く猫撫で声(ねこなでごえ)と、ゴロゴロと喉を鳴らすしぐさ。

ちょっとわがままな女王様みたいにスン!と気取った態度。

しなやかな体をスリスリする前足の愛らしさ。


とくにミケ猫は大のお気に入りだ。


白と黄色(茶)と黒の3種類の模様がとても珍しくて可愛い。

ミケ猫が「にゃーにゃー」とか弱く鳴く、メス猫の声が愛らしくてたまらない。


だが、哀しいかな──僕は子供の頃から猫を抱くと蕁麻疹(じんましん)が体にでる。

更に猫が近寄ってくるだけで何度も“くしゃみ”をしてしまう。


だから、亡くなった母からも「カールは猫を飼ってはいけませんよ」と注意された。

仕方なく、僕は遠くから猫を愛でるくらいしか楽しめなかった。


ミケ猫の置物の中にいると、なんだか猫の世界に居る錯覚を覚えてくる。



──不思議なんだが、このジメッとした場所がとても懐かしい気がするんだよな。


どうしてだろう?


僕は、徐々にこの墓に来たことがあるような錯覚がしたんだ。



変だ、一体なぜだろう?



「なんだかここにいると、身体が軽い感覚、そう宙に浮いてるような浮遊感がある……」

と、思わず僕は呟いた。


(ふんにゃ~、それはさ~()()()()()()だからでしょ!)


「え?」


僕はきょろきょろと周りを見回した。



──何だ、今、()()()が聞こえたぞ。錯覚か?


( 何きょろきょろしてるのよ、()()()は此処にいるわよ!)


「へっ……どこ?」


(此処よ。あなたの手・の・中・にゃん!)


「え、僕の手の中だって?」


僕は、自分が手にした置き物のミケ猫を、じいっと改めて観察した。


よくよく見るとピンクのリボンを首に付けた、()()()()()が、僕に話しかけている!


「うゎああああああ、なんだこれは!!」


驚いた僕は慌てふためいて、思わず置物の猫を空に放り投げた。


その拍子で、バランスを崩して僕もドタンと!と尻もちをついてしまった。


「痛てぇ……」


置き物猫はコロコロと地面に転がったがなぜか割れなかった。


その瞬間だった──。


地面に落ちた置物猫は「ポン!」と音がした途端、本物の愛らしいミケ猫に変身した!


(あはは、あなた、バッカじゃないにゃ~ん!)


「!?」


それは世にも奇妙な変身した猫を見て、僕の目玉はぎょぎょっとするくらい大きく飛び出した!



──なんだ、こりゃ~!


なぜ置き物猫が本物の猫に変身するんだ?


僕は不思議な夢でも見てるの、それとも──?




これが僕とミケ猫との初めての出会いだった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ