単純な結果には、多くの答えが詰まっている
本当にありがたいことに、日間ランキング2位になりました。今後とも頑張って行きます。
「帰って来ていたのね。心配したわ」
目の前にいる麗華は、いつもの麗華だ。
だが、どうしても翔太は、麗華と目を合わせることができなかった。目を合わせた時に、見えた麗華の瞳にもし自分が写っていなかったらと思うと、怖くて麗華と顔を合わせられなかった。
「翔太君が帰ってくるまでに買い物をしておこうと思ったのだけど、丁度良かったわね」
「そ、そうだな……」
「どうしたのかしら?どこか体調でも悪いの?」
不自然に顔を伏せて受け答えもハッキリとしない翔太の異変に感じた麗華が、翔太に近づいて行った。
「わ、悪い。ちょっと体調が悪いんだ……。今日は、一人にしてもらえないか?」
「え、ええ……。わかったわ……」
それだけ言うと、翔太は買い物に行くのをやめて部屋に戻って、すぐに鍵をかけた。
「……ほんとダメだな。俺」
初対面の相手から言われた一言のせいで、好きな相手と会話すらまともに出来なくなってしまう。そんな自分が翔太は許せなかった。
「考えることが多すぎる……」
着ていた制服とズボンを脱ぐと、着替えもせずにベットに寝転んだ。考えることから逃げるように、翔太は眠りに落ちた。
「どんだけ寝たんだ……」
しばらくして翔太が目覚めると、寝る前には窓のカーテンの隙間から差していた光は無く、光を失った部屋は真っ暗になっていた。
「スマホ……スマホ……」
脱ぎ捨ててあったズボンからスマホを出して時間を確認すると、夜中の三時だった。
そしてもう一つ、翔太の目に留まるものがあった。
麗華からの連絡だ。翔太が部屋に戻った後にも何件か送っていたようで、十二時を最後に連絡はないが、履歴は凄いことになっていた。
『悪い。寝てた』
今の翔太には、これだけ打つのが精一杯だった。
「ゲームでもするか」
翔太は部屋の電気をつけると、椅子に座ってPCの電源を付けた。
考え事をするとき、翔太はゲームの世界に行く。ワイXの中に行けば、イケメンキャラクターのショーになれて、格好良くて強くて、そして……レインがいる。
今レインはいないが、それでも翔太はゲームをしながら考えることにした。
「懐かしいな……」
翔太は一人ゲーム内で自分にとっての思い出の地を回っていた。
懐かしいとは思うが、悩みごとを解決するための糸口は見つけられないでいた。
そうこうして思い出の地を回っていると、いつの間にか翔太は始まりの村に来ていた。この村は、翔太にとって、このワイXの中で最も思い出深い場所だ。
三年前。翔太がこのゲームを始めたばかりのころに、うっかり入ってしまった高レベル帯のフィールドでモンスターから逃げきれずに、全滅してしまった。
全滅してもすぐに教会で復活することはできる。だが、その時にはデスペナルティとして、所持金の半額を持っていかれる。
当時蘇生アイテムが無く、まだ銀行も解放していない翔太からしたら、所持金半額没収は避けたいことだった。
蘇生方法を持たない人がそんな状態でも、助かる方法がある。それは、通りかかった他人に助けてもらうことだ。
MMORPGであるワイXなら、通りかかった他のプレイヤーに頼めば、蘇生してくれることがある。それだけにかけて草原で死んでいると、翔太に一通のチャットが届いた。
『大丈夫ですかー?』
画面を見ると、翔太の死体の横に、一人の女キャラが立っていた。
街で売っている初心者用の装備に身を包んだ女キャラは、翔太に蘇生魔法を掛けた。
『ありがとうございます!助かりました!』
『いえいえ~』
それだけ言うと女キャラは歩いてどこかへ消えて行った。
翔太はこれ以上襲われて死なないようにと、すぐに村に戻って宿屋で回復した。
◇◇◇
翔太がワイXを始めて数週間が経った。初めてのMMORPGながらもそのゲーム性にハマり、数週間ながらもかなりレベルを上げていた。
そんな翔太はメインクエストの進行のために、数週間前全滅させられた、苦い思い出のあるフィールドへやって来た。だが、そんなフィールドも、しっかりとレベル上げをしている今の翔太は、その推奨レベルの一回り高いレベルを持っている。万が一全滅した時のために、蘇生アイテムも大量に持っている。まさに万全という様子だ。
フィールドに落ちているキーアイテムを拾い、後は王都に戻るだけだというところで、翔太は数週間前に死んだところへ行きたくなった。
意味はないと分かってはいるが、どうしてもあの時の自分の敵討ちをしたくなったからだ。今の自分のレベルなら大丈夫だと、寄り道をすることにした。
「ん……。なんだあれ」
そろそろ全滅した所だなというところで、奥の方で倒れているキャラクターが見えた。倒れているキャラクターは描画距離の関係でしっかりと映されてはいないが、それを見ていると全滅した時の自分と重ねていた。もしかしたらあの人もあの頃の自分と同じように、デスペナルティが嫌で助けを待っているのかもしれない。そう思うと、自然と翔太は倒れているキャラクターの方へ向かっていた。
『大丈夫ですか?』
『MP切れて死んじゃってー……。回復職の方ですか?』
『すみません。俺は戦士なんです』
そうチャットを送って、アイテム欄から蘇生アイテムを選択して、目の前で倒れているキャラクターに使った。
するとすぐにキャラは起き上がって、自由に動けるようになった。
『あれ、もしかして……』
起き上がったキャラには、見覚えがあった。翔太がここで全滅した時に、蘇生魔法を使ってくれた女キャラクターだ。
『ありがとうございます!助かりましたー!わざわざアイテム使ってもらってすみません』
『いえいえ。俺は借りを返したまでです』
『借り……。あ!もしかして、少し前にここで会った?』
『はい。あの時の戦士です!あの時はありがとうございました』
翔太が覚えられていたことを少し喜んでいると、目の前にいる女キャラクター……レインから、フレンド申請が届いた。
『これも何かの縁かもだし、どうかな?』
『ありがとうございます』
こうして翔太……ショーとレインはフレンドとなった。
二人は相性が良かったのか、フレンドになってすぐにお互い打ち解けて仲良くなっていき、いつしか、お互いがいるからこのゲームをしているまでの関係となっていた。
ストーリー攻略からイベント、装備集めなど、二人でできることは全て二人でやっていた。
そして二人は……結婚した。
◇◇◇
「あれ……どうして……」
最初の村に来て、レインとの出会いを思い出していると、翔太の目からは自然と涙が流れていた。だが、この涙がどういう涙なのか、翔太には分からなかった。
いや、正確には薄々気づいてはいた。だが、それを今、自覚してしまっていいのだろうかと、翔太は悩んでいた。
「あそこに行くか」
翔太は村から出て、思い出の場所に向かった。三年前には強敵だった敵たちも、今ではワンパンレベルだ。道中なるべく敵と当たらないようにしながら、翔太は記憶を頼りに向かった。今すぐ行かないといけないと、翔太の直感が囁いているような気がした。
『来ると思ったよー』
『やっぱりな』
翔太が初めてレインと会った場所に向かうと、そこには既にレインが立っていた。翔太はなぜか、今行けば会えるんじゃないか。そう思っていたが、本当にいるとは思わず、少し驚いていた。
『何も聞かないよ。今の私はレインだからね!』
『それはありがたい。じゃあ一ついいか?』
チャットを打つ翔太の手が震える。
今、隣の部屋にレインがいることなんて、翔太の頭からは無駄な情報として一時的に消されていた。ただただまっすぐと、レインという一人の少女に対して、チャットを打った。
『俺はレインのことが好きだ。三年前に、出会ってすぐの頃から』
レインのことが好き。麗華とか相手の感情とか関係なく。ただただ本心。乏しい知識じゃ生徒会長のような考えはできないから、自分は今ある事実だけを見る。麗華のことが好きなのかとか、麗華が自分のことを好きなのかとか、そういったことは全て、今は忘れることにした。
『……初めて』
『なにがだ?』
『初めて、自分から好きって、言ってくれた』
『そうか?』
『私が好きか聞いたら答えてくれるけど、自分から言ってくれたのは、初めて……』
『悪いが俺はシャイなんだ。正直今すぐ枕に顔を埋めたい』
レインや現実での麗華から好きかと聞かれた時に返事をした時の、何倍もの恥ずかしさが、翔太の全身を駆け巡っていた。
『嬉しい。嬉しいよ!ショー』
『俺もだ。やっと伝えられた。レイン』
翔太は赤くなっていく顔を必死に冷まそうとしながら、画面に映るレインのことを見ていた。
『落ちるまでは、ショーとレインでいたい』
『私も』
二人は日が昇るまで、ゲームの中で一緒にいた。久しぶりに、ショーとレインとして。
そのせいで夜に全く寝ることなく朝を迎えたが、不思議と翔太は目が覚めていたし、これまでのどんな朝よりもやる気に満ち溢れていた。
『そろそろ落ちるか』
『そうだねー……ー』
『どうした?』
『落ちちゃったら、私たちはもう……』
『心配する必要。ないんじゃないか?』
チャットを打つと、翔太はパソコンを付けたまま家を出た。
目に刺さるような日差しが痛かったが、そんなことは気にせず、隣の部屋のチャイムを押した。
「おはようレイン!」
チャイムを押してすぐに、ドア越しに声をかける。周りの家に聞こえたかもしれないが、そんなことを今の翔太は気にしていなかった。
「し、翔太君!?ど、どうしたのかしら」
部屋から出てきた麗華は、部屋着を着ていて、その目は泣腫らしたように赤くなっていた。
翔太は自然と、麗華の顔を見れていた。もう迷いが無いからか、これまで以上に麗華のことをしっかりと見れている気すらしている。
「からかってみただけさ。おはよう麗華」
「もう……。驚いたわ。……よかった。元気そうね」
「ああ。誰かさんが夜中に会いに来てくれたからな」
「きっとその誰かさんは、あなたのことを心から愛しているわよ」
麗華は翔太を部屋に入れると、すぐにキッチンに向かった。
「へー。これがね……」
一人残された翔太は、テーブルの上に置かれたノートPCを見た。画面にはレインがいて、横にショーがいる。ショーから見たカメラよりも少し位置が違うから、少し不思議な感覚を感じた。
「俺の操作でレインが動くって。何だか不思議な感じだな」
翔太がノートPCを操作すると、それに反応してショーではなくレインが動く。あのレインを自分が操作していると思うと、少し面白くなってきた。
「何をしているのかしら?」
「いや。レインだなーって」
「恥ずかしいからもう落とすわ。あと、これ」
麗華は翔太の前に、お盆に乗ったオムライスを置いた。卵からは湯気が出ている。今作ったのだろう。
「昨日、いつ来てもいいようにと作っておいたの。食べて欲しいわ」
「ありがとう。いただきます」
こういったテンションの話は書いたことが無かったので、かなり書き直したりしながら書きました。難しいですね。でも、個人的にはいい物が書けたなと思っています。
☆が★になるとスライムが集まってキングスライムになることで投稿ペースが上がります(?)




