序盤に出てくる怪しいキャラの名前は憶えておけ。大体重要キャラだ。
非情に嬉しいことに、現実世界恋愛の日間ランキング、三位になりました!
皆様の評価のおかげです。ありがとうございます。今後ともよろしくお願いします。
「初めまして。えーっと……」
「好きな席に座って。今日、この生徒会室にいるのは私たちだけだから」
生徒会室は教室の半分ほどの大きさで、奥に生徒会長用らしいデスクと椅子があり、後は長机と椅子がいくつかある。
そしてその生徒会長用らしい椅子に座って、手元の書類を見ている女子生徒がいる。
銀髪ショートにあまり感情を感じない表情。どこか妖精のようにも見えるその儚さを持つ美少女。翔太にはその顔に見覚えがあった。
去年の十一月。体育館での生徒会長選挙の時に、生徒会長候補として見た記憶がある。候補者が一人の選挙だったから話は一切聞いていなくて記憶は薄いが。
「はあ。失礼します」
生徒会長の席から一番近い椅子に座ると、同時に生徒会長が立ち上がった。
「自己紹介がまだだったね。私の名前は神宮寺雫。この学校の生徒会長をやっているの。普段は全部副会長に任せているから、私の知名度は低いけどね」
翔太は生徒会長を選挙の時以外見たことが無い。
始業式の挨拶。学校行事での一言。生徒会長として人の前に出る仕事の全てを、体調不良を理由に変わりで副会長が前に出ていた。
「俺は……知ってるか。それで、わざわざ朝ピンチだった俺を助けて、一体何の用なんですか?」
「朝の一件は偶然。ここに呼んだのは、君を守るため」
「守るため?」
翔太はなぜ自分が生徒会から守られるのか。その理由が分からなかった。
いくら学校中に噂が広められているとしても、そんなことで生徒会は動かないだろう。というより、そういうことは先生が担当することだ。
「私が守りたかった。だからよ」
「それだけ……ですか?」
「ええ。それだけよ」
雫は自分用のデスクの上にあるファイルを持つと、翔太の隣、それもかなり近い距離まで来た。
間近で見ると、余計にその顔の可愛さが目立つ。これで表情が豊かだったら、麗華と同じように校内で話題になっていただろう。
「隣、座っても?」
「は、はい……」
雫は遠くにあった椅子を翔太のすぐ隣まで引いてくると、長机にファイルを置いて椅子に座った。
「これを見て」
雫はファイルから一枚の紙を出すと、翔太の前に置いた。
「これは……」
紙には、生徒氏名がびっしりと、軽く百人は超えてるんじゃないかという数書かれていた。そして、その名前の下には、@マーク付きのIDのようなものが書かれていた。
「これは私の使用人に任せて集めたデータ。ここに書いてある人は、あなたの噂をインストで拡散した人たちだ」
「なっ!?……こ、こんなもの、どうやって……?」
「拡散した人を一人見つけて、その人を脅せば芋ずる式に出てくるから。そうして噂の根元を追っていくと、これを見つけた」
雫はファイルからもう一枚紙を、先に出した紙に重ねるように置いた。その紙には二つの画像が貼られており、それを見た翔太は、思わず目を見開いた。
「こいつか!……凄いですね。こんなものまで手に入れるなんて」
二つの画像のうち一つは、翔太が四人の男たちから見せられた自分の盗撮写真だった。それはもう出回ってるのを知っていたから特に驚きはしなかったが、もう一枚の画像に驚きと、怒りを覚えた。
『なあなあ!学校来る途中ヤバいの見た!!!』
『なんだよ朝から』
『これ!あの桜麗華さんだろ?ヤバくないかこれ。絶対そういう関係だよなこれ?』
『くぁwせdrftgyふじこlp;』
『とりあえずグループに貼っとく!!』
もう一枚の画像は、インストのダイレクトメッセージだ。翔太たちを盗撮した男と、その友人との会話だ。会話の前に、盗撮写真を送ってある。
こんなノリで盗撮されて、拡散されたのかと思うと、自然とこの名前も知らない男に激しい怒りを抱いていた。
「安心して。この盗撮した男子生徒は退学になる予定だから」
「た、退学!?」
「これだけの噂を流して、二人の生徒が自由を失った。この事実と、私の名前をちょっと出せば、退学なんて簡単」
退学という単語を聞いて、翔太の心の中では激しい怒りよりも困惑が勝った。自分のことを盗撮した生徒が、盗撮したせいで退学になる。別に翔太は何も悪くはないが、どうしても罪悪感のようなものを抱いてしまう。
「拡散した人には、何かあるんですか?」
「これ以上の拡散を禁止。破ったら退学。これをインストやRINEで拡散した生徒全員に送ったの。それ以外の手段で拡散した人には、後日教師からの呼び出し」
「や、やり過ぎじゃないのか……。なんで俺たちのためにそこまで?」
生徒会長だからといって、ただの生徒のためにここまでやらない。何か特別な理由があるだろうと思うと、翔太は目の前にいる雫が怪しく思えてきた。拡散した人に対するやり方といい、普段の学校での言動と言い、明らかにまともな人ではないと翔太は思っている。
「それはまだ秘密……。その代わりヒントを一つ」
「ヒント?なんなんですかそれ」
「桜麗華のことが、好き?」
「え、そ、そりゃあ、まあ……。好きですけど」
質問の意図が分からずに困惑していると、翔太の隣に座っていた雫が、席から立って自分のデスクに戻った。
「そう。なら……レインのことは、好き?」
「なっ!?どうしてその名前を知って!?」
絶対に出てくることはないだろうと思っていた名前が突然出てきて、驚いた翔太は思わず立ち上がってしまった。
対して雫は、相変わらずの無表情で、翔太のことをじっと見つめていた。
「神宮寺家の力ならこれくらいのことはすぐ調べられるの。で、好きなの?」
「そ、そりゃあ……好きだ」
なぜそんな質問をしてくるのか。翔太は正直答えたくはなかったが、ここで適当なことを言えば目の前にいる生徒会長が何をしてくるか分からなくて、大人しく答えることしかできなかった。
「そう……。じゃあ……現実の桜麗華は好き?」
「どういうことだ?」
「そのままの意味。あなたが好きなのはゲーム内のレイン。じゃあ現実のレイン。桜麗華は?」
「それは……」
翔太は答えられなかった。自分でも分からなかったからだ。
翔太はレインのことが好き。それは間違いのないことだ。だが、レインという存在を抜きにした麗華に対して、自分がどういう感情を抱いているのか、分からなかった。
「あなたは本当に桜麗華のことが好きなの?」
「なっ!?……なんで生徒会長からそんなことを言われなきゃいけないんですか」
「……いつか教えよう。今は私のことよりも、自分のことを考えたらどう?」
「自分のこと……?」
「さっきの質問は、桜麗華にも当てはまることなの。ゲーム内のショーが好きな桜麗華。でもそんな桜麗華は、出会って数日のリアルの小野翔太のことを、どう思っているのかな?」
雫の表情がほんの少しだけ動いた気がした。どこか面白がっているような、笑みを一瞬見せた気がした。
「どうって……それは……」
またしても翔太は答えられなかった。それどころか、心のどこかで雫からの質問に対して、確かにそうだと思ってしまった。
もしかしたら、麗華の目に自分は写っていないのかもしれない。小野翔太という器を通して、ショーというキャラクターを見ているだけなのかもしれないと思うと、翔太は麗華がどう思っているのかを知りたくなってきた。
「こ、こんなこと俺に言って、一体何なんだ本当に」
「別に。私はただ、あなたがどう歩いて行くのかを見たいだけ」
「なんだと?」
「私はいつでも見ているの。だから、見せて。あなたの選ぶ未来を」
それだけ言うと、雫は椅子から立って、そのまま何も言わずに生徒会室から出て行った。
「な、なんなんだよ……」
一人生徒会室に残された翔太は、しばらくその場から動けなくなってしまった。
そうして何分経ったか、未だ雫の言った言葉の意味が分からずに考えていると、生徒会室の扉が開いた。
「やあ。話は終わったみたいだね」
「……これも生徒会長の手回しか?」
「ははっ。どうやらやられたようだね。僕もあの人の裏を初めて見た時は腰を抜かしたよ」
生徒会室に入ってきたのは、副会長だった。
「あれが裏の顔ですか……。正直、あのやり方には驚きました」
「僕もだ。会長と翔太がどんな話をしたのか知らないけど、翔太のその顔を見れば分かるよ」
副会長が雫の指示で来たのではないと分かると、翔太は安心して一度椅子に座った。
「今、色々と迷ってるんだろ?」
「は、はい……。まあ、生徒会長に色々と言われて」
「あの人の考えの全てを俺は計り知れない。でもな、これだけは分かるんだ。あの人は翔太のことを、大切に思ってるぞ。だからわざわざ権力を使ってまで、お前を助けたんだ」
副会長の言ったことを聞いて、翔太は会長を、少しなら信用してもいいんじゃないかと思い始めていた。
怪しいところは多いし、本当は何を考えてるのか分からないが、確かに、翔太の絶望的かと思われた普通の学校生活を、取り戻してくれた。それに翔太の麗華への思いも、直接言われなければうやむやにしていたかもしれない。
「ま、百パー信じろとは言わない。また近いうちに会うだろうから、そん時までに考えておいてくれ」
それだけ言うと副会長は生徒会室から出て行った。
自分を心配して来てくれたのかと、翔太は少し嬉しい気持ちになった。
「……俺も帰るか」
翔太は一人で家に帰った。
家に入ると、翔太は荷物を投げるように置いて、ベッドにダイブして仰向けに寝転んだ。
「麗華……どうなんだ……」
麗華が自分のことをどう思っているのか。翔太はそれが気になっていた。ショーのことが好きなのは間違いないだろうが、翔太はどうなのだろうか。
もし直接聞けば、麗華は当たり前のように好きだと答えるだろう。だが、それではダメだ。麗華の本心を聞かなければいけない。
その本心をどうやって聞こうかと考えていると、翔太の腹の虫が鳴った。
「流石に今日は、一人がいいな……」
今日もおそらく麗華は夕飯を作るだろう。だが、翔太は今日麗華と会う気にはなれなかった。
リュックから財布を探すと、それを持って翔太は家を出る準備をした。コンビニに行くだけだから、服は制服のままだ。
「あー。スマホ……うわっ」
スマホをリュックに入れていたせいで、翔太は学校が終わった時からずっとスマホを見ていなかった。
だからか、スマホには大量の通知と着信が入っていた。しかもそのほとんどが、麗華からのものだった。
「後でいいか」
スマホをポケットに入れて家を出て廊下を歩いていると、下の階段から足音が聞こえてきた。
翔太の住んでいるアパートの廊下は狭い。すれ違うのが面倒だからと、翔太は一度自分の部屋まで戻ることにした。
「翔太君。帰っていたのね」
「れ、麗華……」
階段を上ってきたのは、今翔太が一番会いたくない相手である、麗華だった。
最近ちょくちょくPV数を確認しているのですが、まさかの一日で三万のPV数を叩きだしており、本当に皆様の評価のおかげです。
これだけ沢山見られていると、下手なものは書けないなと思ってしまいますが、変わらずに、書きたいものを書いて行きます。
☆が★になると、ス〇ラで守備力が増えて投稿スピードが上がります。
最近ネタ切れになってきて、無理やり感が増えてきました。なんとかしていい感じのネタを探していきます。




