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ピンチに助けに来てくれるのは強い

「な、なあ麗華。そろそろ離さないか?学校も近くなってきたし、明らかに周り歩いてる同じ高校の奴らが俺らのこと見てるんだけど……」

「いいじゃない。別に見られても。悪いことをしているわけじゃないじゃない」


 麗華にガッチリと腕を固定された翔太は、抵抗しても無駄だと、仕方なく一緒に歩いていた。

 学校に向かって歩いている途中に、すれ違う人たちの視線や、途中で道が同じになった同じ高校の男子からの、信じられない物を見るような視線が痛かった。


「……頼むから学校に入ったらやめてくれよ?」

「仕方ないわね。それはやめておくわ。直接誰かから何か言われるのも嫌だし」

「助かる」


 だが、二人が手を組んで登校していたのを見た同じ学校の一人が、それを盗撮した写真と共に知り合いに共有。それがまわりまわって、翔太たちが学校に着くころには、麗華に興味がある男子ほぼ全員にその情報が知られていた。


 ◇◇◇


「なんか、騒がしくないか?」

「ええ。それにこの時間なのにいつもより人が多い気がするわ」


 学校に着く少し前でやっと右腕を開放してもらえた翔太は、明らかに周りの様子がおかしいことに気づいた。

 二人で並んでいるからかもしれないが、道を歩く学生がどこかそわそわとしていて、その人数は登校には早めの時間だというのに、いつもの三倍近くの人数が歩いている。


「……嫌な予感がする」

「そうかしら?考えすぎな気もするけれど」


 翔太の嫌な予感は、見事的中した。



「おいおいおい。翔太君よお」

「ちと面貸せや」

「打撲と刺傷、どっちがいい?」

「おめーは俺を、怒らせた」


 麗華と少し離れて校内を歩いて、教室に入るまでは問題なかった。物凄い数の視線は感じたが、直接コンタクトは取られなかった。

 だが、一人になろうとトイレに行ったとき。それは起こった。


「な、なんだ?」

「お?とぼけんのか?」

「俺らはな」

「知ってんだよ!」

「全校が知ってるぜ!」


 翔太がトイレに入ってすぐに、一人になる機会をうかがっていたのか、翔太と同じクラスの、初日に翔太から美化委員を買おうとした四人の男たちがトイレの扉を塞ぐように並んで立った。


「もしかして……」

「お前が桜麗華さんと手を組みながらイチャイチャと登校してきたことは知ってんだよ!」

「許せねえ。あの麗華さんがお前みたいな奴とっ!」

「一体どういう関係なんだ!」

「返答次第では……」

「いやいや。別に麗華……桜さんとはその……」


 何もない。と言おうとしたが、何もないわけがなかった。

 そして不自然に口ごもった翔太に、男たちも何かを察した。


「てめえ!どこまでなんだ!」

「ここで消すか」

「そうかそうか。つまり君はそういうやつなんだな」

「クラスメイトが一人減るのは悲しいぜ……」 

「いやいや。別に俺は、お前らが思ってるような関係じゃ……」


 翔太はかなり慎重になっていた。

 目の前にいる男たちからは、狂気にも似た殺意のようなものを感じていた。返答を間違えれば、翔太はこのトイレから出ることなく人生を終えることになるだろう。


「じゃあどういう関係なんだ?」

「……知り合い?ご近所さん?」


 なるべくゲーム内のレインと麗華を切り離して考えた時に、翔太の中に出てきた関係性は、それくらいだった。


「分かりやすい嘘をつくな!こっちには証拠があるんだ!」

「証拠?」

「ああ。今や学校中に回ってるぜ。お前と桜麗華さんが一緒に登校してる写真がな!しかも腕組みだぞ腕組み」

「はあ?写真?」


 男たちの一人がスマホを取り出して、画面を翔太に見せてきた。そしてそれを見た瞬間。翔太は全身から血の気が引いて行くのを感じた。


「なっ。こ、これは!」

「これ、お前だろ?」


 男が見せた画面には、翔太と麗華が腕を組んで登校している様子がバッチリと写っていた。横から撮られているから、恐らく道路越しに見つけた生徒が撮ったのだろう。しかも、盗撮なのに無駄に画質がいいせいで、自分じゃないという言い逃れが出来なくなっている。


「どうした?言い訳してみろよ」

「諦めな!」

「これは……その……」


 パシャパシャ。

 もう言い訳はできない。大人しく男たちにやられるしかないのかと思った瞬間。謎のシャッター音が聞こえた。

 翔太も男たちも、全員が訳が分からずに反応できないでいると、翔太の視界の端。四人の男たちが塞いでいる扉の奥に、人影が見えた。


「ありゃりゃ。見ちゃったなー」

「誰だっ!?」

「あ、あんたは!」

「その顔は……」

「生徒会副会長か!」

「生徒会副会長……確か名前は」


 榊原源五郎。生徒会副会長にして、その優秀さと性格から教師、生徒どちらからも人気のある副会長だ。

 会長になって欲しいという声も多いが、何故か本人は会長選挙には出ずに、副会長選挙に出た、不思議な男だ。


「男子生徒四名がトイレ内で男子生徒一名に対して怒鳴る……か。しかも明らかに手まで出しそうな雰囲気。何があったのか知らないけど、はたから見れば完全にいじめだね」

「なっ。副会長さんには関係ねえだろ!」

「いやいや。副会長が校内でこんなの見ちゃったら、放っておくわけにはいかないでしょ。で、そこの君は、話題の翔太君だよね。大丈夫かい?」

「は、はい。大丈夫じゃないですね。正直ここで人生終わるかもと思ってました」


 生徒会副会長という肩書の人が来てくれたおかげで、翔太の心にはいくらかの余裕が生まれていた。


「そっか。ならよかったよ。さ、僕としてはこの完全にいじめな写真。流してもいいと思うんだけど、どうかな?そこの彼は今有名人だ。そんな彼に関わることなら、回るスピードも段違いなんじゃないかな?」

「な、お、脅すってのか!?」

「脅すなんてとんでもない。取引さ。君たちが今後彼に関わらないのであれば、僕は今ここでこの写真を削除しよう」

「な、なんであんたがそこまで!」

「こいつの噂、知ってんだろ?」


 確かに。と翔太は心の中で思った。いくら副会長とはいえ、翔太にここまで力を貸す理由が無い。しかも翔太は今校内のかなりの数の男を敵に回している。そんな翔太に関わるということは、自分にもしわ寄せが来る可能性がある。


「うーん……。こういうのを許せない性格ってのもあるんだけど、これが上からの命令だからね。小野翔太を守れって」


 物凄く気になることを副会長が言っているが、この際助かるなら何でもいいと、あとは副会長に任せることにした。


「……わかったよ。もうこいつには関わらねえ」

「学校生活終りたくないからな」

「ただ羨ましかっただけだし」

「だなだな。大人しく帰るか」

「そうか。ならよかったよ」


 そう言って副会長は四人の目の前で撮った写真を削除した。それを見ると、四人は大人しくトイレから出て行った。


「大丈夫かい。君。えーっと……」

「翔太でいいです」

「おっけー翔太。大変だねー人気者は」


 四人がいなくなると、副会長はずっとトイレの外にいたが、中に入って来た。


「人気者って。こんなのただの悪者じゃないですか」

「ははっ。いいじゃないか。俺たちのアイドルを奪った悪者か。面白いね」

「いやいや。笑い事じゃないですって。俺、これからの学校生活どうしていけば……」


 四人は大人しく帰ったが、この学校で現在翔太に敵意を持っている生徒は大量にいる。その数全てを対処するのは、流石の副会長でも無理だろう。

 依然として大きな問題は解決していない。


「それに関してはもう安心していいと思うよ。多分明日には、その噂をする人はいなくなってるさ」

「ど、どうして……ですか?」

「それは、放課後のお楽しみだ。放課後。生徒会室に来てくれ。一人でね。あとこれ」


 そう言うと副会長は翔太に一枚のメモ用紙を渡した。

 そこには、電話番号が書かれていた。恐らく副会長の物だろう。


「もし休み時間とかに絡まれたら、すぐにここに連絡するんだ。今日一日。僕が君の護衛役って感じさ」

「は、はあ……」


 それだけ言うと、副会長はトイレから出て、そのままどこかへ行ってしまった。


『翔太君だいじょーぶ?』

『悪い。お腹が痛くてな。朝のHRまでには戻るよ』

『おっけー』


 結局。翔太は絡まれるのを恐れてチャイムが鳴るギリギリまでトイレの中で時間を潰していた。


「副会長パワーすげえな」


 二時間目まで終わって、様子を見ていたが、四人が翔太に絡んでくることはなかった。それだけにあの副会長という存在が大きいのだろう。

 しかも、教室にいれば視線は痛いほど浴びるが、人目を気にしてか誰も翔太に絡んでくることはなかった。だが、一歩教室から出れば、恐らくその先は魔境だろう。幸いにも今日は体育はない。一日教室から出なくても乗り切れる。ただ一つを除いて。


「購買……諦めるか」


 物凄い人数の男が群がる購買に行けば、誰かが翔太に気づいて、そこからはもう雪崩のように翔太に襲い掛かってくるだろう。翔太は今日一日、極力教室から出ずに過ごさなければいけない。



「君すごいねー。よっ。人気者」

「えーっと確か……」


 三時間目の休み時間。久しぶりの授業に疲れ切っていると、前に座っている女子が振り返って話しかけてきた。


「泉桃花。席前なんだし名前ぐらい憶えていてほしかったな」


 泉桃花。その名の通り桃色の髪で、ボブにしており、耳にはピアスまで開いている。翔太が一番関わりたくない系の代表例みたいな見た目の少女だ。


「あー。悪い。興味なくて」

「ひどっ!……でも君面白いね。気に入ったぞ!」

「結構です」

「あれなんか冷たくない?」


 謎にグイグイと話しかけてくる泉桃花が、今は若干面倒だった。普段なら大丈夫だが、今は周りの誰に何をされるか分からない。もしかしたら目の前にいる泉桃花が自分を売り飛ばすかもしれないと考えると、今すぐ一人になりたかった。あと、話しかけられてからずっと、右後ろから物凄い殺気のようなものを感じている。


「今人間不信気味なんで」

「なにそれ、面白っ。まあ確かに、あれだけ話題になってれば仕方ないよね。一大ニュースだったもん」

「そんなにか?」

「うんうん。朝寝坊したら、インストに何件も来ててさー。君の写真付きで、あの桜麗華とそういう関係だって。びっくりして二度寝しちゃったよ!」

「いやいや。寝坊したのに二度寝したとか。それ眠いだけだろ」

「あははっ。やっぱ面白いねー。でもそんな面白い君とも、今日でお別れかー」

「は?なんて?」


 急に不吉なことを言われてしまい、翔太は思わず片づけようとしていた教科書を床に落としてしまった。


「いやー。噂だけどね。れいちゃんのこと本気で狙ってたうちの何人かは、君の暗殺計画考えてるらしいよ。いやー怖いねぇー」


 暗殺計画なんて物騒な単語に、翔太は一瞬で全身から血の気が引いて行くのを感じた。


「は?いやいやいや。暗殺って……。ガチ?」

「さー。あくまで噂。ま、せいぜい生き残れよ。少年!じゃ、私はそろそろ殺されちゃいそうだからさよならー!」

「待ちなさい」


 突然。麗華の声が聞こえたかと思うと、立とうとしていた泉桃花の肩を、いつの間にか現れた麗華ががっしりと掴んでいた。


「麗華!?な、なにしてるんだ?」

「あちゃー……。れいちゃん。怒ってる?」

「別に怒ってないわよ。だからちょっと向こうでお話ししないかしら?」

「ご、ごめんっ!ちょっと有名だから、からかってただけなの!」


 どうやら麗華と泉桃花は知り合いらしい。そういえばさっきれいちゃんって呼んでた気もする。


「翔太君。私に黙って他の女と話すなんて、ひどいじゃない」

「いやいや。ただ話しかけられただけだし、第一、この人と麗華、知り合いみたいじゃん」

「たった今赤の他人になったわ」

「れいちゃん酷い!私たちあんなに仲良しだったのに!」


 どうやら俺は、また一つ面倒なことになりそうだ。さっきから教室中からの視線が痛い。

私自身とても驚いているのですが、この話、一日で、それもぶっ通しで書けたんですよね。これまで別サイトとかでも趣味で書いてきて、こんなに早く書けたのは初めてです。これも全て、読んでくれる方たちのおかげです。ありがとうございます。

☆が★になると第二形態になって投稿スピードが上がるかもしれないです。

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― 新着の感想 ―
[一言] ひとりエーミールおったで
[一言] エーミールさん!?!?
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