ボスに異変を感じたら気を付けろ。そいつは第二形態になる
ここまで書き溜めです。
ありがたいことに当初の予想を大幅に上回る人数に読んでいただき、貴重な感想もいただくことができました。そういったものに対する反映は、次話以降していきます。
「疲れたぁ~!今日一日、驚きの連続だったな」
麗華の作った夕飯を食べた後、少し話をしてから自分の部屋に戻ってきた翔太は、部屋に入ってすぐに着替えもせずにベッドにダイブした。
ダイブした瞬間に全身の力が抜けて、そのまま意識を失いそうになったが、なんとか耐えた。
「にしても、明日からどう接すればいいんだ」
学校での麗華は校内で知らない人がいないレベルの有名人。そんな相手とショーとレインの関係で校内で話をすれば、一瞬で翔太は校内中の男子に目を付けられるだろう。同じ委員会になっただけでクラスメイトに絡まれるレベルだ。刺されでもするんじゃないだろうか。
「ま、向こうの出方を見るか」
疲れ切った翔太はそれ以上考えることはせずに、耐えられずにそのまま意識を失うように眠った。
◇◇◇
「ショー……ショー……」
翔太が自分の部屋に戻った後。片づけを済ませた麗華は、ベッドの上に座ってスマホを眺めていた。
その画面には、一枚の写真が表示されている。水族館で魚を撮るふりをして撮った、翔太の横顔だ。
その写真を、麗華は頬を赤く染めながら眺めている。
「ああ……夢みたいだわ」
そしてその写真をスライドすると、今度は麗華の部屋の中で、クッションに座ってぼーっと待っている少々間抜け面な翔太の写真が出てきた。
料理の合間に、こっそりと盗撮していたものだ。麗華は今日一日、隙を見て何十枚も翔太のことを盗撮していた。
既に「ショー」という名前のフォルダが作られており、その中に今日撮った写真がまとめられていた。
「ふふっ。明日が楽しみだわ」
昨日まで、麗華の中の翔太はただのクラスメイト。いや、他人レベルだった。
だが、その相手が麗華の心から愛する男。自分の全てを捧げてもまだ足りない程に思っている相手だと知った瞬間。翔太という男は麗華の中でこの世で一番の男になった。
そんな相手と同じクラスで同じ委員会と考えるだけで、麗華はこれからの学校生活が何倍も楽しみになっていた。
「明日の準備でもしましょうか。好きな食べ物、聞いておけばよかったわね」
麗華は一番よく撮れていた写真を待ち受けに設定すると、スマホを切って財布だけ持って家から出た。
◇◇◇
「あぁー……。寝てたのか」
翌朝。少し早めに起きた翔太は学校へ行く準備をしていた。
今日から通常授業になり、昼食を準備する必要がある。いつもなら前日の内にパンなり弁当なりを買っておく翔太だが、昨日はすぐ寝てしまったせいで行く途中に買わなければならない。
「そういや昨日、入ってねえな」
準備を終えて後は着替えるだけというところで、昨日帰ってすぐ寝たせいでお風呂に入っていないことに気が付いた翔太は、急いで着替えを持ってシャワーを浴びに行った。
「ん……?」
『おはよー!家から出る時教えてねー』
シャワーから出てくると、麗華からそんなメッセージが届いていた。リアルでは丁寧な言葉遣いなのに、ネットだとレインのフランクな話し方のままだ。
『わかった。家出る時にピンポンするよ』
それだけ送ると翔太はスマホを置いて髪を乾かした。今日はなぜか、いつもより入念に身だしなみに気を付けていた。
「よし。行くか」
いつもより少し早い時間に準備を終えると、翔太はリュックを背負って家から出た。
「そういえば」
麗華に教えてと言われていたことを思い出して、隣の部屋の扉の前に立つと、チャイムを押した。
「はい」
「俺だ。おはあぶなっ!」
翔太が俺だと言った瞬間。物凄いスピードで扉が開いた。コンマ一秒翔太の反応が遅れていたら、翔太は扉に吹き飛ばされていただろう。
「おはようございます。翔太君」
「お、おう。おはよう。それで、どうしたんだ?朝から」
「それじゃあ、行きましょうか」
「え?お、おう……」
制服姿で出てきた麗華は、そのまま片手にバッグを持って外に出て来て、部屋の鍵を閉めるとそのまま廊下を歩いて行った。相変わらずの行動力だが、翔太は段々と慣れて来ていた。
「翔太君。行かないのかしら?」
「あ、ああ。も、もしかして、一緒に行くのか?」
「ええ。だって昨日言ったじゃない」
必死に昨日の記憶を思い出し、言っていたことを思い出した瞬間。翔太はその時断らなかった昨日の自分を殴りたくなった。
「こんなとこ、絶対学校の奴に見られるわけにはいかないよな……」
駅までの道を歩く途中。翔太は常に周りの通行人に視線を配らせていた。
あの学校のアイドルである桜麗華と一緒に学校に来たとなれば、翔太は一躍学園の敵となるだろう。生きて帰れるかも怪しいレベルだ。
「どうしたのかしら?」
「い、いや。なんでもない。ただ……、ちょっと近くないか?」
二人は横並びで歩いている。その距離は肩が触れ合いそうというレベルではなく、ガッチリ触れ合っている。というかくっついている。手をつないでいる方が距離があるんじゃないかという程の距離だ。
本当は翔太は離れたかったが、離れようとするとノータイムでまた同じ距離まで密着されて、翔太は気付けばそれ以上横に移動できなくなっていた。
「そうかしら。夫婦ならこれくらい普通でしょう?それとも……私の隣は嫌かしら?」
「いや、夫婦なのはゲームの中であって、こっちじゃ違うだろ」
「でも、ゲームの中では夫婦よね?それならいいじゃない」
「い、いや……」
それ以上言おうとしたが、麗華の圧に耐えられず、それ以上は何も言わずに、大人しく一緒に駅まで向かうことにした。それ以上言えば、翔太はどこか麗華の触れてはいけない物に触れてしまう気がしたからだ。
「ま、まあ予想はしてたが……」
駅まで着いて、二人は丁度来た電車に乗った。
そして、翔太が先に入ってすぐの席に座ると、続いて麗華も横に座った。
別に翔太は隣に座ること自体が嫌なわけじゃない。実際昨日の帰りの電車では隣に座っていた。ただ、今の麗華は制服を着ている。知っている人が見れば、一瞬で学園のアイドルの桜麗華だと分かるだろう。そして、そんなアイドルの隣に同じ学校の男が座っていたら、もし無関係だとしても、多くの男子から嫉妬の制裁を受けるだろう。
「ねえ翔太君」
「ん。なんだ?」
二人で静かに電車に乗っている中。先に話を始めたのは麗華だった。
「昨日の夕飯の件なのだけど」
「ああ。テーブルだな。どうする?麗華の家に運ぶか?」
「いえ。できれば翔太君の部屋で食べたいわ」
「俺は別にいいが……いいのか?」
翔太の部屋で食べるということは、翔太の部屋に麗華が入るということだ。
「ええ。私の部屋には多分、合わないと思うの」
「あー。確かに。あの部屋、すっごいおしゃれだったからな。デザイン合わないだろうし、それならそのままの方がいいかもな。けど、俺の部屋にある調理機材は微々たるものだぞ。一応冷蔵庫は大きいのがあるが」
翔太の部屋には一人暮らしを始める時に親から貰ったフライパンが一つだけだ。焼くだけならと自分で買い足すことはしなかったが、料理の上手い麗華が使うには、翔太の設備は木の棒レベルだ。
「それなら私の部屋から持ってくるから大丈夫よ。翔太君としか食べないのだから、これからは翔太君の部屋で作っても大して変わらないでしょう?」
「確かにそうかもな。じゃあ今日帰ったらすぐに片づけしておくよ」
普段料理をしない翔太の部屋のキッチンは、とてもじゃないがしっかりと使えるような状態ではない。それに翔太の部屋に麗華が入るのなら、翔太には隠しておかないといけないものが大量にある。
◇◇◇
「なあ」
「なに?翔太君」
「流石に駅から出たらちょっと距離を離して歩かないか?」
「どうして?」
電車から降りて駅のホームを歩きながら翔太が提案すると、麗華は立ち止まって翔太の方を見た。その目はどこか背筋がぞわっとするような、闇を感じるような目をしていた。
「駅から学校まで近いから、絶対同じ学校の奴らに一緒に歩いてるの見られるだろ」
「別にいいじゃない。見られても何も困ることはないわ」
「いやいや。麗華と一緒に歩いてるところ見られたら、どんな噂されるか……」
「別に噂されてもいいじゃない。間違いでもないでしょう?」
「間違いじゃないが、俺は命を狙われながら送る学校生活は御免なんだ。麗華とそういう関係だって噂されたら、その日の内に俺は闇討ちに遭う」
「そう……。そうなの。わかったわ」
麗華は一度顔を伏せると、一拍置いて顔を上げた。
そして上げた麗華の顔を見た翔太は、思わず一歩後ずさってしまった。ここが公衆の面前じゃなかったら、恐らく悲鳴を上げていただろう。
「れ、麗華……?」
宝石のように美しく輝いていた麗華の瞳は、ハイライトを失い、漆黒のような色になっており、不気味な笑みを浮かべていた。
「翔太君の私への思い。その程度だったのね」
「お、おい……。どうした……?」
「私と一緒に居るより、周りからの視線を気にするのね」
「いや、そういうわけじゃ……」
「私に毎日好きって言ってくれたのは嘘だったの?」
「いや。嘘じゃないが……」
朝の駅のホームには人が多くいて、その中には駅の近くにある学園の生徒もいる。そしてホームの中途半端なところで立ち止まっているだけで目立つのに、そこにいるのは桜麗華だ。同じ学園の人で注目しない人はいないだろう。
「せっかく翔太君と同じ高校だからと張り切ってきたのに……」
「そ、そこまで言うなら……一緒に行くか」
改札に向けて歩いて行く人たちが翔太に注目しているのは、雰囲気で感じていた。ここで余計に目立つのなら、本末転倒だと思ったわけだ。
「ほ、ほんとう……?」
「あ、ああ。一緒に行こう」
「じゃあ私のこと……好き?」
「え、あ、ああ……。す、好きだ……だ」
人のたくさんいる場所でそんなことを言わされるなんて、翔太は恥ずかし過ぎて顔は今にも噴火しそうなほどに赤くなっていた。だが、背に腹は代えられない。
「あら。聞こえないわね。もう少し大きな声でお願いできるかしら?」
いつの間にか、麗華の顔はいつもの麗華の顔に戻っていた。だが、それを恥ずかしくなってまともに目を開けていない翔太は知らなかった。
「俺は麗華のことが好きだっ」
「ふふふっ。私もよ」
そう言うと麗華は翔太の右腕を掴んで、自分の腕と組み、肩と肩を密着させた。
カップルが良くやるような腕組みを、美少女がやっている。そのせいかホームを歩く周りの人たちの視線が二人に集まっていた。
「お、おおお、おいっ」
「どうしたのかしら?」
「さ、流石にこれは……」
翔太は多少無理やりにでも組まれた腕を解こうと腕を動かした。知らない人からのこれ程の注目に耐えられるほど、翔太の精神は強くない。
女子と手をつないだことすらない翔太が、いきなりの腕組みだ。翔太の心臓は爆発するんじゃないかと思う程にバクバクを通り越してドンドンと鳴っていて、それは体を密着させている麗華にも聞こえているだろう。今すぐ翔太は麗華から離れたかった。
「これくらい、普通でしょう?結婚しているんだもの」
「ぐっ……。あ、あたっ……!」
だが、翔太が腕を動かした瞬間。動こうとした腕はピクリとも動かなくなった。いや、動こうとはしている。だが、麗華の腕が、人間の力とは思えないほどに力強く、翔太の腕を捕まえて離さなかった。思わず翔太は横にいる麗華の顔を見たが、それは間違いなく麗華だった。
そして、ただでさえ隙間なく密着しているのに、麗華は自分の体に沈めこむように密着度を増してきた。
そのせいかおかげか、翔太の右腕が、麗華のよく実った禁断の果実を押しつぶすように密着した。
麗華はスタイルが良くすらっとしているが、出るところは出ている。そんな麗華の胸の感触を感じた瞬間。翔太はもう何も考えることができなくなった。
第二形態って言葉、私はトラウマです。やっと倒せたって喜んでたら、もっと強いのと連戦とか、鬼ですよね。皆さんも「こいつボスなのに弱くね?」って思ったら気を付けてください。多分そいつ連戦です。
☆を★にしていただけるとげんま召喚して投稿スピードが上がるかもしれないです。




