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定番スポットには定番スポットになるだけの魅力がある

「では翔太君。案内をお願いしてもいいかしら?」

「あ、ああ。それじゃあ行くか」


 会計を済ませて外に出ると既に日は頂点まで昇っていた。

 翔太は二人で並んで歩きながら、頭の中で予定を立て直していた。

 午前が丸々無くなったせいで、行こうと思っていたものの中で、優先度の低い順から消していくことにした。



「ここ。近くにあるから興味あったんだけど、一人じゃ恥ずかしくて行ったことないんだけど、麗華は?」


 翔太が案内したのは、駅の近くにある水族館だ。かなり有名なところで、翔太は行く機会こそなかったが、興味はあった。ただ、一人で来るにはこのリア充スポットは、難易度が高すぎた。


「私も来たことはないわね。毎日あなたと一緒にいたかったから……」

「お、おう……」


 勿論ゲームの中でのことだが、そんなことを現実で麗華から言われると、何だか物凄く恥ずかしくなってしまい、思わず立ち止まってしまった。


「中に入らないのかしら?」

「ああ。悪い。行くか」


 二人でチケットを買って水族館に入ると、中にはお昼時だというのに多くの観光客が魚に夢中になっていた。


「何か見たいのあるか?」

「そうね……。私、ペンギンが見たいわ」


 入ってすぐのところに置いてあるマップを貰って、どこにどの動物がいるのかを確認して、行き先を決めることにした。といっても、翔太は事前にいくつか見たい動物を決めてきている。


「好きなのか?」

「ええ。可愛いわ」

「俺もだ。あの歩く姿に一目惚れした」

「ふふっ。お揃いね」

「……っ!……行くか」


 翔太は今の自分の顔を見られないように、先導してペンギンコーナーに向かった。対する麗華も、言った後に恥ずかしくなって、翔太の後ろで気づかれないように俯いていた。


「ここだな。おっ。沢山いるなー」


 少し歩いて屋外スペースに出ると、出てすぐにペンギンのコーナーが目に入った。

 ぱっと見えるだけでも二桁はいるであろうペンギンに、二人ともすっかりと夢中になっていた。


「かわいいなぁ……」

「……本当ね。ずっと見ていられるわ」


 二人並んでペンギンを見ながら、翔太はチラチラと真横。すぐ近くにいる麗華の顔を見ていた。


「綺麗だ……」


 整った顔に、艶のある長髪。スラっとした体形の中にも女性らしい色気があるその容姿は、翔太の中で一番の美少女だ。

 しかも、それが自分とネットでの結婚相手。そう思うだけで、麗華のことがレインだと知る前より何倍も魅力的に見えていた。そうして気が付くと翔太はペンギンを見ることを忘れて、麗華のことをジーっと見つめていた。


「ど、どうしたのかしら?」

「ああ。わ、悪い。何でもない」


 だが、その視線に気づいたのか、麗華が翔太の方を向いた。若干気まずそうにすぐに顔を逸らす翔太だったが、麗華にはそれがどうしてなのか分からなかった。


 ◇◇◇


「楽しかったな。麗華は?」

「私も楽しかったわ。こういうところに来るの、久しぶりで。それに、一緒に居るのが翔太君だもの」

「お、おう……」


 ペンギンを満喫した後、一通り水族館を回った二人は、日も落ちかけてきた頃に、水族館を出た。

 最初はペンギンと後は適当に見て出るつもりだった翔太だったが、二人とも予想以上に楽しくなって、写真を撮りながら、ペンギン以外もゆっくり見ていた。


「この後はどうしようか。門限とかってあるか?」

「いえ。翔太君が望むのなら朝帰りでもいいわよ?」

「い、いや。しっかりと日付が変わる前には帰るさ」


 朝帰りと言われて一瞬そういう想像をしてしまったのは、翔太の心の中だけの秘密となった。



「俺たちといったら、ここだよな」

「ここは?来たことないわね」

「マジか」


 翔太が来たのは、有名な全国チェーンのネットカフェ。高校生のデートスポットらしからぬ場所ではあるが、二人らしいと言えば二人らしい。


「こういうところってその……。怖いじゃない。何があるかわからなくて」


 確かに、麗華がネカフェにいるのは、想像ができない。


「確かにそうかもな。俺も初めて来たときは怖かったわ。でもコラボイベントとかやってたりするし、なんでもあって便利だから気分転換にいいぞ」

「で、ここには何をしに来たのかしら?」

「そんなの、決まってるだろ?」


 ◇◇◇


「こ、これって、ペアシートというものかしら?」

「そ、そうだな。パソコンが二台ってなると、これしかなかった。すまない」

「どうして謝るのかしら?私は逆に嬉しいわ。こんなに近くで翔太君といられるなんて」


 個室に入ると、翔太はすぐに適当に座った。そして、しばらくしてから麗華も美しい所作で座った。

 始めてくる場所に緊張しているのか、麗華は特に何もすることなく、座っているだけだ。


「それで、何をするのかしら?」


 ただ何をすればいいのか分からなかっただけらしい。


「俺たち二人が集まったんだ。やることといえば、ワイXだろ」


 ワイX。ワイバーンクエストXのことだ。ワイバーンクエストXは翔太のいるネットカフェと提携しており、最初からPC内にダウンロードされている。

 そして、ワイバーンクエストXで出会って結婚した二人が、会ってすることは、ワイバーンクエストXだろうというのが翔太の考えだ。

 最初にオフ会の行き先を決める時、翔太が一番に候補に入れたのはこのネットカフェだった。ワイXで出会った翔太にとって、それほどにワイXというのは大切な存在だった。


「確かに、翔太君とこうして一緒に出来るなんて、夢みたいね」


 二人ともそれぞれ目の前にあるPCを起動して、そのままゲームを起動して、ログインまで済ませた。ほぼ同時にログインが完了すると、画面時はほぼ同時に二人のキャラ。ショーとレインが現れた。


「やっぱりこっちのレインを見ると、なんか落ち着く」

「それ、どういうことかしら?」


 まるで現実のレイン……麗華が落ち着かないかのような言い方に、麗華は少し機嫌が悪そうな顔をした。


「い、いや……こっちのレインと、麗華って、キャラが違うだろ?正反対レベルで」

「そ、そうかしら?確かにゲームだと顔が見えない分、少し明るく話している気がするわね」


 少し明るくというレベルではないだろうと思いながらも、翔太はそれ以上深く聞くことはしなかった。何だか聞いてはいけないような気がしたからだ。



「なんだか不思議な感覚ね。普通に話せばいいのか、チャットをすればいいのか。分からなくなってくるわ」

「あー……。わざわざチャット打つよりも、話した方がいいんじゃないか?チャットの度に動き止めないといけないの大変だし、直接話した方が伝わりやすかったりすると思う」

「そうね。じゃあ、これから二人の時は直接話してやりましょうか」


 二人でゲームに関することを雑談しながらやること数時間。気づけば部屋の残り時間は数十分になっていた。直接話してチャットの分の時間が短縮された分。いつもよりも効率よくできていた。


「はー楽しかった!もうこんな時間か」

「ええ。翔太君が隣にいると考えると、余計楽しかったわ」

「……お、俺もだ。」

「……そ、そう……よかったわ」


 恥ずかしくなって二人ともお互いの顔を見れずにいると、そのまま時間になってしまった。


「もういい時間だし、そろそろ帰るか」

「そうね……。と言っても、これでお別れじゃないものね」

「まあそうだな。明日学校で会うし、そもそも家隣だからな」


 店を出て駅まで戻ると、目的地が同じだからと二人で同じ電車に乗って、家の最寄り駅まで帰ってきた。


「翔太君はこの後どうするのかしら?」

「うーん……。俺は一回帰ってから、スーパーにでも行くかな。明日学校だから、何かそのまま食べれるものでも買いに」

「それなら、私の家で食べて行かないかしら?」

「私の家って……ええ!?」


 突然の家へのお誘いに、翔太の頭はパニックになってしまった。



「別に隣なのだから、いいでしょう?それに、食べて欲しいもの。私の料理」

「いやいや。そんな、悪いだろ」

「翔太君は私の料理、食べたくないのかしら?」

「い、いや……。そりゃ食べたいけど」

「じゃあ行きましょう」

「あ、ああ……。わかった。ありがとう」


 こうして二人は、麗華の家へと向かった。と言っても、お互い同じアパートで隣だから目的地は変わらないが。


「入れる予定じゃなかったから少し汚いかもしれないけれど……どうぞ」

「お、お邪魔します」


 アパートに着いた翔太は、いつも帰っている自分の部屋ではなく、その隣の、桜と書かれた表札の部屋に入った。


「すげえ……。女の子の部屋って感じだな」


 翔太が部屋に入っての第一感想が、それだった。

 ただの玄関なのに同じ内装のはずの翔太の部屋とは正反対に清潔感があり、置いてある小物の一つ一つにセンスを感じられる。女の子の部屋って感じだ。


「入らないのかしら?座るところは……。そこのクッションか、ベッドに座って待っていてもらえるかしら?少し着替えてくるわ」

「わかった。それなら俺も一回部屋に戻って着替えてこようかな」

「わかったわ」


 一度部屋に戻って荷物を置き、ラフな普段着に着替えて麗華の部屋に戻ると、麗華も普段着らしい格好に着替えていた。


「これはこれで可愛いな……」


 普段着になった麗華は、オフ会で会った時のしっかりとおしゃれされた姿ではなく、シャツにズボンというラフな格好になっていて、昼間とはまた違った魅力が醸し出されていた。


「翔太君。好き嫌いはあるかしら?」

「いんや。なんでも食べれるぞ。俺も何か手伝おうか?」

「いいえ。翔太君は座って待っていて。すぐに作るわね」


 そう言うと麗華はキッチンに行き料理を始めた。

 一人リビングに残された翔太は、緊張して座っていることしかできなかった。


「なんだかいい匂いだ……」


 女の子らしい、いい匂いがする部屋は、その内装も年頃の女子らしい部屋になっていた。白とピンクを基調とした家具には可愛らしさと清潔感が共存していた。

 あんまり人の部屋をじろじろ見るのは良くないと思いながらも、翔太の視線は部屋中の色々なところへ動いていた。

 そんな最中、目の前にあるテーブルの上に目が留まった。


「このパソコン……」


 リビングの中央にある一人暮らしサイズのテーブルの上には、ピンク色の有名メーカーのノートPCが置かれていた。部屋を見た感じ、これ以外にPCはない。いつも翔太とゲームをするときには、このPCを使っているのだろう。

 そう思うと、翔太は目の前にあるPCがどこか神聖なものにすら思えてきた。


「にしても、本当に隣とはな……」


 二人がここに引っ越してきてからの約一年間。毎日一緒にゲームしていて、結婚すらした相手が、壁の薄いアパートの隣同士なんてことは、世界中探してもこの二人くらいだろう。


 ◇◇◇


「お待たせ、翔太君」


 数十分後、エプロン姿の麗華がリビングに戻ってきた。その手には、二枚のプレート皿を持っている。


「ごめんなさい。初めて翔太君に食べてもらえると思うと、張りきっちゃって……」

「ありがとう。麗華の張りきった手料理が食べられるなんて、楽しみだ」

「お口に合えばいいのだけど」


 そう言って麗華がテーブルに置いたプレートには、付け合わせに彩られたハンバーグが盛り付けられていた。


「すげー美味しそう」

「気に入って貰えたみたいで嬉しいわ」


 ご飯を置き、麗華も翔太の向かいに座った。一人用のテーブルを二人で使っているから少し狭いが、PCをテーブルからどかしてなんとか場所を作った。


「それじゃ、いただきます」

「いただきます」


 ハンバーグを一口大に切ると、切り口からじゅわっと肉汁があふれてきた。それを見ただけで、翔太の胃はグルグルと鳴った。

 我慢できず、すぐに口に運んだ。


「おいしいっ!これまで食べてきたどのハンバーグより美味しい!」

「そ、そう。そこまで言われると照れるわね……」


 翔太の発言は、嘘偽りない、心からの物だった。

 噛んだ瞬間に溢れる肉汁。焼き過ぎていない絶妙な焼き加減に、主張しすぎない味付け。どれをとっても最高だった。


「ごちそうさまでした」


 そして、あっという間に食べ終わった。美味しすぎて翔太の食べる手が止まらなかったからだ。


「すっごく美味しかった。毎日食べたいくらいだ」

「それは嬉しいわ。ではそうしましょうか」

「昼間も言ってたな。本当にいいのか?」

「ええ。でもそうなると問題は場所よね。このテーブルだと少し手狭だし、食器だってほとんど一つずつしかないわ」

「テーブルなら俺の部屋にあるぞ。一応大きめを買ったんだが、完全に持て余してたんだ。お皿とかも、俺が買い足すよ」


 こうして、これから二人は一緒に夕飯を共にすることになった。

実は次話で書き溜めが無くなります。めっちゃ遅筆なので、のんびり待っててもらえると嬉しいです。

そんな作品でもいいよーって思ってくれた方は、☆を★にしていただけると、心頭滅却して投稿スピードが速くなるかもです。

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