祝福あれ
なんとか急ぎまくって、間に合わせました。なのでめっちゃ短いです。
「翔太君」
「なんだ?」
「呼んでみただけよ」
「なんだそれ」
デートは終わり、二人は家に帰って来て、今は翔太の部屋にいる。
二人で一緒にベッドの上に腰掛けて、半分抱き合うような姿勢になっている。
「なあ麗華」
「何かしら?」
「呼んでみただけだ」
「なにそれ」
「ふふっ」
「ははっ」
二人は寝る直前まで、ずっと隣同士にいた。いつの間にかそっちの方が楽だからと、二人は翔太のベッドで一緒に横になって、お互いの顔を見つめ合いながら話を続けた。
そして、二人はどちらが先か、いつの間にか寝てしまっていた。
◇◇◇
「んぅ……。翔太君……」
翌日の朝。麗華は弁当を作るために、いつもと同じ時間に起きて、そしてすぐに、違和感を感じた。
「ッ!しょ、翔太君?」
目が覚めて、起き上がろうとして左を見た瞬間。麗華の視界に、翔太の寝顔が映った。
起きてすぐに違和感は感じていた。いつもとベッドの感触が違く、左手に普段感じない柔らかいものを握っているような感触があった。
「ど、どうしましょう……」
翔太とガッチリと繋がっている手を見て、麗華は手を離せなくなった。下手に動かそうとすれば、その動きで翔太が起きるかもしれない。
「か、かわいいっ」
真近で見る翔太の寝顔。しかも、ぐっすりと寝ている顔を互いの息がかかるほどの距離で見て、麗華の心臓は今にも破裂してしまいそうだった。
「このまま……あと五分だけ」
弁当を作るのを五分を遅らせて、翔太の寝顔を眺め始めた。翔太の寝顔を見るいるだけで幸せな気分になって来て、全く飽きなかったが、五分寝ると同じように、麗華の五分は、三十分以上続いた。
「寝てたのか……うおっ!?」
いつもの時間に起きた翔太は、昨日いつの間にか寝ちゃったという思いと共に、目を開け、目の前の光景に思わず飛び上がった。
至近距離。麗華の瞳に自分の顔が反射しているのが分かるほどの距離で、麗華が一緒に寝ていたからだ。
「あら、おはよう翔太君……あっ」
「ど、どうして麗華が一緒に……。もしかして昨日、疲れて何も考えずに、寝ちゃってたのか……」
「そうみたいね。私も起きた時は驚いたわ。と、どうしましょう。翔太君の寝顔を眺めていたら、お弁当を作る時間がなくなってしまったわ」
「じゃあ今日は途中で買っていくか」
「いいのかしら?付き合った次の日なのだから、作りたいのだけど」
「じゃあ、簡単に作ってもらってもいいか?ご飯炊くのは間に合わないだろうから、おかずだけ作って、おにぎり買ったりとかさ」
起きた翔太が冷蔵庫まで行って何かあるか確認をすると、弁当のおかずにするには十分な具材が揃っていた。
「それでいいかしら?」
「ああ。逆にいいのか?こんな時間に」
「ええ。私が作りたいの。それじゃあ、今から作るわね。朝食も一緒に作るから、少し待っていてね」
「ありがとう。じゃあ、今の内にシャワー浴びるかな。麗華も一回帰って浴びるか?昨日すぐ寝ちゃったし、多分メイクも落としてないだろ」
「そうね。お弁当を作ったら、着替えに行くついでにさっと浴びてきちゃうわ」
キッチンに来た麗華は、慣れた手つきで冷蔵庫から使う食材を取り出して、その他にも必要な物を準備し始めた。
ここにいても邪魔になるだけだと、翔太は部屋で着替えを取ってから、シャワーを浴びに行った。
「……なんかいつもと変わんないな。そっちの方がやりやすいけど」
シャワーを浴びながら、起きてから何かあるんじゃないかと少し身構えていた自分が、少し恥ずかしくなった。
◇◇◇
「よし。それじゃあ行くか」
「そうね。何とか間に合ったわ」
いつも二人が家を出る時間に、二人は翔太の部屋にいた。お互いシャワーを浴びて、制服に着替えている。弁当も作り、いつもと変わらない朝だ。
「何だか、堂々としているわね」
「まあ、今の俺たちはつ、付き合ってるんだし、これくらいするんじゃないかって思いながらしてるからな。正直、恥ずかしくはある」
駅まで向かう道を、二人は腕を組んで歩いている。これまでは周りの視線。主に学生からの視線が痛かったが、今の翔太は、付き合ってるんだからこれくらいいいだろうと思い、堂々と腕を組んで、周りからの視線も気にせず、ただ二人だけの空間に入り込んでいる。
「どうしてかしら。ただの通学路で、先週と同じように歩いているだけなのに、これまでとは比べ物にならないほどに幸せな気分だわ」
「俺もだ。危ないからちゃんと前を向いて歩こうと思うのに、どうしても麗華の方を見ちゃう」
「ふふふっ。これから毎日がこれなんて、学校に登校するだけで学校に行く理由があるわ」
「そうだな。もうこれから先、無遅刻無欠席できる気がする」
イチャイチャと、ピンク色のオーラを周囲にまき散らしながら、二人は学校へ向かった。
そのオーラの強力さは、雫によって話題に上げることができないのに、思わず二人のことが校内の一部で噂になってしまったほどだ。
◇◇◇
「おっはよー!二人とも……マジですか」
教室にはいると、すぐに桃花が挨拶をして来て、そして二人の先週とは全く違う雰囲気に何かを察したのか、動きが止まった。
「もしかして……二人ともちょっと来て!」
桃花は二人の手を引いて、廊下に出て、そのまま人のほとんどいない廊下の端まで連れてきた。
「おい、どうしたんだ?」
「ねえ、もしかしてさ、二人って昨日のデートで……」
「私たち、付き合ったの。まあ、元から結婚しているのだから肩書的にはそこまで変わらないのだけどね」
麗華の口から、「付き合った」と聞いた瞬間。桃花は麗華に向かって抱き着いた。
突然のことに反応が遅れた麗華は、そのまま抱き着かれることしかできなかった。
「おめでとう!」
「ありがとう。これまで色々と。正直桃花がいなかったらどうなってたか」
桃花がいなければ、遊園地という行き先も、デートでの振るまい方とかも、よくわからずに、麗華に恥ずかしいところを見せていただろう。桃花は、翔太にとって恋愛の師匠のような存在になっていた。
「私は準備をしただけ。やったのは二人だよ」
「やっぱり翔太君も、桃花から色々とアドバイスを貰っていたのね」
「ああ。そういう麗華も、だいぶお世話になったみたいだな」
「ええ。経験豊富な桃花に助けてもらって、ここまで来れたわ」
「ま、まあね!私、二人がこうして付き合ってくれて、本当に嬉しい。今日はお祝いしようね!」
「お、いいな。じゃ、桃花の奢りで焼き肉でも行くか?」
「……せめてミスドーナツで」
「決定だな。じゃあ放課後行くか」
「ありがとう。桃花の奢りだと思うと、いくらでも食べられる気がするわ」
翔太と麗華の二人が付き合って、自分の肩の荷が下りたからか、桃花はいつにも増して、今日一日楽しそうだった。
「それじゃあ、行くか」
「うん!一人一個ね」
「本当にいいのかしら?私は逆に、これまでのお礼も兼ねて、逆に奢りたいのだけど」
「いいのいいの。主役がそんなことするもんじゃないからね!」
放課後。三人で教室を出て、廊下を歩いていた。
帰りにショッピングモールに寄って、桃花からのお祝いとやらを受ける。
「悪い。二人とも。先に正門で待っててもらってもいいか?少し用事が出来た。数分で戻るから」
歩いている翔太の視界の端に、見覚えのある副会長が映った。一瞬だったが、偶然にしては不自然だった。
副会長は三年生。なのに、二年生の階、それも移動教室が近くにない、普通のクラスがある廊下を歩いていたからだ。まるで、誰か二年生に用があるかのように。
「どうしたの?」
「トイレだ。トイレ」
「分かったわ。それじゃあ」
二人が先に廊下を歩いて、そのまま階段まで行ったのを確認して、翔太は急いで副会長の後を追った。
「来たな。会長なら今日は休みだよ」
「そ、そうなんですか!?じゃあ、なんで……」
しばらく廊下を走ると、副会長に追いついた。というよりも、副会長は廊下を曲がった先で待っていた。
「僕が君を呼んだ前提のような話し方だね。まあ、実際待っていたけど。会長は体調不良。といってもそれは建前で、本当は君が絡んでいるんじゃないか?」
「……多分。でも、なんでそれで休むんですか?」
あの雫のことだから、多分昨日の遊園地デートの情報を、どこかで見ていたんだろう。あの告白のことも、結果も、何か凄い力で知り、そしてその関係で今日は休んだのだろう。
翔太には、どうしてそれで休むのかは分からなかったが。
「はあ……。会長の不器用さも悪いが、君も大概だと僕は思うよ。まあ、一人で考えてみてくれよ。近いうちにまた迎えに行くから」
それだけ言うと、副会長はどこかへ消えて行った。
副会長の言った言葉の意味が分からなかった翔太は、しばらくそこで立ち止まった後、急いで正門へ向かった。
「好きでもない相手にあそこまですると思うかい?」
副会長の独り言は、誰にも拾われることはなく、ただただその場に音として響いただけだった。
これにて第一章。終了になります!
ここまでのお付き合い、ありがとうございました。
正直、ここまで多くの人に見てもらえるとは思っておらず、ただただ驚きの毎日でした。
まだまだ、生徒会長の話、登場人物の過去の話、夏休み、文化祭と、書きたいことは山ほどあるのですが、しばらくお休みをして、書き溜めをして戻ってこようと思います。あと、そろそろゲーム生活に戻りたいですw
第二章は、生徒会長の雫を中心に書いて行こうと思います。これからも、よろしくお願いします。




