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今回はタイトルなしです。なんだか、タイトルを付けるのが失礼だなと感じたので。

「遊園地の最後と言ったら、ここよね」

「定番だからな。さあ、行くか」


 しばらく歩き、遊園地の入り口近くまで戻ってくると、かなり大きな、某小学生探偵漫画なら脱輪して転がってきそうな観覧車がぐるぐると回っていた。


「ここなの?一番のお楽しみは」

「そうさ。ほらほら。早く行かないといい景色が見れなくなるぞ」


 夕焼けがまだ少しの残る青空と混ざり合って、どこか神秘的な風景になっている。告白をするのなら、この風景を背にするのが一番ロマンチックだと、翔太は考えていた。


「観覧車なんて何年ぶりかしら」

「俺もだ。というか、家族以外と乗ったのなんて初めてだ」


 二人で向かい同士になるようにゴンドラに乗って、しばらくはそこまで高くないからと、軽い話から始まった。

 外よりも少し涼しいゴンドラ内で、二人は少しゆったりとした姿勢になっていた。


「今日一日。楽しかったな。絶叫系に乗れなかったのは残念だが」

「あら。じゃあ今から乗りましょうか?私、最初のバイキングで思ったのだけど、多分もう絶叫系は大丈夫よ」

「……遠慮しておく。今日はカッコイイ翔太でいたいんだ」


 ゴンドラが頂上に行くまで十分。告白までの導入を考えると、五分前くらいにはそっちの方に話をシフトさせたかった。


「今日の翔太君も格好良かったわよ」

「そう言ってくれると嬉しい。そんなこと言ったら、麗華だって、可愛かったぞ」

「そう?どこら辺がかしら?」

「いつもより見た目に気合が入ってるし、今日一日の、楽しそうな麗華が、いつもとは違った顔で可愛かった。あと、あのお化け屋敷のが特に可愛かったな」

「それは忘れなさい。お化け屋敷なんて単語はもう今後一生発さなくていいわよ」


 今日一日、楽しかったことを振り返っていると、ゴンドラはどんどんと高くなっていき、景色が良くなってきた。

 空から遠くに見える街の灯り、近くには園内の照明や夕焼けに照らされて紅葉のように見える山々。うっかり、景色だけを楽しんでしまいそうなほどに、いい景色で、自然とゴンドラ内も、落ち着いた雰囲気になっていた。


「……なあ、麗華」


 姿勢を正し、まっすぐと麗華の方を見て、翔太は話始めた。


「何かしら?」

「この前の話、覚えてるか?」

「この前?」

「麗華のことを好きになるって話だ」


 いい切り出し方が見つからず、少し直球過ぎる切り出し方になった。

 翔太の出した話題に、そういう話なのかと、そう察した麗華は、一度座り直して、姿勢を正した。


「ええ。覚えているわよ」

「あの後、色々考えたんだ。俺は麗華のことをどう思っているのかって」

「私もよ。あの後、小野翔太という一人の男の子のことをどう思っているのか、何度も考えたわ」

「そうか。それで……俺は思ったんだ」


 あの日、告白すると宣言した日から、何度も何度も考えてきた。本当の自分の思いを。自分はただ、レインが好きだから、レインの現実での姿も好きになったんじゃないかと。

 それも、好きということなんだろう。ゲームのなかがどうであれ、レインはレイン。現実でもレインであることには変わりない。だから、別に深く考えなくてもいいんじゃないかと思ったこともあった。


「俺はゲームでのレインが好きだ。明るくて、優しくて、面白くて、何年も一緒にゲームしてきて、相棒のような存在のレインが」

「…………そう」

「でもな、同時に思ったこともあるんだ」


 一拍置いて、小さく深呼吸をして。この後の言葉を噛まないよう、詰まらせないよう、慎重に一音一音。言葉を紡いでいく。




「俺は麗華のことが好きだ」





 静寂。ゴンドラの小さな機械音だけが、数十秒間。聞こえるだけ。だからか、翔太の耳には、その小さなゴンドラの音が、何倍にも大きく、建設機械の騒音のように聞こえた。


「そう。そうなのね」

「ああ。クールで、料理が上手くて、実は努力家で内面は明るくて、ふとした時に出てくる笑顔が可愛くて、二人の時はグイグイ来て、でも実は怖い物が苦手だったり、グイグイ来られると動揺したりする。そんな、麗華の全てが、俺は大好きだ」

「嬉しいわ。そこまで言ってもらえるなんて」


 まっすぐと、麗華の顔を見て、自分の思いを伝えた。緊張したし、アドレナリンが出ているとはいえ恥ずかしい。でも、心のどこかに重くのしかかっていたものが無くなったような、そんな軽さを感じた。




「だから俺は、レインでもある桜麗華のことが、大好きだ。付き合ってくれ」



「ッ……!?………………」


 そして最後に。自分の一番伝えたかったこと。本命の告白を、麗華から一切目をそらさず、瞬きもせずに、伝えた。

 告白まではされないと思っていたのか、麗華は驚きの表情を見せ、そしてすぐに、瞳から大粒の涙が、零れ落ちた。


「返事を……貰えないか?」


 またしばらく、沈黙の時間が続いた。沈黙の時間の中で、二人とも動かず、ただゴンドラだけが頂点に向かって移動している。

 本当は頂点に行った瞬間に告白しようと思っていたが、少し急ぎ過ぎてしまい、頂点が来るのは、あと三十秒はあるだろう。


「返事は……」


 二十秒後。沈黙の空間を破いたのは、麗華だ。

 耳に麗華の声が届いた瞬間。翔太の心臓は破裂するんじゃないかという程に、バクバクと音を出していた。ゴンドラ内は涼しかったはずなのに、翔太の額からは汗が流れていた。それを拭く余裕すら、今の翔太にはなかった。明るい夕陽が、翔太を照らしている。


「……ああ」


 ようやく絞り出せたその声は、掠れていて、今の翔太の不安さを表しているようだ。



「これよ」


 瞬間。翔太の視界から麗華の顔が消えた。麗華の顔に視線を固定していた翔太に映ったのは、麗華の着ている服。そのおへそ辺りだ。だがすぐに、また翔太の視界に麗華の顔が映った。今度は、超至近距離で。



「んっ!…………ん……」

「…………………………」


 背中に手を回し、ぎゅっと抱き着き、唇と唇を合わせた。

 直接ではないが、分かりやすい答え。

 最初は驚きでどう反応すればいいか分からなかったが、すぐに翔太も麗華の背中に手を回して、お互い抱き合うような形になって、キスを続けた。


 初めてのキス。唇に伝わるぷるっとした感触を、翔太は一生忘れないだろう。美しく輝く夕焼けをバックに二人は目を閉じ、息を止め、キスをしたまま、しばらく二人で抱き合っていた。



「はあ……はあ……まさかのまさかだった」

「うふふ。私の思い、伝わったかしら?初めてなのよ」


 何秒、何十秒、何分経っただろうか。二人とも時間なんて忘れて、ただ息が切れるまで、キスをし続けた。

 どちらが先か、キスを終え、唇を離した二人は、今は隣同士に座って、呼吸を整えていた。


「それは嬉しい。じゃあこのキスの責任は、一生かけて取るよ」

「うふふっ!大好きよ。翔太君」


 隣に座っている麗華が、ぎゅっと、翔太の胴体に手を回して、胸板辺りに顔を潜らせた。


「っと、そろそろゴンドラが下に着くぞ。降りる準備をするか」

「そうね。続きは家で……ね?」

「やっと麗華とイチャイチャできるのか。楽しみだ」

「今夜は寝かせないわよ」


 しばらく抱き合い、お互いの温もりを確認していると、ゴンドラが下に着いた。

 ゴンドラを下りた二人は、腕を組んで、遊園地から出て、帰るために駅に向かった。


「麗華、今日の夕飯はどうする?」

「あら、てっきり翔太君のことだから、何か決めているのかと思ったけど、そうじゃないのかしら?」

「ああ。実は……。さっきの告白のことばっかり、予定の時から考えてて、その後のこと、すっかり忘れてたんだ」


 二人で電車に揺られながら、翔太はずっと麗華の顔をチラチラと見ていた。

 行きの電車よりも距離は近くなっていて、手は組んだまま。互いの太ももが触れ合い、麗華は自分の顔を翔太の肩に預けている。

 完全に公衆の面前。電車の中でいちゃつく、昨日までの翔太なら舌打ちをしていたようなことを、翔太は幸せの絶頂にいる気分になりながらしていた。


「ふふふ。それじゃあ帰ったら何か作りましょうか?」

「いや。今日は記念日だ。どこか行こう」


 急いで翔太はポケットからスマホを出して、家に帰るまでの数駅に、どこかいいお店がないか探し始めた。


「恋人が横にいるのにスマホを触るなんて、悲しいことをするのね」

「お、おう……そ、そうだな。ああ」


 スマホで検索しようとしたところで、麗華が翔太のスマホの電源を切った。何事かと見ると、麗華が少し拗ねたような顔をして、翔太のことを上目遣いで見ていた。

 が、そんなことよりも、翔太は、麗華から始めて恋人と直接言われて、思わずスマホを落としてしまいそうになった。

 もうゴンドラから降りてしばらく経って、だいぶ心臓の音も落ち着いてきたというのに、また心臓がバクバクと音を立て始めた。


「どうしたのかしら?」

「い、いや。何でもない。それじゃあ、家の最寄り駅を少し歩いてどこかに行こうか」

「分かったわ。それじゃあ、私はしばらく翔太君を感じるとするわね」


 そう言うと、麗華は翔太の肩に頭を預けて、目を閉じた。眠ったのかと思い、頭を撫でると、麗華は笑みをこぼして頬を緩めた。


「ほんと可愛いな。これが俺の彼女ってマジか……」

「なんだか彼女って言われると、ランクダウンした気がするわね。嫁でもいいのよ」

「うーん……。もう二年待ってくれ」

「ッ!……嬉しいことを言ってくれるわね。完全に不意打ちだったわ」


 翔太の突然のアタックに、麗華は一瞬反応が遅れて、そしてすぐに、麗華の顔がリンゴのように真っ赤になり、翔太の肩に乗っている麗華の顔が、熱くなった気がした。


「嫌か?」

「嫌なわけないわ。逆に、絶対に逃がさないわよ」

「まあ、二年後にすぐ結婚ってわけにもいかないだろうけどな」

「どうして?」

「その時はまだお互い高校生だろ?まだ早いと思う。それに、俺はしっかりとした職に就いてから結婚したいんだ」

「真面目なのね。でも、確かにそうよね。私ももっと妻として相応しい女にならないとだわ」

「なんだそれ。麗華はもう十分凄いじゃないか。完璧人間って感じだし」


 ずっと目を閉じて会話していた麗華だったが、翔太の言った完璧人間という言葉に反応して、少しだけ目が開いた。


「私は完璧なんかじゃないわよ。むしろその逆。まだまだだわ」

「そうか。じゃあ、もっと凄くなった麗華が楽しみだな」


 麗華は目を閉じ、再び翔太の肩に頭を預けた。

後一話書いたら、一旦第一章終了になります。そしたらしばらく書き溜めして、また戻ってきたいと思います。次話は頑張れば明日に出せます。頑張ります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] えんだあぁあーーー
[一言] ゴンドラ、前後の中身意外に丸見えなんだよね…下り中なんて後ろのゴンドラから丸見えよ! きっと後続は景色じゃなくて2人をめっちゃ見てたと思う(ノ∀`)
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